人生ドラマ「山河令」


はじめまして。
突然ですが、オタクはズブズブに沼った作品を「人生」と形容することが多々あると思います。私もオタクとして十数年生きてきたのでもちろん「○○は人生」という言葉を使ってきました。
今回はどうしても「人生ドラマ」の話を書きたくてnoteをはじめました。

私の人生ドラマは「山河令(さんがれい)」です。
「山河令」は分類としては中華ブロマンス武侠ドラマだと思います。中華ブロマンスドラマといえば、ドラマだけではなく原作小説の『魔道祖師』も日本で大ヒットした「陳情令」なら割と知名度も高くなってきた気がするけど…山河令はオタク人気は高いけど陳情令ほどにはなってない気がします。
まだ日本で見られる媒体が少ないからでしょうか。

山河令は陳情令に比べると、随分検閲ギリギリを攻めた内容の武侠ドラマです。原作はpriest先生の『天涯客』というボーイズラブ小説で、山河令はこの小説を元にして、恋愛ではなく兄弟情を前面に押し出すことで検閲をクリアして世に出てきています(但しオタクとしては何故検閲をクリアできたのかよく分からないシーンが散見されます)。

优酷(youku)のYouTubeチャンネルで無料で全話見られた時代、私は英語がマジで全然読めない人間だったにも関わらず萌えのあまり英語字幕で山河令を完走し、最終的にツイッターで合計約二万字の感想を書きました。
通学中に電車で見て、バイト行く途中の電車で見て、帰って寝る前に見て、朝起きて見て……日常生活の記憶を8割方失いながら山河令を完走したあの時間は、人生史上三本の指に入る勢いで人生が輝いていました。

今は山河令の布教というより、どんな性癖持ちのオタクなら山河令が人生ドラマになるのかを書きたいという気持ちが2割、ただ単に私が山河令に狂っていたい気持ちが8割でnoteを書いています。
もちろん布教もしたいけど、私は布教が得意じゃありません。だから未来の自分が読み返して共感できたら良いな、くらいの気持ちです。
要するに、主観だけで書いた、何の意味もないけど無駄に熱量のある駄文です。勢いだけで書いています。重要な情報は何もないですが、オタクが狂ってる姿が好きな人にはいい娯楽かもしれません。

全36話の結末に関してのネタバレはありませんが、キャラクターの身元などについてはネタバレしています。ネタバレ前にワンクッション入れるので気になる方は飛ばしてください。

・「山河令」とは何か〜これはブロマンスなのか?〜

本当はこういう見出しなら、このドラマは何月何日に公開されて全何話で、という話をするべきなのかもしれませんが、そんなことはどうでも良くはないけど調べたらすぐに出てくるから敢えて書く必要はないでしょう。

山河令が「人間の愛と後悔の話」だということを伝える方が100倍大切だと思います。

山河令の主要な登場人物は、皆人を愛した経験のある、または愛することを知っていく人物です。その愛が友情であれ恋慕であれ、また愛の行き着いた結果がどうであれ、とにかく人を愛することでしか得られない感情を知り、後悔に苛まれ、それでも今に留まらず前に進むしかない人たちです。

そこで特に中心に据えられているのが、主人公である周子舒(ジョウズーシュウ)と温客行(ウェンコーシン)です。
この二人が原作ではCP扱い、ドラマ内では「知己」という関係で結ばれた最強の二人です。

英語字幕では'soulmate'と翻訳されていた「知己」という言葉、すごくいい言葉です。二人の関係を「検閲を潜り抜けるために恋愛要素は抜きにしたが、間違いなく友情以上の何かを抱えている」と解らせてくるような絶妙な言葉です。
言葉自体は陳情令でも使われていて、度々「結局知己とは?」と疑問を感じるオタクを見てきたのですが、山河令を見ても「知己とは?」となることはほぼ確定です。知己だからという理由で済むか?というようなクソデカ感情を何度も見せつけられます。
このクソデカ感情がオタクの情緒をグチャグチャにしていく。

