『栓抜き』#79
いっとき、ものすごく執着して探していた期間があった。最終的には大満足のひとつが見つかってひと段落した。およそ一年くらい前のこと。
元来、アルコールならビール、飲み会ならビール、ピクニックにはビール、バーベキューなら俄然ビール。とにかくビール党なわたくしは、屋外でふと開放的な気分でビールを飲むとき、栓を開けられない問題によって瓶ビールを飲めないことにだんだんとムカムカするようになった(毎回イラついていたわけではないのであしからず)。たくさんの種類があるのに、それは瓶ビールはなおさら輸入ものがたくさんあって選択肢も幅広い。缶ビールでも色々な種類が出ていて、選ぶには事欠かない、といえばそう言える。そう、言えるのだけれど、せっかくならば、どうせならば、ビンカン問わず全てのビールを選択可能にしたい。
そのころ、友人との花見とかピクニックとか、社会人になってから外飲みの機会が多くなった(「飲み会」のうちの頻度、だろうか)。出かけて昼からビール飲む、という贅沢も覚えた。
機は熟した。熟しきった。早く狩らねばならない。
こういうとき、よくある「サッポロビール」とか書いてあるイカニモな王道品に手を伸ばしがちなのだが、持ち運びをするにあたって私はキーケースを持っていないこともあり、付ける場所がない。若干の厚みもあり、パスケースに入れるには野暮ったい。ある友人は、1センチ幅の金属を曲げて成形しただけ、といったミニマルなのを鍵の束と一緒に付けている。これがカッコいい。しかしわたしには鍵の束もない。そして薄さが最重要なのだ、パスケース。
蚤の市でもウロウロと探したし、街中の古道具屋さんは見かけて「ありそうだぞ」と思うやただちに入って眺めた。いくつか、目ぼしいものもあった。あったがしかし、アンティーク品として扱われる物品は値段4桁に達し、野口氏単独では太刀打ちできない。機は熟しきっているだのとやたら重要視して欲しがるわりには財布の紐が固くてなかなか開かない。彼女も愛想を尽かしてはじめていた。いくらなら買うんだと。
手が出ぬ出ぬと、うだうだ日を過ごしていた私はある日、かわいいキッチンツールを扱うショップを知った。時折、セレクトショップで何点か商品のロゴに見たことがあった。KIKKERLAND。そこは、マルチツールの種類がまた豊富で、そして、抜群にデザインがよかった。カニの形をした6wayは色んなツールを出す姿は阿修羅のよう。カニだけど。また、小さなトンカチの形をしたのは、ほんとにハンマーとして使う部分に加えて、ドライバー、ボトルオープナー、フック、ナイフが使える。みんな見てほしい。
そして私は最終的に、KIKKERLANDで文句のつけようがないマルチツールに出会った。求めていた機能を持ち、厚みはわずか2ミリ。搭載する機能はボックスカッターにボックスソー、マイナスドライバー、4種類のレンチに、5センチまで測れる定規が刻印されている。それらツールは、一般的なマルチツールのように、いちいち爪を掛けて引っ張り出す必要もない。三角形のプレートに全ての機能が集約されている、「トライアングルマルチツール」。選ぶうちにネックになっていた値段も文句ない。650円。最高だ。店頭で取り扱っているところが見つからなかったのでホームページから注文したら、届いたダンボールも可愛く、ラッピングされたメッセージカードも付いてきてもう、メロメロである。いっこだけ、パスケースからほんの少し、とんがった部分が突っ張ってしまうのが気になるが、やむを得ない。このトライアングルマルチツールのおかげで、屋外で美味しく、そして好きなものを選んでビールを楽しむことができるようになったのだ。夏に飲みたいフルーティーなヒューガルデン、アジア系の屋台飯にピッタリなシンハー、たっぷり飲みたい時にピッタリなハートランド。これら王道に加えて、気の向くままにビールライフを楽しめることは無上の幸せである。
暖かくなってきた3月、高まる春。