『マスキングテープ』#68
原体験は中学校の美術の授業だったようにも思うし高校の美術の授業だったようにも思う、記憶の中の体験がごっちゃになっててそれぞれ美術室と美術の先生とクラスみんなの光景は個別に覚えているんだけどなぜだか手元だけ記憶を定着できていない。手元だけは意識がそこだけに集中していたってことだろうか。
文字だった。自分の名前やニックネーム等をロゴ化するデザインの授業だった。私は3文字のゴシック体のアルファベットを、縦に3分割して中段だけ半文字ぶんズラしたシンプルな形にしていた。デザインの根拠と遊び心とがリンクしない、ノーコンセプトでノーリーズンなものだった。いまからでも嫌悪できちゃう冷め具合、って気持ちは隠そう。ケント紙にシャーペンで下書きをして、直線だけの字形なのでかなり簡単、文字の塗りはアクリル絵の具でマットにパキッと仕上げるため、マスキングテープを下書きになぞって角と直線をキメていく。
あのときのマスキングテープは肌色のうっすら下が透けるやつだった。ニチバン。幅10mm。たしか。下書きのシャーペンにかぶったところも透かして見られた。
いまわたしのペンケース(筆箱、と初めに打ち込んだもののノイズが出た。会話で使うけど書き言葉には使えん)に入っているのは、単色の白でマットな15mm。mt。定番だ。それと単色の緑でマットだけど薄いためか揺らぎがある(和紙寄りか)15mm。こちらも定番mt。マスキング・テープ、これまでこの2つでは何もマスクしたことがない。紙同士をまとめるために白を使った場合と、ラッピングをしたときにワンポイントで緑を差した場合と、あとはなんかテープとして貼った(“テープ”ってよく考えると定義ハッキリしないやつだ)、そんなところだ。言い換えてもいい。ラッピングテープ。
いったいいつマスキングテープは、その名のままにラッピングテープになったのだろう。もともとはたぶん、肌色のと、黄色のと、青色のとが所謂マスキングテープとして、美術や建築の現場で使われてきただろうと思う。そこから、ラッピングやらデザイン的に使われていく、その用途へ応用される、分野横断ジャンプの飛距離が大きすぎて追いきれない。なんだか前記事のペットボトルと同じくルーツ辿る展開になってしまったがマイ探究心発揮ブームきているのかも、お許しを。
いまや内装養生に使われていたテープは、デザインを施されてついに内装仕上げに使われている。幅広でサイズも豊富、模様付きのもあり、家具のデコレーション、床材、壁材へと使われている。本来の機能「貼って剥がせる」その粘着性がウリだったわけだがそれが、気軽にアレンジできて飽きたら簡単に変えられる手軽さとして強みになっている。マスキングテープ。
ボロボロになった床のフローリングに、色の合う茶色の幅広のを補修で貼り込んでいったときふと「あ、これは確かにマスキングテープであるぞ養生テープであるぞ、これは傷を覆い隠すマスクであるな」と妙な興奮をしたものだった。最近の体験。
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