高円寺の銭湯はネス湖に通ず

あんまり知られてないことだけど、高円寺にある銭湯・小杉湯のミルク風呂はイギリスのネス湖につながっている。そう。ネッシーが棲んでいると言われているネス湖。私は長い長い研究の結果、ネス湖のとあるポイントが空間の歪み?高次元的なやつ?で、何でもない普通の銭湯のお風呂と繋がっていることを突き止めた。説明してもどうせわかってくれないので、あんまり細かいことは聞かんといて欲しい。ごっつムカつくねん。
今日の夕方、私は高円寺の地に降り立った。「ネス湖=小杉湯」の研究生活はたいへん長かったが、実際に現地に来るのは今日が初めて。古着とか居酒屋とかがたくさんあるが私はそういうのには一切興味がないので銭湯へ直行。番台さんに470円を払い男湯のスライドドアを開ける。土曜夕方の小杉湯はさすが人気の銭湯なだけあって、おじさんや、ロン毛や、太おじさんや、タトゥー男や、ロン毛で賑わっている。ひとまず身体を洗い、ミルク風呂へ入るための準備を整える。小杉湯には左からジェットバス、あつ湯、ミルク風呂の3つが並んでいる。このミルク風呂が、ネス湖に通じているというのか。長い研究の成果がついに出る時が来た。私はこれまでの出来事(教授に研究を馬鹿にされて揉み合いの喧嘩になったこと・研究室にゴキブリが出て思わず泣いてしまったことなど)を思い出して全身がぷるぷる震えていた。深呼吸をし、足先からゆっくりと、ミルク風呂に入った。

おほおぉ……

なんて気持ち良さだろう。少しぬるめのお湯はほんのりと甘いミルクの香りがする。首まで湯に浸かるとまるで自分の身体が浮いているようだ。実はここへ来る途中駅員と口論になり、そのストレスで全身に蕁麻疹が出ていたのだが、その全てのストレスが消え去るほど、リラックスしていた。私は研究のことなど忘れ、しばらくお湯に浸かっていた。いかんいかん。私は研究をしに来たのだ。このどこかに、ネス湖に通じるポイントがあるはずなのだ。それを探さなければ。しかし長く浸かっていたせいで頭がぼーっとする。一度シャワーで頭を冷やそう。ミルク風呂を出てシャワーを浴びる。栓を捻ると冷たい水が出てきて一瞬息ができなくなる。あぶねえあぶねえ。頭もスッキリした。私は何をリラックスしていたんだ。なんかムカついてきた。また蕁麻疹出そう。気を取りなおしてミルク風呂へ向かう。先程と同じく片足からゆっくりと、やがて全身をお湯につける。

んんおほおぉぉぉ……………

気持ちが良すぎる。水で身体が冷えていたのでぬるめのお湯が沁みる。なんて柔らかいお湯なのだろう、肌までもちもちになっている気がする。日々の悩み事やイライラがどうでも良くなってきた。このまま何もせずに1ヶ月くらい暮らしたい。隣の子供がアヒルのおもちゃをお湯に浮かべて遊んでいる。普段うるさい子供を見るとすぐさま怒鳴りつける私だが、いまは限りなく心が穏やかなので全くムカつかなかった。子供がアヒルの顔を湯船から出しながらおどけた声で言う「恐竜だ!グワ!グワ!グワ!」恐竜…。首長竜…。ネッシー…。ネス湖…。ネス湖!!!!まずい。大事なことを忘れるところだった。すぐさま私は隣の水風呂にダイブした。心臓が縮み上がって数秒息が止まる。あぶねえあぶねえ。でも頭はスッキリ。私は何をしにきたと言うのだ。しっかりしろ。魚類が初めて陸地に上がった時みたいに水風呂から這い出て、水風呂まで四つん這いで進む。よし、これが最後だ。ミルク風呂のお湯へ、片足をゆっくり近づけていく。

おほおううううあぁぁぁぁ……………………
うううぅぅう…………おほぉぉぉ……………
んむうううう……あぁぁぁん………

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