生成AIが同化問題を生んでいるという仮説

私の認識に誤りがある可能性がありますので、あくまでひとつの考えであることをご了承ください。

1.創作文化と生成AI文化の性質は異なると思われる

創作者は、文化の表現に触れ、個人的感情を普遍的手法で表現します。
創作は、自己の文化の代弁と言えます。

140)完全に普遍的なものは鑑賞者の興味を惹かない(例えば法律の条文)。完全に個人的なものも同様である。なぜなら、鑑賞者が自己を投影したり、同一化したりできないからである。(略)著作物は普遍的なものと個人的なものとの間にある。

著作者人格権の一般理論 フランス法を例に - 一橋大学

生成AIは、文化の表現を解析し、統計に基づいて出力します。
生成AIによる出力は、他者の文化の代弁と言えます。

人工知能(AI)によって生成された合成データ
名前からわかるように、人工知能(AI)によって生成された合成データは、人工知能(AI)アルゴリズムによって生成された合成データです。
AIモデルは、すべての特性、関係、および統計パターンを学習するために、元のデータでトレーニングされます。 その後、このAIアルゴリズムは完全に新しいデータポイントを生成し、元のデータセットから特性、関係、統計パターンを再現するようにそれらの新しいデータポイントをモデル化することができます。
これは、私たちが合成データツインと呼んでいるものです。

合成データとは何ですか? | シンソ

創作が主観的評価に基づいて行われるのに対し、
AI生成は客観的評価に基づいて行われます。

創作者と生成AIの違いは、学習にも現れています。
創作者の学習は、表現したい個人的な感情に適した、普遍的手法の引き出しを増やすことを目的としており、「表現方法」と「その効果」を紐付けます。
生成AIの学習は、他者の表現を正解だと仮定し、不正解の出力をしないようにすることを目的としており、「表現方法」と「その名称」を紐付けます。

2.同化について

「同化」は社会の支配的な文化・価値への適応、 「共生」はエスニック集団のもつ多様な文化の承認 、「統合」はホスト社会の制度への包摂を意味しているが、一般に「同化」と「統合」はほとんど同じ意味で使われることがある。

アジアの文脈における統合政策の枠組みのために - 国際日本文化研究センター学術リポジトリ p.5

市民的統合アプローチは,移民に対して言語の習得や法,制度,歴史,文化,価値,規範などについて一定の知識を身につけることを求めるが,それは移民を〈市民〉として包摂し,積極的に統合しようとするためである。そうした市民的統合アプローチが目指す方向性は,一見すると同化主義への回帰と映るかもしれない。しかし,市民的統合アプローチは,移民に独自の言語や文化の放棄を迫るものではなく,差異や多様性それ自体を否定しているわけではない。その目的は,あくまでも市民的な共通性を共有することにおかれている。

移民の統合と排除 : イギリスにおける市民的統合の - 法政大学学術機関リポジトリ p.4

異なる文化が同じ領域に存在するとき、以下のような手段がとられます。
同化
 強制的に文化への適応を求める
市民的統合
 非強制的に文化への適応を求める
共生
 文化への適応を求めない

3.生成AI文化は創作文化を同化していると思われる

一般人の判断力から、元の著作者又は演者が分かるようなAI生成物や生成AIモデルが許諾なく作られています。
特定の文化の担い手が、異なる文化に強制的に参加させられている状況だと思います。
(参考:特定の作家模倣・又は特定の目的に特化した生成AI一覧 - ai-illust @ ウィキ | 生成AI(generativeAI)による使用例、諸問題のまとめ - atwiki(アットウィキ))
(参考:コナン君に「#歌わせてみた」流行曲、実はAI偽音声…困惑する声優たち「対処しようがない」  : 読売新聞)
(参考:トム・ハンクス、無許可の“AIトム・ハンクス”登場CMに警告 - ライブドアニュース)

