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猿でもわかる 社長 痛車 香港映画 報道陣 みっともない 朱子学 フジツボ 震源地 殴り合い

 「カーーーット!!」文鎮を地面にたたきつけると同時に監督は席を立ち、男優に殴りかかる。彼の名は朱子学「しゅし まなぶ」。日本でも3番目に有名な映画監督であり、成人男性からの評価は高い。即ちAV監督である。
 学は新たなスタートを切ろうとしていた。AVは大人になってからというこの国の常識は、一刻も早く改めねばならぬ。彼が今撮っているのは『誰でも楽しめるエロ』、通称ダレロ。『エロくあれ、しかし、清くあれ』をモットーにし、新プロジェクトは起動している。ただ一つの問題を残して…。

 学は香港で人気が高い。日本のエロ自体かなり奇抜なものだが、学の性癖はそれを優に超える。それが香港の金持ち社長の目に留まったのだ。彼らから学に香港での撮影依頼が出たのは2週間前の話である。
 学は困った。香港映画は真面目なものが多く、とてもエロの入り込む隙はない。それに香港映画を俗物で汚すことがあっては、日本人からも叩かれてしまうだろう。そこで学は考えた。
 撮影の時点で報道陣に出入りしてもらう代わりに、いかにも香港で撮影したように報道してもらうのである。みっともないとお思いだろうか、そうだろう。人とは汚いものなのだ。だがあの社長の依頼と自分の夢、どちらも叶えるためには仕方なかったのだよ。学は隣にいる猿に言い聞かせた。賄賂の話は猿でもわかる。猿は右手を学ぶの膝に当て、「反省」のポーズをとった。

 ついに撮影である。ボンネットに涼宮ハルヒが描かれた痛車の上で、みっともない体勢の女優が恍惚とした表情を浮かべる。
 彼女の演技を見ながら、学は生態系の頂点であるヒトデを取り除くと、直接の被捕食関係ではないフジツボが増えるという生物の授業を思い出した。これで良かったのだ。神をヒトデとするならば人はフジツボである。ヒトデが退場したこの世界で、フジツボは可憐に交わるのだ。彼らの交わりは新たなフジツボの誕生、そう、人生の震源地なのである。

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