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インボイス制度や電子帳簿保存法への対応、間に合いますか?

2023年10月1日から開始するインボイス制度、2022年1月1日から施行され、2023年12月31日までは宥恕(ゆうじょ)措置期間である改正電子帳簿法への対応は待ったなしの状況です。しかし、これらの法改正による影響や、必要な対応を正しく把握していない経営者も少なくありません。今回は、新しい法律がどのような影響を与えるのか、どのような準備が必要なのかについて確認していくことにしましょう。

まだ間に合うインボイス制度の登録申請

インボイス制度は、正式には「適格請求書等保存方式」といいます。インボイスは「適格請求書」を意味しており、取引の正確な消費税額と消費税率を把握することを目的としているため、税務署による審査・登録を受けた「適格請求書発行事業者」でなければインボイスを発行できません。つまり、課税事業者であることを請求書や領収書で証明するということです。

本制度の開始時点(2023年10月1日)までに適格請求書発行事業者(課税事業者)となるには、2023年3月31日までに納税地を所轄する税務署長へ登録申請書を提出する必要があります。それほど時間が残されているわけではありませんが、インボイス制度開始にはまだ間に合うのです。

そもそも課税事業者になるべきなのか

課税事業者になることは義務ではないので、免税事業者のままでいることも可能です。基本的に基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は課税期間の消費税の納税義務が免除され、免税事業者になることができます。一方、課税売上高が1,000万円を超えれば消費税の納税が義務となり、課税事業者となります。

しかし、免税事業者のままでは適格請求書発行事業者にはなれないというデメリットもあります。課税事業者になるかどうかの判断に迷った際には、事業のメインとなる顧客が誰なのかを基準に考えてみることをおすすめします。

一般消費者や免税事業者がメイン
一般の消費者を対象に商品の販売やサービスを提供している場合、インボイス制度の影響はほとんど受けることがありません。ただし、接待での利用の多い飲食店などは適格請求書等を求められることも多く、対応できないと他店に顧客が流れてしまうこともあります。また、免税事業者がメインの顧客であったとしても、インボイス制度の開始をきっかけに課税事業者になるケースも多いため、対応を迫られることがあるかもしれません。

課税事業者がメイン
課税事業者がメインの顧客の場合、対策は必須です。課税事業者は適格請求書等がなければ仕入税額控除ができず、納付税額が上がってしまいます。そのため、仕入先の取引事業者を課税事業者に変更する、あるいは仕入税額控除ができない分の値下げを要求するといったケースが今後増えてくることになるでしょう。

なお、免税事業者や個人からの課税仕入れについては、2023年10月~2026年9月末までの3年間は80%控除、2026年10月~2029年9月末までは50%の仕入税額控除を受けることができるようになっています。この6年間の経過措置も考慮して、課税事業者になるかどうかを検討してみることも重要です。

インボイス制度には反対の声も多い

前述したように、インボイス制度が開始すれば、適格請求書等がなければ仕入税額控除が受けられません。課税事業者が買手側の場合、当然のように仕入先には適格請求書の発行を求めるでしょう。その結果、これまで免税事業者であった小規模企業や小売店、サービス業やフリーランスなどを取引先から排除しかねない制度であるという問題点が指摘されています。

こうした問題からインボイス制度には反対の声も多く上がっており、国会に多くの請願が提出されるなど、たびたび論議になっています。2023年の3月末までは期限もありますし、その後も経過措置期間が設定されています。反対活動が盛り上がれば開始時期が延長する、場合によっては制度そのものが変更になる可能性もあるかもしれません。

電子帳簿保存法の宥恕期間について

本来、2022年1月1日より義務化予定であった電子取引に関わる電子データの保存義務は、開始直前の2021年12月10日に公表された『令和4年度税制改正大綱』において、2年の宥恕措置期間が設けられることになりました。直前に宥恕期間が設けられた背景には、対応が間に合わない事業者が多く、さまざまな混乱が生じたことにあると言われています。

ただし宥恕期間の適用には、以下の2つの条件を満たしている必要があります。

1. 納税地等の所轄税務署長が、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存をすることができなかったことについて、やむを得ない事情があると認めること。

2.当該保存義務者が質問検査権に基づく当該電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしていること。

1のやむを得ない事情について2021年12月27日付の法令解釈通達によれば、以下のように示されています。

「やむを得ない事情」とは、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に係るシステム等や社内でのワークフローの整備未済等、保存要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難であることをいう。

