『オムレツ』#149

有名で人気な、卵料理のひとつ。オムレット。omelette。オムレツ。omelette。スペルは変わらない。
卵をくるっとしたもの。西洋卵焼き。
日本の卵焼きはおよそだし巻き卵とイメージは一致する形状で、フライパンあるいは四角い鉄の卵焼き器でくるくる巻いて押さえて仕上げる。短手断面の外形は角丸の四角形、焼き色の渦が見えている。
西洋卵焼き、このたびは名をオムレツと申し上げるこちらは、短手断面をどう表現したら妥当か悩ましいところだが、底面が平たい楕円形、か。西洋よろしく円形のフライパンでくるりと一巻き。断面に渦はなく、むにっと焼けた外周に対し内部はとろりと半熟半生。そして俯瞰して見ると紡錘形をしている。これはおそらく、というか個人的な見解だがナイフとフォークで食する文化で発展した、寸劇だろうと。食卓に届いたオムレツに縦方向に、紡錘形の軸方向に一文字に、ナイフを入れる。綴じられたオムレツは再び柔らかい半生の中身を明るみに出す。この切開に、無上の悦楽を感じた西欧の方の文化が結実したのではないかなと、そんなことを思ったりもしてオムレツ、西洋卵焼きはロマンがあって好きです。
やや古いエッセイで、シャンソン歌手の石井好子が書いた「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」というものがある。前後にパリで研鑽を積んだシャンソン歌手である石井好子は、パリで暮らすなか料理の研究にも打ち込んでいたそうな。日本への帰国後にはその食への関心の高さから(たしか)花森安治から依頼されて、暮しの手帖へのエッセイ寄稿が始まって、その文をまとめた書籍がその「オムレツ」である、はず。はじめの一本目で面白かった、東京の洋食屋のオムレツを食べ比べてまわって味や値段や具の種類などを記録していった文章、食べ比べの発端はたしか石井さんが企画監修を頼まれて、大きな見本市か何かで提供するオムレツを考える研究の一環だったかと思うのだが、おべんちゃら無しに淡々と感想を述べていく。辛口というほど手酷くもなく、しかし甘口でべた褒めともいかないのは、ある意味、パリでの生活で研究こそすれ「日常のオムレツ」を普通とする感性からくる冷静さが、淡々とした評文になるのかと思って、「ふだんから超サイヤ人でいて、身体の負荷を減らそうとした悟空の発想のスゴさ」に大ジャンプして繋がったのがまた妙。
こう書いてきたなか、オムレツの名において最も私が好きなのは南蛮オムレツ、スパニッシュオムレツでありまして、ジャガイモやピーマンやナス、ゴロゴロとした野菜をさっと油炒めして溶き卵の卵液に混ぜ入れて、その具入り卵液をフライパンに流し込んで両面焼きをした、まるでお好み焼きのようなこのスパニッシュオムレツ、これが大好きで、さらにあけてケチャップをぶわっとかけまわして食べる。ふだん、ハンバーグにもスクランブルエッグにも何にも使わないケチャップだけれど、これにだけは迷わずたっぷり、かける。なにぶん中の具も卵も素朴で野趣あふれる感じなので、ケチャップがあると赤色と酸味とで、目にも舌にもフレッシュで、食べでがある。
たったいまこれを食べて、書ききったところ。ごち。

#オムレツ #180516

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