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和文英訳演習室2022年11月号

【訳文】ペンネーム I am a cat.
Among the words to describe Elon Musk is "speed." The lightning speed with which he absorbs a large amount of information and knowledge is nothing but a miracle. Also incredible is his quick decision-making as CEO of his companies.

Whenever Elon Musk finds something he doesn't understand, he grills front-line engineers: he bombards them with a barrage of questions. An engineer who once worked at SpaceX said, "It was Musk himself who was trying to learn things by quizzing me. He would never let you go until he learned 90 percent of what you know."

The engineer casually talked about the episode, but still, it vividly illustrates the unique way Elon Musk learns. "He keeps questioning aerospace engineers until he acquires 90 percent of their expertise." Indeed, he never wastes time asking irrelevant questions; he only poses relevant ones, getting straight to the point in a flash.

検討会後の補足【引用符の使い方】
英語の引用符ほ使い方
(1) 直接話法:発言や文章をもとのまま引用する
(2) 特別な使われ方をしている語句を示す
(Practical English Usage より)
日本語の課題文には元社員の言葉らしきものが2か所「 」紹介されています。英語で書くばあい、これがもとのままの発言であれば直接話法で書き、そうでなければ間接話法で書かなければいけません。少なくとも最終段落では間接話法で書くべきでした。
※以前の課題で出題者からの解説があったそうです。

みなさまの答案を拝見しての補足
【和文英訳と情報構造】

情報構造を理解すると、読解はもちろん、英文を書くときにも役立つ。

英語の文は原則として「旧情報から新情報へ」流れる
情報の焦点(新情報の中心)は文末に置かれることが多い
文末焦点の原理
『SKYWARD 総合英語』より

...ということは、
“Speed” is among the words to describe Elon Musk.
の焦点は Elon Musk
Among the words to describe Elon Musk is “speed.”
の焦点は speed
2つの文の意味はおなじだが、焦点が異なる。上の文は、スピードを旧情報、イーロン・マスクを新情報として扱いたいばあいに使う。下の文は、逆にイーロン・マスクを旧情報、スピードを新情報として扱いたいばあいにふさわしい。

【文と文のつながりを強化する方法】
(1) 複数の文の主語をそろえて視点を定める
(2) 既出の情報、読み手がすでに知っている情報を主語に使う
『技術英語の基本を学ぶ例文300』より

(1) 主語をそろえるとは?
例えば S = Elon Musk として
S → A. S → B. S → C.
イーロン・マスクはAであり、Bであり、Cである。
(2) 既出の情報を主語に使うとは?
旧情報から新情報へしりとりをつなげていく。
S → A. A → B. B → C.
イーロン・マスクといえばA。AといえばB。BといえばC。

(1)でつなげた例、主語をそろえる
Elon Musk is often described as “speedy.”
He is able to absorb a large amount of information and knowledge with lightning speed.
He is also capable of making decisions very quickly as CEO of his companies.
※主語はすべて Elon Musk と He

(2)でつなげた例1、旧情報から新情報へ
Among the words to describe Elon Musk is "speed."
※焦点は speed
The lightning speed with which he absorbs a large amount of information and knowledge is nothing but a miracle.
※焦点は a miracle
Also miraculous is his quick decision-making as CEO of his companies.

(2)でつなげた例2、旧情報から新情報へ
“Speed” is among the words to describe Elon Musk.
※焦点は Elon Musk
He is able to absorb a large amount of information and knowledge with lightning speed.
※焦点は speed
Also speedy is his decision-making as CEO of his companies.

以上のように、「(1)主語をそろえる」あるいは「(2)旧情報から新情報へのしりとり」を行うことによって、文と文のつながりを強化することができる。上記の3つの例はいずれもほとんどおなじ内容を表しているが、情報構造がまったく異なる。その結果、読み手に与える効果が異なることに注目してほしい。

【訳文提出前に考えたこと】
吾輩の考えるよい英訳の条件
(1) 和文を読んで読者が描く絵と英文を読んで描く絵がおなじ
(2) 直訳にこだわりずぎず、和文が伝えようとしているメッセージを自然な英語で伝える

提出前の訳文の検討方法
英英辞典などで疑問点を調べる以外に...
(1) 各種の検索でヒットした件数をみて、自然な表現かどうかを確認する
(2) トピックに関連する記事を読んだり動画をみたりして、背景知識をえるとともにネイティブの表現をぬすむ
(3) 翻訳エンジンに自分の書いた英文を「和訳」させ、ねらいどおりになっているかどうかを確認する

以下は訳文について
(a) ~を表す言葉のひとつに「スピード」があります
日本語では「~があります」が多用されるが、There is 構文がふさわしいとはかぎらない。ここでは Among the words ... is "speed." のように、重点となる文末を "speed" とした。用例を調べたところ、ここでは speed の引用符はあってもなくてもよいけれど、原文にあわせて一応つけておいた。

(b) 短時間でものすごい量の知識や情報を吸収する能力は
日本語では「能力」が主語だが、ここでは前の文の最後の "speed" とのつながりを重視したい。したがって(構文はやや複雑になるものの)主語を speed にして、The lightning speed with which he absorbs a large amount of information and knowledge is ... とした。日本語の語順どおりに knowledge and information としなかったのは、用例数を比較した結果。

(c) 現場のエンジニアを質問攻めにします
関連動画を何本も見たところ、この文脈で grill がよく使われていた。ただし、これだけではノンネイティブには伝わりにくいと考えて、より具体的な説明をコロン以下で補足した。he grills front-line engineers: he bombards them with a barrage of questions.

(d) 僕に質問をふっかけることで、彼自身が勉強していたんですよ
「他の誰でもなく、まさに彼(イーロン・マスク)自身が」と伝えたいので、強調構文にした。また、quiz me という表現も、動画や関連記事でよく使われていたので、It was Musk himself who was trying to learn things by quizzing me. とした。

(e) イーロン・マスクの特質をよく表しています
「特質」だけでは何を指しているのかがあいまいだ。より具体的に「イーロン・マスクの独特な学習法」と考えて、it vividly illustrates the unique way Elon Musk learns. とした。

(f) しかも
ふつうに考えれば Furthermore とか Moreover とか In addtion としたくなるところだ。しかし、原文の流れから「いやそれどころか」という意味だと解釈して、Indeed を使ってみた。

(g) ダラダラと質問を続けるのではなく
「ダラダラと」を lazily と直訳するのは文脈にあいそうにない。したがって、he never wastes time asking irrelevant questions とした。

(h) 短時間で密度の濃い質問をぶつけるのです
「密度の濃い質問」は dense questions などと直訳できそうにない。asking irrelevant questions と対比して、he only poses relevant ones, getting straight to the point in a flash. とした。最後の in a flash は第2文の The lightning speed とのイメージのつながりから、縁語として採用した。

【参考資料】


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