そもそも、厳密に言えば、山河令や陳情令は「ブロマンス」というよりは「耽改(耽改劇)」「社会主兄弟情(社会主義兄弟情)」というジャンルのドラマのようです。
これが何かというと、中国の規制上原作のBL小説のまま実写化すると当然検閲をクリアできないため、主人公二人の関係を恋愛関係ではなく「強い絆で結ばれた義兄弟です!」として描くことによって検閲をパスするように作られたドラマのことを指します。社会主义兄弟情の語源はブロマンスドラマの走りである「鎮魂」だそうです。
参考:百度百科-耽改剧/百度百科-社会主义兄弟情
(上の百度百科の記事ですが何故かリンクを貼れませんでした。検索したら出てきますのでぜひ調べてみてください。)

世間一般的なブロマンスは、根底にあるものが「恋愛」ではなく「友情」であるという前提によって成り立つイメージです。個人的には、この辺りは『BANANAFISH』的ニュアンスが近いかなと考えています。
私はブロマンスについて第三者的な意見を述べられるわけではないので、ここに関してはあまり突っ込まれたくありません。恋愛感情とは何を定義とするか、性的な欲求を含むか否かというような議論に突入すると、また別な話になってしまいますし…。

ともかく、このため山河令は「ブロマンスドラマ」とは言っても根底にあるのは友愛ではなく、原作に描かれているような感情も含む情と捉えてもいいでしょう。だから、「知己」という言葉を日本語の意味通りに「親友」というニュアンスで捉えると矛盾が生じたり、それにしては共依存的というか、微妙な関係性が透けて見えたりするのは当たり前と言えば当たり前で…この辺りは陳情令なども同じだと思います。 

ただ、この微妙に隠してるのか隠してないのか分からない感情こそ、オタクに想像の余地を過剰に与えて狂わせてくるところではないかと思います。
とてもざっくり言うと、山河令における温と周の関係は、温が周と親しくなりたい、と口説き落とすことから始まります。色々と漢詩の引用なんかもあって、温が周に(ほぼストーキングの様相で)風雅に迫るのですが、ここでは恋慕う間柄の人間に向けて歌う詩なんかも含まれていて…それはそういうことじゃないの…!?と思いますよね。

ただ、ここで勘違いして欲しくないのが、BL小説原作だからと言って描かれているのが温と周の関係だけではないということです。
温の侍女である顧湘(グーシァン)と温の主従関係、成嶺(チョンリン)と周の師弟関係、そして周の部下であった韓英(ハンイン)が周に向ける感情など、それぞれの人間関係の深さ、美しさがあってこそ、「山河令」が私の人生ドラマになりました。
例えば、山河令には周を憧憬する男性が複数名います。彼らは皆周に対して好意的でありながら、そこに内包される感情は当たり前にそれぞれのものです。
本当にものすごく当たり前のことですが、「好意」であったり「愛」と呼ばれるような感情は一元的ではありませんよね。
男女が一組揃ったら必ずしも恋愛関係に発展するわけではないし、逆に同性同士が一組揃った時に恋愛関係に発展しない、友情を築けると言い切ることもできません。家族愛、友愛、敬愛…「愛」と形容される感情は無数にあって、その感情が人間をどのように動かすかは想像もできないものです。
しかも一つの関係にひとつしか感情が存在していないわけでもないことなんて、ごくごく普通のことですよね。愛と憎しみとか共存できるものだって当然あります。
その無数の感情、行動をすべて言葉で説明するのではなくて、育ってきた環境、キャラクター性、演出、視線などの演技でお腹いっぱいになるまで見せてくれるのが山河令のめちゃくちゃ素敵なところだと思います。

私が色々なコンテンツに触れる中で感じられると嬉しいものが「信念」なのですが、武侠という世界設定上、それぞれの登場人物が皆信念を持っています。
その信念が良いものであろうと悪と言われるものであろうと、筋の通った行動を取る人間たち、時には迷って筋を通せなくなるもどかしさ、第三者によって捻じ曲げられてしまう信念、全部めちゃくちゃいい。そういうのが見たかった。彼らを見ると、私も何か筋の通った信念を持ってカッコよく生きたい…と思います。急に自分のスケールがデカくなる感じがする。

信念を持つ人間たちが、その信念を曲げてまで人を愛して傷付いて、時には自分の命も投げ出してでも人に尽くそうとする姿を余す所なく見られるドラマ、それが「山河令」です。

