俺とインコとコウモリとアルマジロとあとちょっとニンジャ三日目以降【ふっこくばん】

はじめにのはじめに
 この記事は昔もみこが書いて「スキがついた!こわい!」と速攻削除したあと「思い出なのに消しちゃったのやっぱさみしいな……」と思った記事のサルベージです。情報は古いです。ツイートのリンクも直さない。面倒だからだ。

三日目

 三日目は市内観光の予定を立てていた。市内の美術館は(私が)過去の観光で大体行ったことがあるため、アーティケットやツーリストパス(どちらも便利なので欲張り旅行をしたいならネット予約で購入お勧めです)は取らなかったが、同行者の行きたがった名所のチケットと三日分のHOLA!BCNカード(様々な交通機関の日数制乗り放題券)はネットで事前購入していた。のでスリによる手元不如意とは関係なく観光を続行した。
 同行人の買い物と二人分の食事は私が持ち腐っていた彼女との家族カードでアレしてなんとかなった。親カードが停止しても家族カードって生きてるんだなあと思った。
 この家族カードが生きてるかの問い合わせにもフロントの助けが要った。黒ぶち眼鏡に金髪のフロントウーマンは優しく(スリ事件でパニクりながらチェックインした私たちの部屋を無料でグレードアップしてもくれた)、早朝から問い合わせを手伝ってくれたが、気になるのは昨晩遅くまで働いていたのに朝も平気で私たちを見送ったことであった。

 連勤で親身にあたってくれた彼女に心づけを渡す機会がない私たちは、部屋に置くチップを少し多めにすることでフロントにも届かないかなと思っていた。(移動が多いので日中は置いていくことにした)ぬいぐるみ二体にチップを守らせて共にテレビ下のカウンターに置き、部屋を後にしたのだ。

 夜に戻った後はタダで変更出来た(おそらくアジア人の大量キャンセルがあったためでもあろう)サグラダファミリアが正面に見える部屋からアクスタの写真なども取ったが、遠近が微妙でアイフォンではピントが合わない上に、夜空が明るすぎると光景としておどろおどろしくなることが分かった。でもデートなんだ、俺の中ではこれはデートなんだ。主役は私ではなく推しカプとそのペットなんだ。

 開き直ってカップルだらけのルーフトップバーでもこんなことをした。


四日目
 この日は朝に鉄道(前述のrenfe AVEである)に乗ってジローナ州フィゲラスにあるダリ美術館に行った。同行ぬいぐるみとしてジョ……アルマジロの方のぬいぐるみを伴った。ドラチャ……コウモリの方のぬいぐるみは前の日と同じく、チップを持ってカウンターに鎮座させることにした。

 フィゲラスへ向かうAVEの席はいわゆるボックスタイプだった。私たちは二人なので他の二人と向かい合う形になる。気さくそうな母と娘の二人組はこの時期のアジア人二人組に困惑することもなく、席に座るときは微笑み交わしながら短い会話をした。とはいえ無意味にはしゃぐ必要もないし、こっちは疲れている。「失礼」と言って転寝を始めることにした。
 さて、だが向かいの母娘にはもう一人連れが居た。父親か祖父か分からない彼は彼女たちのために飲み物とサンドイッチを買って遅れて乗車したようだった。そして彼の席はボックス席とは通路を挟んで反対側にあった。
 彼は明らかに、アジア人の客と自分の大切なお嬢さんたちの取り合わせに困惑したようだった。
「コロナ」「チノ」「ハポン」「パンデミア(ha)」といった単語が聞こえた。彼は事態を正しく把握しているようである。ティーンか二十歳なりたてくらいにみえるお嬢さんは席を立たず、私には分からない語彙でそれに反論してくれているようだった。彼女だって正しく世界のことを知っている。世の中はそうやって衝突する。私は疲れていたので目を瞑っていると楽だった。ていうか彼が乗り込んだ時点で「席交換しない?」と持ち掛けてればよかったんだな。だが遅い。
 最終的に、彼女たちと彼は二つ目の駅で私たちの前から立ち上がった。そっと突いて私を起こした後、「バイバイ」と若い彼女は素敵な笑顔で別れを告げてくれた。valeだよvale、君のパパだかグランパの気持ちもめっちゃ分かるし。
 そもそもその駅が私たちの降りるフィゲレスだったのでオーライ

