バスに乗ってたら異世界に行ってしまった話

2022.8.25 夢日記

これは、中型バスのような乗り物でいろいろな場所へ瞬間移動できるようになった近未来の夢だ。
世界観としては、ファンタジーとかオカルトチックなものでなく、空間転移技術ができた近未来的な、およそ現代的な感じだ。

今日も転移を終えて目的地に着いた!とバスの外へ出る。が、たどり着いたその場所は、目的地とは別の場所だということがわたしには分かった。
なぜならば、わたしは前に一度この場所に来たことがあったからだ。

バスから降りた目の前には、白っぽい、ふぞろいな砂利の道(?)が広がっている。ゆるやかにカーブを描いた、遠目に見ると川原のような広大な場所だ。
駐車場所から少し離れたところに、西洋風の一軒家が建っている。それが「今日の目的地の建物」に「よく似た別の何か」だ。

この場所にいてはいけない。わたしだけにはそれが分かるが、同行者に論理的にそれを説明することは不可能だ。本当のことを言ったところで、信じてもらえるわけがないことは明白だった。とにかく、実際に現場を見てもらうしかないだろう。なるべく早く。わたしたちに残された時間がどの程度あるのか、全く検討もつかないので。

同行者ーー隣の部署の後輩だ。これは仕事の夢なのかなーーがバスの中から建物に持って行く荷物を下ろそうとしている。
ひとまずそれを止めて、先に建物の中を確認しに行こうと提案する。逃げることを想定したら、なるべく身軽なほうが、絶対にいい。
先に現場の広さを見て、持ち込める荷物の量を把握してから、というわけで、荷物を置いて行くための説得はすんなりとできた。
後輩と、さらに数名の同行者を連れて、建物へと歩く。

以前ここに来たときは。
あの建物の扉を開けると、その中は、廃墟だった。
そこにいるはずの家主の姿は見えず、家主に連絡を取ろうと電話などしてみても、全く繋がる気配がなかった。
しばらく廃墟の前で立ち往生していると、突然、背後から黒い陰が伸びてきたのだ。
それが何だったかは、分からない。覚えていない。見てはいけない何かだった、そんな気がする。
ただ、その何かに、わたしたちは、襲われたのだ。それだけが確かなことだ。どうやって逃げたのかも、何もかも覚えていないけれど、わたしたちは、命からがら逃げ出したのだ。だから今、ここに生きている。

歩きながら、そんなことを思い出していた。恐ろしい体験だったはずだけど、不思議と、あまり恐怖は感じなかった。覚えてない部分も多かったから。忘れるというのは、人間の防衛反応だ。それに、今目の前の問題をどうにかしなくては。思考を巡らせる。至極、冷静だった。

白い砂利道を見渡すと、ひとり、ふたり、人影がある。
わたしは、近くを歩いているおかっぱの女性に話しかける。後ろ姿は、球場の売り子さんみたいな風貌だ。

「すみません」
「はい」
振り返った女性には……顔がなかった。真っ白な卵みたいな頭に、ぱっつんの前髪と、おかっぱの後ろ髪だけがついていた。
この異常な場所にいる人間が、ふつうの人間なわけがない、と、予想の上で話しかけたので、わたしはそんなに驚かなかったけど、同行者たちは、そうではないだろう。
異様な姿の人間に似た何かの前だけれど、わたしは安堵すらしていた。これで、みんな理解してくれただろう。この場所から逃げる準備が整った。

「ここは、どこですか?あれは、川ですか?」
わたしは、遠くの砂利道を指して質問する。
「いいえ。ここは、給餌場ですよ」
顔のない女性は、悪びれた様子もなく、朗らかに答えた。
顔がないのに、なぜか彼女がにっこりと笑っていることがはっきりと理解できた。ひどく不快な感覚だった。

女性の言葉を待つか待たないかの間に、わたしたちは、きた道を引き返し、大急ぎでバスへと戻った。
我ながら、かなり短時間で逃げるという行動まで誘導できたと思った。
目なんかないのに、女性がずっとにこにこしながらこちらを見送っているような嫌な感覚を、背中に感じていた。

わたしは、分かっていて質問をしていた。ここが、何か途方もない大きさの、未知の生物の餌場だということを。そして、以前、その生物に喰われそうになったのだ。(わたしたちが何か生き物を飼うとき、水槽に砂利を敷くことがあるだろう。ここの砂利は、そういったものだ。)
ただ、あの顔のない女性や、もう1人の遠くを歩いていた釣り人の男性のような人影は、一体何者なのか……人間ではないだろうけど、例えば給餌場のメンテナンスロボットみたいなものなのか、それとも何か別の怪異なのか、見当もつかなかった。

わたしたちは、無事にバスに乗り込んだ。
とにかく物理的にこの場所から離れたいと、バスを遠くに走らせながら、空間転移を起動した。
わたしは、同行者と顔を見合わせる。バックミラー越しの運転手、隣の部署の後輩、そしてあの化け物に似た髪型の女性。みんな、普通の人間の顔をしていた。女性は、わたしと目が合うと、にっこりと笑った。

そして、ここでわたしは目を覚まします。
身支度をして、仕事へ行く道すがら、わたしは考えます。
最後に見た、化け物に似た髪型の女性の顔……その顔に、わたしは、見覚えがありません。どうしても、最後ににっこりと笑ったあの女性の顔が……忘れられないのです。


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