・「山河令」の人間狂わせポイント(ネタバレあります)

山河令の何がそんなに私を狂わせるに至ったか、私の癖や山河令から読み取った特徴を元にお話ししてみたいと思います。
重ね重ねになりますが、すべてきわめて個人的な意見です。このnoteには主観以外は何も含まれていません。

⚠️以下登場人物の身元、ストーリーに関してネタバレがあります!注意!⚠️

はじめに、主人公たちのパーソナリティと周囲の人間との関係、そして主人公二人の関係性について少し考えてみました。

二人の主人公、温と周が善悪どちら側の人間ですか、と訊かれれば、おそらくこれは二択では答えられません。それぞれ事情があるとはいえ、二人とも数え切れないくらい人を手に掛けていますし…。
それでも敢えて第三者的な視点を持って答えるならば、温は悪でしょうか。何せ鬼谷のパワハラ首領です。
周はどうでしょうか…もしかすると韓英くんや晋王(周の元主で、周のことが好きすぎて狂っている人です)にとっては筋の通った正義の人だったかもしれないけど、多分殺された側にしてみればシンプルに悪ですよね。弟分と恋仲だったお嬢様すら、尊厳ある死を与えられたとは言え周の手に掛かって殺されています。

ただ、これはあくまで二人の立場的な面を含めて判断した場合です。二人の持って生まれた性質や性格的な面での善悪はどうでしょう。
個人的には、二人とも善だと思います。二人の主人公やその他の主要人物を見ていると、山河令ってかなり性善説的に描かれているんじゃないか?という気持ちにもなります。
幼少期から生き残るために周りを蹴落として自分以外の人間を排除しなければならず、結果として悪に身を落としてしまった温、はじめは同じ方向を向いていたはずの主のエスカレートする要求に応えざるを得ず、自分が作った厳しすぎるルールで結果的に物理的に自分の身を滅ぼした周…二人とも外的な目線からは悪と判断されても仕方がないけれど、実際には本人たちがすべての責任を被るべきではないでしょう。特に温なんて本当に仕方ない以外の何物でもないし、周りの大人が全部悪いです。

ただし、山河令は二人が「その時点ではそれが最適解であった」「そうしなければ自分が生き残れなかった」という場面で起こしたアクションが、最終的に二人が愛する人たちを巻き込む始点になってしまうという最悪地獄展開があります。この辺りを書くと20〜36話くらいまでの展開ほぼネタバレになるので書きません。
そうなると、当然元が善だったとしても周りからは悪に見えてしまいます。完全悪ではなかったとしても、誰かに恨まれても仕方がないんですよね。

私は温客行を演じた俳優の龔俊さんが、山河令のインタビューで答えた「(温と周は)互いの贖罪になる」という言葉がずっと忘れられません。二人の関係をこれほどまでに明確に表した表現は多分これ以外にありません。
インタビュー記事はこちら
いくら外的要因とは言えど、結局二人の行動が起点となって地獄のピタゴラスイッチが起きてしまっている以上、罪は二人に積もってしまいます。けれど、それを責める人も許す人も結局お互いしかいません。二人を愛する人たちは、決して二人を責めません。
ここに「山河令」というドラマにおける主役二人の関係性が表れていると思います。温を演じた俳優さんからこういう表現が出てくることこそが、山河令において二人の間の感情を「友情」とか「義兄弟への愛」という一括りの表現で捉えられない証拠ではないでしょうか。
尤も、人間の感情を一括りで捉える方が難しいのは、愛が一元的ではないのと同じことだと思います。家族であり友人であり、家族でも友人でもなく、通じ合ったと思うと致命的なすれ違いを起こす温と周の関係性がとても味わい深くて、後に行けば行くほどこの関係性が「効いて」くる……山河令、最高……。
この人たちは基本的に話し合いというものをあまりしないので、すれ違いは定番ですよね。話し合えば何とかなっただろ…という地獄がまあまああるので、もう少し話し合いをしてほしかったです。
でも話し合いをされると地獄が見られなくなるので、コンテンツとしては話し合わないのが正解ですね。