日本大百科全書(ニッポニカ) 「同化政策」の意味・わかりやすい解説
同化政策
ある特定の文化が別の異質文化に包摂されたり、またはある特定の文化を担う集団ないし個人が別の異質文化の担い手の一部分になる現象を、生物の同化現象と区別して社会的同化、または単に同化assimilationという。(略)同化は、自発的にか強制されて文化の違いを調整するなかで現れるのであるが、普通、強制は法、慣習、行政措置を通して、なんらかの抑圧ないし懐柔を伴っており、強制の程度は強弱さまざまである。こうした強制を政策として制度化したものが同化政策である。

 同化は吸収か融合の形をとる。「吸収」の場合、強大ないし支配的な集団は弱小ないし従属的な集団に自らの文化を一方通行の形で強制し、最終的には後者の独自な伝統文化(言語、文字、宗教、芸術、価値観、習俗など)と統一性を喪失させる。(略)
 他方、「融合」は、政策として施行されるにせよ民衆の自発性に基づくにせよ、集団間の支配・従属関係があるにせよないにせよ、また衝突するにせよ平和裏にせよ、異質集団間の相互調整を経て、別の新しい等質文化が生まれる現象である。(略)

同化政策(どうかせいさく)とは? 意味や使い方 - コトバンク

生成AIは学習データの特徴を再現しようとする点から、学習元の著作物の「表現上の本質的な特徴」が感じ取れるような出力を(軽微とは言えない程度に)する可能性が考えられるため、
あらゆる学習元の著作者が強制的に参加させられている(或いは確率的に将来参加させられる)とも捉えられます。
(参考:画像生成したらコラージュだった件 - Zenn )

創作文化においては、作品の制作のために他者の著作物を「利用」する場合は原則として許諾が必要です。
作品を公開しても、他人の創作に勝手に「利用」されないという共通の認識、価値観が根付いています。(その価値観に反するトレパク行為等は問題視されます)

情報を見たり読んだりというのは「使用」であって、こちらは原則自由にできる。それに対し、コピーしたり形を変えたりする「利用」のほうは、のちに詳しく触れるが、著作権(著作財産権と著作者人格権)という権利によって、権利をもつ者に無断で行うことができないのである。

著作権法のもとでの情報解析(<特集>研究開発における情報利用と著作権) p.1

生成AIは、AIに学習させる目的で許諾なく著作物を「利用」できるため、創作文化における価値観の喪失を要求されます。
(参考:イラストレーターたちがAI学習に抗議運動 pixiv上の作品を非公開に - KAI-YOU.net )

こうしたフリーライドの可能性と価値観の包摂が、法律や政策によって強制的に作られているため、同化ではないかと思われます。

4.文化的な生活に参加する権利について

経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約において「文化的な生活に参加する権利」が認められています。

第十五条
1 この規約の締約国は、すべての者の次の権利を認める。
(a) 文化的な生活に参加する権利

外務省 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)

条約機関の一般的意見をもとに、詳しく見ていきます。

49.尊重義務には、万人が有する以下の権利が尊重されるようにするための具体的措置を講じることが含まれる。
 (a)(単独で、若しくは他者と共に、又はコミュニティ・集団内部において)自らの文化的アイデンティティを自由に選択する権利、コミュニティに属し、又は属さない権利、及び自らの選択を尊重される権利。
 これには、文化的アイデンティティに基づくあらゆる形態の差別、排除又は強制的同化を受けない権利、自らの文化的アイデンティティを自由に表明し、自らの文化的習慣や生活様式を実践せる権利が含まれる。したがって、締結国は、自国の法律が、直接的又は間接的な差別により、上記権利の享受を阻害することがないよう徹底するべきである。

日本弁護士連合会 社会権規約 条約機関の一般的意見21

コミュニティに属さない権利、強制的同化を受けない権利も含まれています。
生成AIが「文化的生活に参加する万人の権利」を実現させるというような意見もありますが、他者の「コミュニティに属さない権利」が阻害されるのであれば、完全な実現には至らないと思います。

18.国家は、国や地域の特殊性、さらに様々な歴史的、文化的及び宗教的背景を考慮しなければならない一方で、その国の政治的、経済的又は文化的システムに関わらず、すべての人権及び基本的自由を促進し、保護する義務を負っているということを繰り返し指摘したい。よって、何人も文化的多様性を理由に、国際法で認められた人権を妨害したり、又はかかる人権を制限したりすることはできない。

