法人向けNASの選定ポイントをチェック!
NASとは「Network Attached Storage」の略で、ネットワークに接続して利用するHDDやSDDなどで構成されるストレージです。ファイル共有環境を手軽に構築できる手段として広く利用されているNASですが、家庭用から大規模な法人まで用途が幅広く、そして多くのベンダーが製品を提供しています。そこで今回は、NASの導入に失敗しないための選定ポイントを解説します。
NASとファイルサーバーの違い
ファイル共有環境といえばファイルサーバーではないのか、という疑問を持つ人も多いことでしょう。どちらもネットワークを通じてファイルを共有する手段であり、広義ではNASもファイルサーバーの一つです。両者の違いをざっくりとしたイメージで表現するなら、NASはネットワークで共有可能なストレージ、ファイルサーバーはストレージを持つサーバーコンピュータであると言えます。
NASはストレージの機能に特化したアプライアンスです。導入や運用が容易で、比較的コストを抑えることも可能です。一方のファイルサーバーは、ストレージを増強する、セキュリティ機能を強化するといったカスタマイズの自由度が高いというメリットがある反面、OSやアプリケーションの導入・設定が必要になります。また、これらのソフトウェアのライセンス費用なども別途発生します。
それぞれにメリットとデメリットがありますが、やはり手軽さやコスト面での優位性から、ファイル共有ならNASで十分だと考える企業は多いようで、ファイルサーバーからNASに乗り換える事例は数多くあります。また、最近ではクラウド上にファイルサーバーを構築し、NASと連携させるケースも増えています。
選定ポイントは容量や価格だけではない
明確に用途が区別されているわけではありませんが、NASは製品によって提供できる機能に大きな差があるため、さまざまなベンダーから「家庭向け」や「法人向け」のように複数のモデルが提供されています。もちろん用途に合うのであれば法人で家庭向けのモデルを利用する、逆に家庭で法人向けモデルを利用するといったことも可能です。
企業で利用するNAS製品の選択ポイントとして、以下は必ずチェックしましょう。
✓ 容量(および容量あたりの単価)
✓ 完成品かNASキットか
✓ OSはLinux系かWindows系か
✓ 対応しているRAID規格
✓ バックアップ機能の性能
✓ セキュリティ対策
✓ その他の機能
このうち、必要な容量と単価についての説明は不要でしょう。それぞれの利用方法や扱うデータ量に応じた容量以上の製品を導入すれば良いだけです。可能であれば容量あたりの単価は低いほうが好ましいと言えますが、他の機能との兼ね合いもありますので一概に安ければ良いというわけでもありません。
完成品とNASキットのどちらを選ぶべきか
NASにはすでにHDDやSDDなどのディスクが搭載された完成品モデルと、NASキットと呼ばれる別売りのディスクを組み立てていくモデルがあります。
完成品モデルは、ネットワークに接続して簡単な設定をするだけで、すぐに利用可能なので手軽に導入できるというメリットがあります。ただし、状況に応じて容量を変更するといった柔軟な運用には適していません。完成品モデルの多くは家庭向けの製品ですが、特定の部署や営業所での利用など少人数でのファイル共有が目的であれば、手軽に完成品モデルを導入しても良いかもしれません。
NASキットはディスクを自由に組み立てて利用できるため、必要に応じて容量の追加など柔軟な運用が可能です。搭載するディスクも自由に選ぶことができることから、場合によっては大容量の完成品よりも容量あたりの単価抑制も実現します。組み立てもそれほど難しいわけではないので、少し学習すれば、初心者でもディスクの追加・交換は十分可能です。なお、ディスクが何台搭載できるかは、NASの筐体の「ベイ」数に依存します。
必要なディスク容量と単価を検討して最適なモデルを選択するべきですが、将来的に拡張する可能性が高いのであれば、NASキットのモデルを選択するほうが無難です。なお、同時にアクセスする人数が多い環境では、NASそのもののCPUパワーや転送速度が重要になります。また、より高速なデータアクセスを実現するために、搭載するディスクもHDDよりも高速なSSDを選ぶケースも増えています。
OSはLinuxかWindowsか
NASに搭載されているOSの大半は、Windows系(Windows Server IoT 2022など) か Linux系です。どちらを選択するかは用途によって異なりますので、より自分たちの使い方に合った製品を選ぶことが重要になります。
一般的に同時アクセス数が多い大規模な環境でも速度が低下しにくいのはWindows系と言われています。ほかにも、Active Directoryと連携できる、セキュリティ機能や保守機能も利用できるなどのメリットがありますが、Linux系のNASに比べると価格が高くなります。
比較的少人数向けのNASであればLinux系の方がコストメリットは高いのですが、同時アクセス数が多いと速度が低下しやすくなります。また、Windows系に比べると利用できるツールが少なく、規模が大きくなると管理が大変になるというデメリットがあります。
