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数IIの授業

数IIの先生はみんなから恐れられていた。いつも険しい表情で、少しでも騒ごうもんなら怒号が飛び、隣の教室まで静かになってしまうほどだった。噂ではどこかの教室に、先生が怒って壁を殴った形跡が残っているという話も出ていた。
そんなわけで、先生が入ると急に音がなくなり、生徒の背筋がピンと伸びる。数IIは唯一緊張感のある授業だった。

もちろん私も怒られたくないのでしっかり聞こうと気を入れていた。が、全くわからない。変な記号ばっかりが出てくるし、ルートとかいうややこしい、生活に全く関係のないことばかり。今でも何をやってたかすらあんまり覚えてない。私は、黒板にチョークが擦れる音と低い先生の声に心地よさを感じ、そのまま...

「やまざき!やまざき!」
ハッとするといつのまにか寝てたことに気づいた。先生に呼ばれてしまった。

「立ってなさい」
寝起きのぼんやりしてる頭だったので言われるままに立った。しかし前から二番目の真ん中辺りの席だったため、人に邪魔になるので
「後ろに行きなさい」
と言われた。
言われるがまま後ろに立った。従順なので。

よくアニメで廊下に立たされるという罰が描写される事が多いけど、私は全く意味がわからなかった。水の入ったバケツを両手に持たされるのはわかる。重たいのを持つのは嫌だから。でもただ立たすってなんなんだ?
立っているとそんなことを考えられるくらいに眠気が消えていき、頭がシャッキリ起きてきた。そこで私は気付いた。そうか、先生は私を起こすために立たして眠気を覚まさせてくれたのか!と。
私はこの先生に厳しさ以上に何か温かいものを感じとっていた。やっぱり生徒のことを一番に考えてくれる人だったんだ!
私は先生の気持ち受け取ったよ、と心の内に思い、目が覚めたので席に戻った。

この一連のことはなぜか学年中に広まり、別のクラスの友達にも「あんためちゃくちゃやな」と言われた。
立たされるのも相当だけど、先生の許可なしで席に戻るなんておかしいというようなことを言われた。先生に怒られなくて良かったね、とも言われた。
え、でもきっと先生の意図は...と思って席を戻った後のことを思い返した。

あ、先生...ぽかんとした顔してた...???

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