文化的多様性を理由に人権を制限することはできません。
自己の文化的コミュニティに属する権利のために、他者の文化的コミュニティに属さない権利を制限することはできないのではないかと思います。
そして、生成AIの推進が文化的権利の享受に寄与する場合、考慮すべきことがあります。

16.以下は、文化的生活に参加する万人の権利を、いかなる差別もなく、平等にかつ完全に実現する上で必要な条件である。
(c)「許容可能性」とは、締結国が文化的権利の享受のために採択する法律、政策、戦略、プログラム及び措置が、これと関係する個人及びコミュニティに許容可能な方法で策定・実施されるべきであることを意味する。これに関しては、文化的多様性の保護を目的とした措置が、関係する個人及びコミュニティに許容可能なものであることを担保するため、これらの個人及びコミュニティとの協議が行われるべきである。

文化的権利の享受のための政策は、許容可能性を要します。
関係する個人及びコミュニティに許容可能な方法で実施されるべきです。
現在、多くの団体が生成AIについて声明を出しています。
(参考:生成系AIに対するクリエイティブ団体・企業の反応・対応 - AI画像生成・生成系AI 問題まとめwiki - atwiki(アットウィキ))

43.締結国は、文化的な活動、物質及びサービスが、経済的側面と、アイデンティティ、価値観及び意義を伝達する文化的側面とを有することにも留意するべきである。これらを、商業的価値しか持たないものとして扱うことがあってはならない。特に、締結国は、規約第15条第2項に留意し、文化的表現の多様性を保護し、促進するための措置を採用するとともに、すべての文化に表現と普及の機会を保障するべきである。これに関して、締結国は、人権基準(情報及び表現に対する権利を含む。)に十分配慮するとともに、言葉とイメージによるアイデアの自由な流れを保護する必要性を十分に考慮するべきである。また、マスメディアにより、特定の文化の象徴、シンボル及び表現がマーケティング又は利己的利用のために文脈から切り離されることを防止することも、上記措置の目的となりうる。

生成AIは、「著作物を商業的価値しか持たないものとして扱うこと」や、

この上で、イラストやデザインの仕事を志す若手アーティストへのメッセージとして「イラストやデザインの仕事は、とても退屈な仕事だ。芸術的であるかどうかではなく、あなたは道具なのだ」とし「画像生成AIは今後大きく発展していく。お金を稼ぎたいなら、新しい技術からチャンスを見つける方がずっと楽しくなるはずだ」(エマドCEO)と説明している。

「イラストやデザインの仕事は退屈」──Stable Diffusion開発元の代表インタビュー記事が話題 - ITmedia NEWS

「特定の文化の象徴、シンボル及び表現がマーケティング又は利己的利用のために文脈から切り離されること」に寄与している側面もあります。
(参考:AI動画「ジブリアニメ」AI拡張描画で存在しない背景を描き足したAI技術が賛否両論!キレイと絶賛する声と宮崎駿監督に失礼という声が入り混じる)
生成AIは著作物利用者にとって都合がいいためだと思われます。(詳しくは以前の記事)
これらは文化的利益よりも経済的利益を重視した結果だと思われます。

5.AI生成物の扱いの曖昧さについて

現在のAI戦略の許容可能性に疑問が残ります。
これについて、AI生成物の扱いが十分に検討されていないためだと考えます。
二つ話題を挙げます。

まず著作権法47条の5の、情報解析の結果を提供するために著作物を軽微利用できることに関してです。
情報解析とは、30条の4において「多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。」とされています。
情報解析の結果とは、抽出して比較した結果又は抽出して分類した結果又は抽出して解析した結果であるはずです。

AIによる合成データsynthetic dataは、解析analysisの結果生まれたAIモデルが、合成synthesisした結果です。
解析と合成は逆の操作であり、合成データの提供のために47条の5が適用されるのは適当なのか疑問です。

To analyse is to pull something apart: to give insights into the what, why, where, how, and who.

To synthesise is to draw on one or more sources and infer relationships among those sources in a new and meaningful way, and from which any reasonable person could make plans or decisions.

