『引く』#102

日本語の楽さと、日本語習得の難しさとを想う動詞。
全ては奥行き、奥と手前ありてこそ。
線を引く。draw、これは絵を描くことを含んでいるが、線を引くこともできることば。建築設計においては一に線、二に線、三四が、…っと言いたくなるけど、実際、全ては線を引くことではない、けれど、今なお線で家が建つ。紙の、画面の、あちらからこちらへ一本、二本。2次元平面に奥行きをもたらし、その2次元平面が奥行きある世界に現出する。線、1次元で、だ。
数を引く。minus、正負の負、加減の減。並ぶマッチ棒を引く、数直線で元の位置から点を左に引く、何が由来で「引く」こととされたのかハッキリわからないが、根強く「引き算」として学んだこの身には何の違和感もなく、数を足すことと引くことの対関係は自明のこととしてある。足すことと引くこと。
扉を引く。pull、出入り口で扉をこちら側に動かす、あるいは引き戸、名前の通り引く扉、を開方向に・戸袋側に、引く。引き戸は開けるにも閉めるにも、取っ手を引くことが開閉の動き。蝶番で開閉する開き戸は、引いて開けることあれば押して開けることもあり、そして引いて閉めることもあってその裏も同じ。対関係。押すことと引くこと。
ドン引き、引く。zoom out、たしか語源はテレビの業界用語で、目一杯引いて撮ることから、ネタがスベってお客さんが引く、そのようすを「引く」と放送中に言われ普及し始めたそうな。引くわー、はどう英訳したらええねんと思うがひとまず、ズームアウト。ある意味、対関係はあるとも言える。ズームインとズームアウト。寄ることと引くこと。とはいえ、ネタが受けたとしても「寄るわー」とは言わない、聞いたことがない。
対関係のある「引く」と、ない「引く」があって、ただ、奥行きがあってこそ引けるものなのだよなと、多用途ないち動詞の根っこ、言いたくないけど本質、それを思ったのでした。
熟語を複数挙げて引っ張って結局大した結論にできないあたり、引くわ自分。ほら。当初通り「押す」で書いたらよかったんじゃないか。

#引く #180330

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