 フィゲラスに着いた後も多少の時間の余裕はあった。同行人がお金の心配をするのでお昼ご飯は朝食ビュッフェからパク……持ってきたサンドとフルーツだ。まあ倹約は美徳だ。水だけが必要だったが、月末の日曜日なのでほとんどの店は閉まっていた。開いていた街中のバルの扉を開けると、賑々しかった話し声がピタッと止まった。ペットボトル一本の会計をしながら店員が「ソーリー」と言った。

 素晴らしい美術館は素晴らしい。ところでぬい撮りの腕は上がっていない。

 夕方にバルセロナへ戻ると少しぶらついて食事をして、くたくたの上酔っぱらって倒れこむようにして眠った。部屋の中を見回して確認しようとは思わなかったが、シーツの整え方が雑なことと、石鹸の補充がされていないことには気付いていた。


五日目
 その日は予定していた観戦、最後の一戦の日だった。最初はRCDE中心のつもりで予定を立てていたのに、これまで新しく街中に出来たという公式ショップにも行っていない。
 何処と何処にぬいぐるみを持っていくか考えて身支度をしようとしたところで、ぬいぐるみがいないことに気付いた。昨日チップと共に置いて行ったドラチャ……コウモリのほうだ。朝六時だった。
 一気に目が覚めた。

 フロントに行くも、早朝のため従業員が少なく捜索や聞き込みは待ってくれと言われた。黒ぶち眼鏡の彼女はいなかった。休んでいるタイミングを初めて知ったが、全然ホッとはしなかった。
「そのぬいぐるみと一緒にベッドに入った?」という意味のことを訊かれた。リネンに巻き込んで回収されていないかの確認のためだろう。だが荒んだ私の心には違う意味で聞こえる。そんな猥褻行為ドラチャ……には出来ません。俺ドラ地雷です。

 完全にナーバスになっていた。ぬいぐるみに対して非ぬい道的行為が働かれていたり永久に手元に戻ってこなかったりしたら私は断固として警察に行くつもりであったが、その場合今日もまた試合を見には行けない(昼の試合だから)。同行人を一人で行動させて心細い思いをさせたくもない。
 朝食は喉を通らなかった。そういえばスリに遭った日の同行人もお腹が空かないと言っていた。こんなところでその心境を理解するとは。違う点はというと同行人はその時結構自分を責めていたが、私は全然自分は悪くないと確信していることぐらいだ。不満があったら呪ってやる(ありとあらゆるレビューサイトで)幾らでも抗議してやるぐらいに身構えていた。

 私の怒り肩な態度は透かされて終わった。通常勤務の従業員がやってくる時間であろう午前九時を十分過ぎたところであっさりとぬいぐるみが見つかったとの報告を受けたのだ。
 だがその報告の続きが私の首を捻らせた。「今洗っているので、乾いたら部屋に届けるから」謎だ。
 もしリネンに巻き込まれて洗濯機までGOしてしまったのならあの持ち運びにくい形状にフワフワ毛のドラ……コウモリぬいの姿は永遠に失われてしまうかもしれない。

 そもそもリネンに巻き込まれるような場所か?その足元に添えておいたチップは取ったのに?何故?昨晩気付いたことと併せて考えると、よほど急いで清掃したのだろう。けれど私たちは昨日ほぼ丸一日部屋を空けていたのに?
 不安だったため、ぬいぐるみが手元に戻るまで待つことにした。一方でぬいぐるみがどんな姿で戻ってきても受け入れる(ぬいぐるみに対して)つもりではいた。

 そもそも推しは原作でも洗濯機にうっかり落ちてしまって洗われたりする男だ。理不尽な目に遭ってギャグリョナられている姿、あらゆる死に方を晒すさま、それに私はこうふんする。原作再現だと思うとちょっと楽しくなってきた。怒りは徐々に解けた。
 もう一度事情を訊くと、「リネンに挟まれて汚くなったから洗った」との回答を得た(言葉が互いにあまり通じない)。いや事故で洗われたんじゃなくて今気遣いで洗ってんのかよ、一言訊いてから洗ってよ、そうしたらこっちは拭くだけで済ませたのに、ぬいぐるみって繊細なんだぜ……。そういうところだぜ……(スーツケース錠も特に確認無く切られた)。

 ぬいぐるみは意外と早くに戻ってきた。午前九時半だ。このスピード感といい匂いぶり……確実に洗濯機と乾燥機使用……。
 その割に写真の通り無事でもあった。ぬいぐるみお前……案外頑丈なのか……?
 とにかく私の怒りは解け切っていた。申し訳なさそうな従業員から受け取る時は爆笑していた。