Experiential Education: Analysis and Synthesis - UNIVERSITY of TASMANIA


(上記引用元サイトより)

To summarise:

To analyse is to:
Examine a situation or text to find its component parts in a way relevant to the particular requirements of the necessity for analysis.
Come to logical and relevant decisions based on our findings.

To synthesise is to:
Bring the component parts together again in a new and meaningful way.
Utilise the results to make decisions and/or plans
Then follow through with the decisions/plans

次に、「既存の著作物と類似性がなく、創作的寄与もないAI生成物」の著作権についてです。
文化庁の「AIと著作権」の「AI生成物は「著作物」に当たるか・著作者は誰か」で示されている、
「著作権審議会第9小委員会報告書」(文化庁・平成5年11月)や「新たな情報財検討委員会報告書」(知的財産戦略本部・平成29年3月)、「次世代知財システム検討委員会報告書」(知的財産戦略本部・平成28年4月)を見ていきます。

第3章 コンピュータ創作物に関する著作権問題について
I 各コンピュータ創作物に共通の著作権問題
3 既存の素材を利用して作成されたコンピュータ創作物の評価について
(1)既存の著作物を入力して、コンピュータ・システムによってそれに処理を施す場合に、結果物を新たな著作物又は二次的著作物と評価するためにも、2の(3)において述べたと同様に、人の創作的意図、創作的行為及び結果物の表現の三つの要件を充たすことが必要であるが、この場合特に、創作的寄与が結果物に外形的に表現されていることが重要であり、それが認められなければ、複製物又は単なる変形物(注)と評価するしかないと考えられる。複製物又は単なる変形物か二次的著作物かあるいは新たな著作物かの評価については、一般の著作物の場合と同様、結果物の外形における類似性と付加された創作的表現の有無や程度に基づいて判断してよいと考えられる。

一般的に言えば、1)ほとんど既存の著作物を利用したのみで、何ら創作的な表現が付加されていないものは、複製物又は単なる変形物、2)既存の著作物の表現に依拠していることが外形上推知されるが、新たな創作的表現が付加されているものは二次的著作物、3)既存の著作物からアイディアその他の示唆を受けてはいるが、外形上既存の著作物の表現が推知されないような独立の創作的表現となっていると認められるものは新たな著作物、ということになろう。

(注)複製物又は単なる変形物
既存の著作物を変形したものであるが、何ら創作的表現が付加されていないものについては、「複製物」に過ぎないという考え方と現に変形はされているので複製物ではないが二次的著作物とは評価されない「単なる変形物」であるという考え方がある。しかし、いずれの考え方によっても、このような変形を行った者には新たに権利は発生せず、また、変形及び変形して作成されたものの複製等の利用について原著作者の権利が及ぶという結論には変わりはないので、これは単なる用語の問題であると考えられる。そこで、以下では、このような場合に「複製物又は単なる変形物」と記述することにする。なお、翻訳の場合についても、同様に「複製物又は単なる翻訳物」と記述する。

著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書 | 著作権審議会/文化審議会分科会報告 | 著作権データベース | 公益社団法人著作権情報センター CRIC

元の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できなければ、「外形上既存の著作物の表現が推知されないような独立の創作的表現となっている(=新たな著作物)」と捉えられますが、
創作的寄与が認められない場合、「既存の著作物を変形したものであるが、何ら創作的表現が付加されていない(=複製又は単なる変形)」とも捉えられます。

II 各コンピュータ創作物に固有の著作権問題
1 コンピュータ・グラフィックス

3)既存の著作物の利用に伴う問題について
写真、美術等の既存の著作物やそれらが組み込まれた画像自動作成システム、データベース等を使用して作成されたコンピュータ・グラフィックスについては、Iの4に述べたように、当該既存の著作物と新たに作成された結果物たるコンピュータ・グラフィックスとの外形における類似性と付加された創作的表現の有無や程度に基づいて、1)複製物又は単なる変形物、2)二次的著作物又は3)新たな著作物と評価される。

