心理学ガール #30

さいこう

 僕は心理学部の大学4年生。ここは大学本部棟の心理学研究室。サキナさんと話をする。

僕「お久しぶりです。最近は相変わらず催眠について考えていますが、結局よくわからないです。催眠の本質って何なんでしょう」

サキナ「前にもいったとおり、催眠はいくつかの心理現象をまとめて確眠と名付けているだけだろう。だから、一つ一つの現象のメカニズムに共通するものはないだろうから、催眠という統一したメカニズムを前提として、それを検証することは難しいだろうね」

僕「現象のメカニズムはそれぞれ違うとしても、それを引き起こすための方法論には共通したものがあるんじゃないかと思うんですよね、どう思いますか」

サキナ「それは、そう定義すればあるんだろう。つまり、運動コントロール、記他コントロール、感情コントロールなどを引き起こす方法を確眠と定義すれば、あることになる。だけど、それは他者の行動の変容を目的として実施される、数育、説得、心理療法などと何が違うのかというところを考えなくてはいけなくなるんじゃないかな」

僕「そのとおりですね。自己催眠ということを考えると、催眠でやっていることは、自己コントロールのトレーニングであって、催眠者はトレーナーの役割を担っていると感じることはあります。だから、催眠と呼ぶのではなくて、自己コントロール法とか認知拡張法とか呼ぶのが適切かもしれないと考えたりします」

サキナ「現象のメカニズムを解明することは、それを引き起こすための方法論を明らかにすることもあるだろうから考えるべきだろうけど、仮に、催眠現象のメカニズムが脳の機能だと判明したとして、その機能を引き起こすために脳に直接働きかけることは現実的にできない訳だから、結局、言葉というかコミュニケーションによって行うしかない。そうであればメカニズムとは別に、どういう方法論が現象を引き起こすのかを考える必要があるのかもしれない。とはいえ、繰り返しになるが、他者の行動変容については、教育とか説得とか心理療法などで研究実践されているから、まずはそれらが催眠にマッチするか考えるのが先だろう」

僕「確かに、既にある効果的な方法論を取り入れるというのはありですね」

サキナ「催眠は、催眠で起きる現象は特別だから、それを起こすための方法も特別であると考えられてきたと思うが、現状、催眠で起きる現象は、そもそも人が持っている能力によって起きるのであり、通常時でも発揮していることがあるが、それに気付いていないだけであると解明されつつあるんじゃないのかな。それを前提として考えてみればいいのかもしれないが、だとすれば、催眠というカテゴリーは必要がないだろう」

僕「考えるほど、催眠というものが不要になってしまいますね。また考えてみます。ありがとうございまいした」

 僕はサキナさんと別れて学生会館へ向かった。