──────ここからまたサッカーの話しかしない線──────

 RCDEスタジアムへはバルセロナの中心からメトロでたっぷり40分かかる。住宅街の中の普通のクラブだ。前も書いたが強くはないし選手は中々居付かない。
 RCDEは100年以上続いた地元クラブとしての歴史に2016年で一旦ピリオドを打ち、中国の現オーナーに買収された。中国人選手も在籍している。
 何が言いたいかというとペリコたちは外国人観光客に慣れた集団ではない、一方で「やってくるアジア人は皆中国人」だと思っているということだ。それが今回の騒ぎでどういった形の反応をもたらしているのか、興味と不安があった。
 同行者もついて行くと言い出した。二時間は待てないからスタジアム周辺を見物したら一人で帰ると言う。心配だ、だが代替案が示せるわけでもないので連れて行った。
 小規模なクラブの昼試合とはいえ、スタジアム周辺のテンションはアガっていた。近くのバルは青と白の縦縞で埋め尽くされ、路上で歌う集団もいる。ファンゾーンでライブなどしているのでスタジアム前は混み合っていた。サッカーに興味のない同行者はドン引きである。でも混雑した公式ショップに突入して買い物をしていたし店員にもガンガン話しかけていた。強い。
 ショップで地元の男の子たちがウーレイのシャツを買うところを見て嬉しくなった。ああいう一生懸命走るタイプが地元に評価されるのは当然だけど嬉しい。こちらはダルデールのシャツを買い(ハビロペスも欲しかったのにその場のノリで決めたことを少し悔やんでいる)、一歳半の甥へ名前入りのキットを作った。幼児用ユニちょうかわいい。
「ニーハオ!」と何度か声を掛けられた、掛けてくる方は大体笑顔だ。これは過去に何度かスタジアムを訪れた時と変わらない。「ニーハオ」の時は「こんにちは」と返すことにしている。
 スタジアムにアジア人はほぼいない(一組だけ、韓国か中国系らしい男の子たちを見つけた)。気を張っていたが、ファンゾーンなどであからさまに避けられることはなかった。

 私の買った席は最前列だ。双眼鏡を使ってシメオネとブルゴスの観察も楽しんだが、やっぱり好きなクラブの選手に声を掛けられる距離が一番嬉しい。RCDEの選手は全体的に小柄なので「かわいい」とか思ってしまう。
 RDTことラウールデトマースの先取点の時は今までのあれこれも吹き飛んだ気がした。中小クラブ好きはタンタルスだ、飲めない水を追いかけて喉を乾かして、一滴の水を有り難がる。楽しいですね。

 言っておくが私は彼が好きである。

 私の席は最前席だったのに隣が空いていたため、後半になると地元の男の子たちが席を替えて私の隣に座った。私は避けられることにナーバス過ぎたかも知れないなと思いながら混じって応援した。

 試合は分けた、共に最下位争いを演じているレガネスも引き分けたため、最下位は脱せなかった。

──────サッカーの話終わり──────


 初めて一人で長い移動をした同行者も何もなかったようだった。ついでに買い物なんかもして、夕食の待ち合わせをしていたのにつまみ食いをしていた。私は彼女に関してもナイーブになり過ぎていたなと感じた。

 甥っ子に自我が芽生えていたら「レアルかバルサ買って来いよチクショウ」と思うかもしれないが、まだ自我が少ないのでだいじょうぶです。

 同行者の話によると、フロントにはまた黒ぶち眼鏡の彼女が立っていたらしい。少しはサッカーを見る気になった同行者が中継を見られるか尋ねたところ、バーラウンジのプロジェクターを起動させて見せてくれたそうだった。彼女には本当にお世話になった。再びそのラウンジへ行き、クラシコもそこで観たが途中で眠気に襲われ得点シーンを見られなかった。マジかよ。


最終日

 写真はよく売っている「生ハムの切れ端と小さいパンを立ち食い用に紙で包んだやつ」名前は忘れた。
 最終日に書くことは少ない。空港で欧米人のおっさん集団とすれ違う際、マスクを掲げて「ウェーイ!」されたので自分のマスクを見せて「ウェーイ!」し返した。全てはノリであり互いに深い意味はない。

最後に

 この写真は私の持つサコッシュの刺繍だ。ひよこ \ニャーン/のノリのつもりでデザインした、ニンジャにおける私の推しと推しカプを申し分なく全面に押し出した一品(無……印……の刺繍オーダー)だ。これを旅行中ずっと使っていた。これがニンジャT以外のあとちょっとニンジャ要素である。
 それでどういうこともないが、とにかく主張したいので最後に付け加えた。何しろここは私の思い出ページだからな。

 推しに包まれてあれ。

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