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建設業界の『2024年問題』から、あらためて働き方改革を考える

2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行となったことで、企業は業種、業態、規模の大小を問わず「働き方改革」への対応を迫られることになりました。しかし、同法律の施行によって非常に大きな課題を背負うことになったのが建設業界です。短期間に労働環境を整えることが難しいという理由から、建設業、自動車運転業務、医師には5年の猶予が設けられていますが、この猶予期間があっても建設業界では対応が難しいという声は大きく、「2024年問題」と呼ばれています。そこで今回は、建設業界の2024年問題から、あらためて働き方改革への取り組みに触れていきます。

働き方改革とはなにか

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)、通称働き方改革関連法案は、働き方改革を推進するため、労働基準法、労働安全衛生法、労働者派遣法などをはじめとする各種労働関連法を改正して整備することを目的としています。

厚生労働省は働き方改革を、働く人々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革であるとしており、働き方改革関連法には大きく9つのポイントがあります。

1. 時間外労働の上限規制
2. 「勤務時間インターバル制度」の導入促進
3. 年次有給休暇の確実な取得(時季指定)
4. 月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ
5. 労働時間状況の客観的な把握
6. 「フレックスタイム制」の拡充
7. 「高度プロフェッショナル制度」の導入
8. 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
9. 産業医・産業保健機能の強化

これらのポイントのうち、1~7は労働時間法制の見直しに関係しています。働き過ぎを防ぎながら、ワーク・ライフ・バランスと多様で柔軟な働き方を実現することが目的です。

8の雇用形態に関わらない公正な待遇の確保は、「同一労働・同一賃金」と言われることの方が多いかもしれません。これは正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を禁止しています。

9の産業医・産業保健機能の強化は、事業者が産業医に対して、労働者の健康を適切に管理するために、情報を提供する義務を明文化しています。

建設業界の「2024年問題」とは

建設業界が働き方改革関連法の対応が難しい最大の理由は、慢性的な人手不足にあります。日本の労働人口は減少し続けており、とりわけ建設業界はその傾向が顕著です。総務省の「労働力調査」を基に国土交通省が算出した建設業就業者数は、令和2年(2020年)に492万人と発表されています。これは、ピークであった平成9年(1997年)の685万人と比較して、28%減となっています。

さらに深刻なのは労働者の高齢化です。建設業就業者の36%は55歳以上であり、これは令和元年(2019年)よりも1万人増加しています。つまり10年経過すれば大半の労働者が引退、あるいは高齢化によって物理的に作業時間や作業内容が限定されてしまうのです。一方で次世代を担う29歳以下の労働者は12%に留まっており、技術継承にも大きな課題を抱えています。

人材不足は、そのまま1人当たりの作業量増加に直結します。そのため、建設業界では、長時間労働が常態化して改善されません。このような事情から、他業種では2019年から施行されていた働き方改革関連法の一部について、5年の猶予期間が設けられています。それでも、猶予期間内に法令を遵守できるよう、労働環境を改善しなければならないことには変わりないので、「建設業界の2024年問題」と呼ばれています。

「同一労働同一賃金」の適用にも課題がある

「同一労働同一賃金」の適用についても、建設業界には大きな課題となっています。雇用形態に関わらず、同一の職場で同一の業務に従事する従業員については、同一の賃金を支払うという考え方ですが、これは支給される手当(無事故手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当など)についても同様です。

こうした事情から、非正規雇用労働者が多い現場では、人件費の高騰は避けられないことは明確です。しかも、行政による助言・指導および裁判外紛争解決手段なども整備され、行政から事業主への助言や指導が行われるほか、事業主と労働者の間に紛争が生じた際には、裁判所ではなく行政が第三者として解決に導く手続きが行われるようになります。つまり、現状で同一労働同一賃金の対応に課題を抱えているのであれば、早急に解決しなければ罰則の対象となってしまう可能性があるということです。