これを見る限り「システム導入やワークフローの整備が間に合わなかった」と解釈できます。また、2についても、税務調査の際、求めに応じて書類を提出できる状態で管理できていれば問題なく宥恕期間を適用することができるでしょう。

電子帳簿保存法に対応する仕組みの導入

もちろん2024年1月には電子帳簿保存法に沿った対応ができなければなりません。では、実際にどのような対応が必要なのでしょうか。

改正された電子帳簿保存法では、これまで紙で保存していた帳簿や書類(税法上、保存が義務付けられている国税関係帳簿書類)を電子データで保存できるようにするほか、電子取引に関する情報の保存義務などを定めています。仮に帳簿や書類を紙で保存し、電子取引も一切行わないというのであれば対応は不要です。しかし、見積書や納品書、請求書、領収書といった書類が電子データのみである取引先が1件でもある場合には、オリジナルの電子データを適切な形式で保存する義務が発生します。

また、単に保存するだけでは法律の要件を満たしません。法的な要件を満たすためには、電子帳簿保存法に対応したアプリケーションやクラウドサービスを導入することが最も早い解決方法です。電子帳簿保存法の要件を満たしているのかどうかを判断する方法として注目されているのが、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の認証制度です。国税庁でもJIIMA認証情報リストを公開しており、新たな仕組みを選択する際には有用な情報となります。
https://www.jiima.or.jp/certification/
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/11.htm

電子帳簿保存法に対応するまでのステップ
いくら新しい仕組みを導入しても、ワークフローが対応しなければ適切に運用することはできません。電子帳簿保存法の対応に備え、ワークフローをどのように変更しなければならないのかを明確化し、正しく運用できるように体制を整えることが重要です。ここでは、実際の対応をステップごとに見てみましょう

STEP1.取引状況を可視化する
まず必要なのは、企業内で行われているすべての取引を可視化することです。やり取りしている書類の種類、書類の受け渡し方法、書類の保存方法、年間または月間にやり取りされる書類の量などを明確化します。そのうえで、電子取引とそれ以外の取引に整理します。これは、今回の法改正でも重要な部分です。

STEP 2.保存措置や保存先を決める
電子取引の関係書類の保存・管理は厳格化されているため、やり取りするデータの保存措置も明確に決めておく必要があります。やり取りされる電子データにはタイムスタンプを付与して改ざんを防止するとともに、訂正・削除の履歴が残る、あるいは訂正・削除の防止できるシステムの利用や事務処理規定を定めることが必要です。

また、送受信した電子データは、すべて保存する必要があります。これらのファイルの保存先には、訂正・削除の履歴を残せる、あるいは防止できる機能を持ったストレージやシステムに保存するようにしましょう。電子取引ではない紙の書類を受け取った際にはスキャナで保存することも認められているため、紙の書類の取り扱いについても明確に規定しておくことをおすすめします。

STEP 3.データを検索可能にする
電子取引に関連するデータは、検索性も要件となっています。Excelでリストを作成する企業もありますが、記入漏れやミスなどが発生しがちです。そのため、電子取引データの保存機能を持ったアプリケーションやクラウドサービスを利用する企業が増えています。もちろん、電子取引書類の保存は運用でカバーし、アプリケーションやクラウドサービスは帳簿を管理するだけという場合もあります。いずれにしても、自社に合った仕組みを検討することが重要です。

STEP 4.データを閲覧可能にする
保存した電子データは、求めに応じてダウンロード、印刷、閲覧が必要になるため、ダウンロードできる仕組み、プリンタ、閲覧用モニタなどをあらかじめ準備しておく必要があります。一般的な会計ソフトなどのアプリケーションやクラウドサービスにはデータダウンロードやプリントアウトの仕組みがあるため、それほど困ることはありません。

STEP 5.ワークフローを明確化する
ここまでを踏まえて、どのようなワークフローであれば法的な要件を満たし、無理なく運用できるのかを検討しましょう。また、効率的な運用をすべく、状況に応じてワークフローを見直すことも必要です。

まとめ

・インボイス制度の登録申請はまだ間に合う
・インボイス制度に反対する団体も多く国会でもたびたび話題になっている
・電帳法は2年の宥恕期間中だが、2024年1月に間に合うよう早めの対応が重要



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