『割符』#243
貿易だけじゃあないんだわ、いまどき割符で認証するなんてそんなんあるわけないやろって思うんだけど、実は案外あるんだよねって思ったのが最近のこと。
朱印船貿易と勘合貿易を社会科の歴史の授業で習った頃、私たちは「割符」を学んだ。もしかしたらHUNTER×HUNTERのアリ編の導入で、ナックルとシュートが持っていたものとして知っている人もいるかもしれない。世代によってあれこれ具体的な事例は違ってくるだろうな、わたしは勘合貿易だった。貿易相手同士で、取引する相手が間違いなく、友好を結んだ相手であるか、確認するための割符。その割符、割状、勘合に、なんと書いてあったかは覚えていないのでいまテストで記述問題出されたとしたら減点だ、あるいは、ゼロ点だ。とりあえず、勘合っていう、割符を使って、相手を確かめながら安全な貿易を目指した、というわけだ。
仕組み自体はシンプルなもので、2つの用紙の端を揃えて印を書く、あるいは、印の書いた紙を割いて2つにわける。揃えて書いたら途中でズレて変な形になっちゃいそうだから後者の方がしっくりくる、それにワイルドな感じでいい。サッサッと書いてビリっと、相手に渡して「なくすなよ」と。いい。HUNTER×HUNTERでは、あんまり割符の意味がないというか、相手の持ってる符丁を奪って揃えた者が「選抜」されるって仕組みだったからなんとなく、自分と相手を確かめる一対一の関係を示すという感じじゃなかった。
これに似たようなことって、割符自体じゃなくて、握手にあるよなと思ったのがいま。向き合って、例えばスポーツの試合や、例えば仕事の会合や、例えば惜別の時や、そんなときひととひとは握手をする。その握手には単なる友好の「繋がる印」を示すだけでもなく、事実的な相手の体温や握る強さ、内面的な緊張感とか友好の感情とか、案外いろいろなものを読み取れる。相手が、信頼・信用に足る人物かどうか、はかることができる。それは、相手の知覚標識をこちらが知覚する方向だけでなく、相手の受容器をもってしてこちらの作用標識の表れを知らせる方向のやりとりがある。握手で現れる、相手と自分の環世界だ。見事にハマれば勘合は成立する。
そして、自分の両の手を合わせる合掌、これにも割符的なはめ合いがある。と思う。変な話だが、合掌、をするように自分の右手を出してみるけれど、そのまま左手は出さずに隣の誰か違う人の左手を合わせてしまうとどうなるか。すごい、すごい違和感だろうと思う。「(左手、人間の左手が合わさっていることは確かだ)(しかし心の在りどころは私の体の中心を通ることなく、両の手の力が押し合ったり引き合ったりして釣り合わない)」そんな心の乱れが起こるんだろうと想像する。やったことはない。もしかしたらファンタジーっぽく、相性抜群の二人なら合掌できるのかもしれないが、まず、自分の心の在りどころを安心して手のひらのなかに収めることはできないだろう。
印を割って得られるものは、在りどころの中心。
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