RAID機能
ディスクアクセスの効率化やデータの損失を防ぐ目的から、大抵のNAS製品はRAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)に対応しています。RAIDには、RAID0、RAID1、RAID5、RAID6の4つの規格があります(厳密にはRAID2、3、4の規格も存在していますが、搭載している製品はほとんどありません)。
RAID0は、一つのデータを分割して複数個所に保存します。複数のディスクに分散して同時に読み書きの処理を実行できるため、データアクセスは高速化。ただし、一台でもディスクが壊れてしまうと、データを読み込むことができなくなります。
RAID1は保存するデータのコピーを別のディスクに書き込みます。常に同じデータが二台のディスクに保存されるため、一台のディスクが故障してもデータを読み込めますが、使用する容量も二倍になります。
RAID5はRAID0同様、複数個所にデータを分散して保存する機能ですが、データを復元するための「パリティ」というコードをすべてのディスクに分散して保存しています。そのため、いずれかのディスクが故障してもデータを復元できるのですが、二台以上のディスクが同時に壊れてしまうと、RAID5でも復元はできません。
RAID6は、RAID5の改良版で、1つのデータブロックに対するパリティを2つ生成するため、同時二台までの故障であればデータを復元できます。ただし、書き込みのオーバーヘッドが大きく、RAID5よりも書き込み性能は低く、保存に必要な容量も多くなります。基本的には数の大きな方が高性能ではあるものの、敢えてRAID6は使わず、RAID5とその他のストレージ機能を組み合わせるケースもよく見受けられます。
バックアップ機能
NASに限ったことではありませんが、データのバックアップは非常に重要です。RAID機能によってデータの損失リスクを低減しても、NAS全体に影響する障害が発生してしまえば、データが失われてしまう可能性があります。そのため家庭向け、法人向けを問わず、大抵のNAS製品にはバックアップ機能がついています。
製品によって対応しているバックアップ方法はさまざまです。よく見かけるのは異なる拠点にあるストレージやクラウドストレージへのバックアップです。同一拠点内に複数のNASを導入して冗長化する、あるいはストレージベンダーが提供するクラウドにバックアップする、AWSやAzureなどパブリッククラウドを利用するなどバックアップ先はさまざまです。
また、近年のランサムウェアの流行を受け、逆にネットワークから完全に切り離したストレージをUSBなどで接続してバックアップするも方法を取り入れる企業も増えています。
セキュリティ機能
法人向けのストレージである以上、セキュリティ機能を意識しないわけにはいきません。本来、高度なセキュリティ機能が必要なのであれば、NASよりもファイルサーバーを構築すべきです。ところが最近の法人向けNAS製品には、ユーザーごとのアクセスを制御する、アクセスログを保存する、リモートアクセスを可能にする、データを暗号化するなど、ファイルサーバーのようなセキュリティ機能を搭載しているものも提供されるようになっています。
もちろん高度な機能が搭載されていれば、価格にも反映されることになります。必要なセキュリティ機能を搭載したNASが高価だと感じた場合には、同等あるいはそれ以上のファイルサーバーの導入・運用(特にクラウドファイルサーバー)コストとも比較・検討することをおすすめします。また、NASにはOSやツールなど事前にベンダーがインストールしたソフトウェアが入っています。しかし、サイバー攻撃は年々過激になっており、NASに組み込まれたソフトウェアを狙った攻撃も増加傾向にあります。
そのためNASを選定する際には、ベンダーの過去のセキュリティ情報や自社製品のセキュリティアップデートの頻度、過去にセキュリティ侵害を受けたことがあるか、(セキュリティ侵害を受けたことがある場合は)対応にかかった時間などの情報を確認してみることをおすすめします。頻繁にセキュリティアップデートが行われ、サイバー攻撃への対応も早いベンダーは良いベンダーと言えるでしょう。
その他の機能
その他にも法人向けNAS製品で有用な機能としては、無停電電源装置(UPS: Uninterruptible Power Supply)と連携して急な停電によるデータの損失を防ぐ、Wi-Fiで接続可能、リモートアクセス可能などがあります。
また、常にNASを監視して稼働状況などをモニターするサービスを提供しているベンダーや、保守運用サービスが充実しているベンダーもあります。こうした付加機能には別途料金がかかることも多いのですが、保守運用にかかるコストを低減できるのであれば一考する価値はあります。
まとめ
・コストメリットからファイルサーバーからNASに乗り換える企業も多い
・NASとクラウドにあるファイルサーバーとを連携する事例も増えている
・法人向けのNASは容量や価格だけでなく、データ保全やセキュリティ面の機能も重要
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