二階堂奥歯「八本脚の蝶」 2002年9月25日(水)その2

何不自由なく満ち足りたこの世界で私はなぜだか戦場にいるような気がします。
ほんの小さな失敗でもしたら私はここにいることを許されなくなってしまうような気がします。
挨拶はきっと複雑な合図で、それを間違えれば即座に虐殺されるような気がします。
私をかこむ隣人達の中に入っていくとき、砲弾の飛び交う中を進んでいく気がします。
時限爆弾を解体するかのように息をつめて仕事をします。
世間話をしながらも銃弾が耳を掠める音が聞こえます。
私の微笑みは自然に見えますか? 口の中には恐怖の味がします。

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