『網入りガラス』#194
多くの、街中に住むひとの家の窓にはめられているガラスは、格子状に鉄線の網が入ったものなのではないかと思う。例外があるとすれば、網無しの透明にこだわって設計された家か、法令がゆるかったころに建てられた古い家であるか、または街中でなく周りにたてこむ隣家がなくて「延焼のおそれ」がない窓であるか、そのうちのどれかであるだろう。
網入りガラスは割れた時の飛散を防ぐ仕様があるために延焼のおそれのある窓に用いられている。火事が起きて窓ガラスに高温の熱が加えられたとき、ガラスは破損する。これは衝撃によっても同じであるけれど。破損する。割れる。そのときに何の手立てもされていないガラスであれば(このごく一般的な普通のガラスをフロートガラスと言います)例えば火事の室内からの爆風によって割れたガラスがパァンと外へ飛散していく。網入りガラスは、破損したガラスが飛び散るのを防いで、“ヒビ入り”の状態でとどめる。火事の熱に対しては、網入りガラスでなく、網のない透明な耐熱強化ガラスを用いることもある。けれどそれには、窓の枠とガラス、それら一体の製品に防火設備としての認定がされていることが必須で、そして戸建住宅にあって住宅用サッシとして名を持つもの、そして木造用のものには、耐熱強化ガラスを用いた認定を得ているものがない。なんで進めないのかなぁと思い続けているが変わらず網入り一択である。住宅用で木造用で、と限定しなければ方法はある。しかしそうは言っても、住宅用でないというのは店舗等の用途に使うものだったりで、断熱性と水密性でやや劣る。特に断熱性に関してはこの酷暑の日本の夏においては死活問題だ。とはいえ普通のアルミサッシを使っている時点で断熱性はダメダメなわけだが。網の入っていない見目いい透明なガラスを視界に得るためには単純なオマカセでは獲得できないのがつらい。
なんで突然に網入りガラスについて、いつもみたいな身近な話題を扱うのでなく妙な分野専門性を出して書き始めたのかといえば、うちの私の部屋の窓ガラスが、網入りガラスなんだが、小さく熱割れしてかガラス下部のサッシと触れるあたりで網が錆びてじわじわと茶色くなっているのが目についたからであるのだ。三階西向きの窓で隣家が低くて、茶色のアルミサッシであるからそれなりに熱を溜め込んでしまう。夏の暑い日には網戸は膨張して開け閉めに苦労する。窓の外の綺麗な夕日も格子越しに見ることになる。慣れた景色ではあったんだ。気にした格子でもなかったんだ。でも、建築設計の実務を知って、この景色をもっと鮮明に見れる方法があったのだと知ったとき、見えてなかったバリアが見えた。トランプ氏が勝利したアメリカ大統領選で、敗北したクリントン候補が繰り返し言っていた“ガラスの天井”のような不可視の障壁が、網入りガラスの窓として私の目の前を包囲していたんだと結ばれた。
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