【禍話リライト】嫁入りの山

昔からその山では『嫁入り』があるとされていた。
普通はそれが狐の嫁入りとかピュアなものかと思うけれど、"それ"は土着のマタギのような人たちの強い訛りと方言と符丁みたいなもので名前は聞き取れず、どういったモノなのかはわからない。獣か怪異か、それ以外か。ただ〇〇の嫁入りがあると言われていた。
それを見てしまうと良くないことや最悪死んだりするというありがちな展開ではあるものの、死因は一辺倒で”なにかに喉笛を噛み千切られる”のだという。だからそんな死体が見つかったら「ああ、こいつ〇〇の嫁入りを見たんだなあ」と納得してしまう、そんな山があった。
実際に10年単位で死人が出ていたらしい。しかし結局そのあと野生動物が食い散らかしたり崖から落ちてしまって損傷が激しくなって大本の死因がわからなくなる死体が多く、大体が事故で処理されていた。時代も昭和の戦争前の出来事だったので、誰も知ることのない流れ者だとそのまま無縁仏として埋葬してしまうこともあったという。
そんな山ではあったけれど、頂上からのロケーションが最高に良かった。戦争も終わり、長らくその山で仕事をしていたような人たちもどこかに行ってしまって、バブル期にあたってそこを結婚式場にしようという話が持ち上がった。
もちろん周囲は強く止めた。民俗学者も何人かその山について調べようとしたものの、全員が途中で止めるか行方不明になってしまった。そんなことがあるんだから絶対に良くない。人がいなくなる、嫁入りがあるんだから駄目だと誰もが口々に引き留めたが、なんといってもなにをどうしたって好調に進んでいたバブル期だ。オーナーが外国人だかハーフだかでそんな非科学的な超常現象を信じる人でもなく、あきらかに気の進んでいない神主にお願いしてそれなりにお祓いを行ってから着工した。
そのおかげか工事の最中になにが起こるわけでもなく式場はとんとん拍子に完成し、初めての客としてそのオーナーの子どもが挙式することになった。
新しく完成した結婚式場のお披露目も兼ねて行うということで段取りや細かい部分も突き詰め、跡取りとして発表することも混ぜて打ち合わせを終えて幸せそうに帰っていったはいいものの、そのまま新婚夫婦は姿をくらませてしまった。
まさかの事態に慌てて捜索していると、山の中腹で車が発見された。ここから入らないだろうと思うような場所に停めてあって発見が遅れたという。
そのまま警官が周囲を見分していくと中程の道に結婚式で配られる便箋が落ちていて、『これから幸せになります』と書かれていて。恐怖に怯えながらもどうにか進んでいくと自然に拓けた場所で若夫婦が亡くなっていた。どういった状況かは不明だが、その場にいた警察によると互いの首を絞めて死んでいた。絶対にそんなことがあるわけがないけれど、警察での検死ではそうとしか判明しなかった。
結果的に若夫婦は自殺として処理された。そんな不幸もあってオーナーは心底憔悴しきってしまい、最終的には精神的にも異常をきたして会社もめちゃくちゃになってしまったという。そんなことがあればもうその山は本当に駄目なのだと理解せざるを得なく、壊すにもお金が掛かるからと結婚式場もそのまま放置されるに至った。

平成に入ったくらいの時分、そこに大学生2人組の死体が出た。展望台の名残のようなところで首を吊って、ぶらんぶらんと揺れていたのだと。やはり奇しくも男女連れだったという。おかしかったのは持っていた携帯に残されていた記録のような何枚かの画像だった。
その頃の携帯だからまあ画質は荒い。最初は普通に楽しそうにピースとかして映っていたものが、枚数を重ねるにつれそんな雰囲気は薄れ、だんだんと山を映した写真になっていく。そうして最後の方になるともう紐がふたつぶら下がっていて。次の画像にいくと男性がこちらに一礼している。もう一度ボタンを押すとその男性が首を吊っていて。そうして女性が同じように自死する画像が画面に映し出されていく。
これは警察やその場にいた記者から流出した話ではあるけれど、第一に「それは誰が撮ったのか」に焦点が当てられた。男性が首を吊るところは連れの女性が撮れるだろう。しかし女性の番はそうはいかない。当時の携帯はガラケーだからスマホと違って携帯用の固定器具なんてあるわけがない。普通に考えればそんな写真など撮れるわけがないのだ。そこに”誰か”がいない限りは。
しかしその最後の画像。限界までアップしても荒くなってしまうけれど、どうもそう見えるという話。その男女が付き合いを反対されていたらしいこともあって、今回の件は心中の線ももちろんある。女性が一礼している写真はタイマーなんかを使えば、まあ撮れなくはないのかもしれない。けれどどうにか見える画像の、奥にある割れた鏡。少しだけ残ったそこに、よくよく見れば結婚式に参列しているような人たちが映っている。そんなところにいるはずもない、大勢の人たちが。
だから嫁入りの山なのだと。もうそこには誰も行かず寄り付かず、実際に踏み込むことの出来ない場所になっている。

※本記事はフィアー飯によるツイキャス『禍話』シリーズの「震！禍話　十八夜②」より一部抜粋し、文字化のため再構成したものです。(28:23ごろから)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/479462305