そして、山河令において人間同士の愛を表現する方法として取りがちな行動が、「命を惜しまない」だな、と個人的に考えています。

オタクにとって永遠のテーマは、「一緒に生きるor一緒に死ぬ」「一人が生きたかったはずの未来を二人分生きるor一人で生きることに意味はない」だと思っているのですが私だけでしょうか?
愛情表現の最上級が「命を賭ける」であることは、それこそ中世から続くような普遍的かつ美しいテーマだと思います。
思想的に分類してみると、「一緒に生きる」や「一人が生きたかったはずの未来を二人分生きる」は、やや光の気配を感じるというか、生を諦めない意志を感じますよね。「生きる」という行為自体が、相手に対する愛情を表すと考えているような感じです。
一方、「一緒に死ぬ」や「一人で生きることに意味はない」という考え方は、「生きる」という行為自体への執着というよりは、相手と共にあることを最も重視している感じがします。

これはあくまでも私のきわめて個人的な意見ですが、後者はやや自己中心的で、傲慢にも感じます。
相手が自分に生きていてほしいと思っていても、この人は相手の気持ちとかに関係なく、相手と同じ場所に行くことを「自分の意思で」選んでしまうということですよね。
私にとってフィクションにおけるこの感情は、何故か根拠もないのに相手が下で受け止めてくれると確信して紐なしバンジーするような、無自覚な身勝手さと熱烈さがあるように感じられて、本当に本当に好きです。

山河令においては「そういうこと」です。具体的にネタバレしたくないあまりこのような書き方になってしまいましたが、もし私と同じ癖をお持ちの方は「25話以降を震えて待て」ということだけお伝えしたいです。


・おわりに〜「山河令」を見てください〜

本当はもっとキャラクターデザインやそれぞれの性格、シーンについて書きたいことがあるんですが、私の文才ではネタバレせずに書くことができなさそうなのでやめました。

私は陳情令にどハマりしてから知人の中で話題になっていた山河令に何となく手をつけて、えげつないハマり方をしてかれこれ一年半ほど同じ話をするオタクになってしまいました。
山河令をYouTubeで見ていた頃、そんなに早く日本にやってくる訳がないと思っていたので、ツイッターにストーリー整理と感想記録のために、とにかく事細かに台詞などを書いたツイートを垂れ流していました。
それが日本で放送されます!ということになったので、大急ぎでふせったーに格納して時々見直しているんですが、最終的に約2万字分で狂っていました。本当に終盤に行くにつれて感想がイカれていくので、楽しそうなのが伝わってきます。私は山河令に狂っている自分の熱量が単純にキモオタのそれなので、気持ち悪くもあり、こんなに一話一話に感情移入できるってめちゃくちゃ幸せなことだなとも思います。
これからもずっと山河令に狂っているオタクでいたいです。
11月23日からBS11で毎週平日15:29から無料放送が始まるそうなので、私も学校とかバイトがない日は見ます。家ではBlu-rayを観られないのにBlu-rayディスクで円盤を購入した愚か者のため、久しぶりの山河令を浴びないと気が済みません。

どうか沢山のオタクが山河令を見て狂ってくれますように。


余談
書き切れませんでしたが、私の山河令での推しキャラは葉白衣(イェバイイー)と韓英くんです。二人とも主人公二人に直接関わってくるキャラクターなのですが、特に葉白衣先輩は「先輩」なので、経験してきたことの重さとそれを乗り越えて磨かれた精神的な硬度、人を愛する気持ちの重さが桁違いです。知れば知るほど作中で一番意志が強くて面倒見が良くて美しい人で、最終話の頃にはオタクが全員好きになってると思います。
韓英くんは「クソデカ忠義」という言葉に尽きます。正直登場回数がめちゃめちゃ多いわけではないキャラクターですが、出てくる度に周や周と関わる人たちに対しての態度に誠実さが滲み出るような、とにかく忠義を重んじる魅力的な人です。

そしてもう一人、蝎王(シェワン)というキャラクターがいます。この人本当に本当にガチでオタク向けのキャラクターです。
蝎王さんは儚い時もかわいい時もあるとてもキャラの立った悪役なのですが、この子が最後に「愛」をどのように終わらせるのかをぜひ見届けて狂ってほしいです。悪辣でギラギラした蝎王さん大好き!!


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