人件費高騰と工期の長期化は不可避

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働き方改革関連法案によって、すべての企業が労働環境を変革する必要に迫られています。とりわけ建設業界は慢性的な人材不足を解決し、給与体系など長年にわたって培われてきた業界の構造そのものに大きくメスを入れて大改革を成し遂げなければなりません。

この課題を根本から解決するために、DXは欠かせない要素です。では、実際にどのようなことを実現する必要があるのでしょうか。

対策1:適切な給与体系を実現する
給与体系などの抜本的に解決するためにも、労働時間の適切な把握は欠かせません。また、年次有給休暇の取得を促すためにも、勤怠管理システムの充実は急務です。

さらに、個々人のスキル管理も重要です。建設業界の賃金は上昇傾向にあるものの、現場の管理や後進の指導といった技能スキルは、あまり評価されていない可能性が高いと言われています。タレントマネジメントの仕組みを構築し、技能や経験に見合った待遇を受けられるようにする必要があります。

対策2:現場の労働環境の改善とイメージアップ
新型コロナウィルスの感染拡大を機に、テレワーク環境を構築した企業は多くあります。もちろん、建設業界においても、テレワーク環境が重要であることは間違いありません。

従来は紙で管理していた図面も、最近はクラウドストレージなどを活用してデジタルのファイルに置き換わりつつあります。紙では「どの図面が最新なのか」といった管理が必要でしたが、デジタルであれば常に最新の図面を確認できます。変更点も即座に共有可能なので、指示ミスによる手戻りなどを防ぐ効果があります。

「きつい、汚い、危険」という「3K」のイメージがなかなか払拭できない建設業界ですが、労働環境が大きく変化している現場も増えています。たとえば作業員全員にスマートウォッチを装着し、労働者のバイタルや活動量を可視化する仕組みを取り入れた現場もあるようです。

対策3:最先端のデジタルテクノロジーで精進化を実現
少子高齢化による労働人口の減少は、建設業界のみならず社会全体の大きな課題です。つまり、人の作業負担をデジタルテクノロジーで軽減する施策をしなければならないということです。

製造業では当たり前になりつつありますが、産業用ロボットの活用は今後の建設現場でも不可欠なものとなっていくでしょう。また、AI/MLのテクノロジーを活用すれば、より高度な作業をロボットに訓練することも可能になります。

スキルの継承についても、AR/VR/MRの活用によって、熟練の技術を大勢で共有できるようになります。また、シミュレーターによって、実際に現場にいなくても訓練を受けることができるようになるかもしれません。

さらに国交省が推進する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」というプロジェクトにおいては、BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)を活用することで、施工プロセスの省力化や効率化などを目指すコンカレントエンジニアリングの取り組みも行われています。3次元モデリングによる効率的な設計、無駄のない部材手配、正確な作業手順の指示、変更が発生した場合の速やかな全体共有などが可能になり、コストの効率化や工期の短縮を目指しています。

あらためて働き方改革を考えてみる

働き方改革関連法案によって、すべての企業が労働環境を変革する必要に迫られています。建設業界の2024年問題を表面だけ見れば「人件費が高騰して企業は負担を強いられる」ようにしか感じられないかもしれません。その結果として「施工コストの上昇」が、価格高騰につながると考える人もいるでしょう。

もちろん人件費が高騰したとしても、DXによる省力化や効率化といった取り組みによって、施工コストを低減することは不可能ではありません。こうした取り組みは行政と大企業が率先して行っていくことになりますが、もちろん中堅・中小企業も同様に新しい仕組みを柔軟に取り入れていくことが重要です。

働き方改革を実現するためにDX推進する際、ソリューション選択に悩む局面は少なからずあると思いますが、デジタルテクノロジーは難しいという思い込みを捨て、「誰でも利用できる仕組みなのか?」という視点を忘れないようにすることが大切です。働き方改革は誰も取り残すことなく、すべての労働者にとってより良い労働環境を構築していくことが最も重要なのです。

まとめ

・働き方改革関連法案に5年の猶予期間がある建設業界にも「2024年問題」が迫っている
・2024年問題を解決するにはDXが不可欠
・デジタルテクノロジーは誰でも使えるものでなければならない


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