例えば、既存の三次元の完全な構成物から二次元の断面図を作成する場合は、断面のとり方は無数に考えられるものの、一つの断面を選択すればその結果は一義的に決定され、断面のとり方の選択のみに創作性を評価することは困難であるため、一般的には複製物又は単なる変形物に過ぎないと考えられる。これに対し、既存の断面図から立体的な絵を作成する場合には、一般に多くの足りない情報を付け加える必要があり、そこに創作性を認める余地があるが、具体的にどの程度になれば創作性が認められるかについては個々の事例に応じて判断せざるを得ないと考えられる。

生成AIモデルを「既存の三次元の完全な構成物」、プロンプトの入力を「どの範囲の断面を選択するか」と捉えると、複製物又は単なる変形物に過ぎないと考えられるのではないかと思います。
生成AIモデルは場所によって断面の絵が変化している金太郎飴のようなもので、AI利用者はどこに包丁を入れるかを決定する、というような発想です。
一つの選択により、新たなデータポイントが数学的に一義的に決定します。

ーーーー追記(2023/10/17)ーーーー

著作権審議会第9小委員会報告書は平成5年のものですが、それ以降に、複製についても類似性を重視する裁判例が出ているようです。
よって、上記の考えは現状に適していませんでした。

実際のところ、最近の裁判例においては、「表現上の本質的特徴の直接感得」というフレーズを、正当にも、「複製」「翻案」を区別せず用いるもののほか、複製権について用いるもの、同一性保持権について用いるものなどが、とりわけ平成20年以降になって増えつつあるように見えるの である。

著作権法における侵害要件の再構成(2・完)
―「複製又は翻案」の問題性―
22~23ページ目

「表現上の本質的特徴の直接感得」=創作的表現の共通性
したがって、「表現上の本質的特徴の直接感得」という基準は、著作権法27条の権利のみならず、複製権や同一性保持権を含むすべての著作者の権利(著作権および著作者人格権)に当てはまると考えるのが妥当である。
従来の議論に見られるように、「複製」と「翻案」を区別して、後者にだけ「表現上の本質的特徴の直接感得」が当てはまると考えるのは妥当でない。
その上で、さらに述べたいのは、「表現上の本質的特徴」とは、現行法では「創作的表現」と言い換えた方がよいということである。
(略)
このような考え方は次の点から正当化される。すなわち、著作者の権利によって保護されるのは、あくまで著作物性(著作権法 2 条 1 項 1 号)のある部分―すなわち「創作的表現」―に限られるのであり、他方、著作物性のない部分に著作者の権利による保護が与えられないのは当然だからである。

同 27~29ページ目

ーーーー追記ここまでーーーー

第3章 コンピュータ創作物に関する著作権問題について
I 各コンピュータ創作物に共通の著作権問題
3 既存の素材を利用して作成されたコンピュータ創作物の評価について
(2)作成時及び結果物の利用における権利の働き方は次の通りである。
結果物が(1)1)の複製物又は単なる変形物となる場合は、その作成について素材となった既存の著作物を創作した原著作者の許諾を得る必要があり、結果物の利用については原著作者の権利のみが働く。

結果物が(1)2)の二次的著作物となる場合にも、その作成について原著作者の許諾を得る必要があるが、結果物の利用については二次的著作物の著作者と原著作者の権利の両方が働く。

結果物が(1)3)の新たな著作物となる場合は、その作成について原著作者の許諾を得る必要はなく、また結果物の利用についてはその新たな著作物を創作した著作者の権利のみが働く。

もし複製物又は単なる変形物とされるならば、現在、働くはずの原著作者の権利が喪失していることになります。

第3章 コンピュータ創作物に関する著作権問題について
I 各コンピュータ創作物に共通の著作権問題
2 コンピュータ創作物の著作者について
(5)データ又はデータベースなどの形でコンピュータ・システムに入力される素材の作成者は、素材自体が著作物であり、コンピュータ創作物がその二次的著作物に当たる場合には、原著作物の著作者たる地位を有するが、一般的には、コンピュータ創作物自体の著作者とはなり得ないと考えられる。

ただし、プログラムの場合と同様、素材の作成行為と使用者の創作行為に共同性が認められるとするならば、素材の作成者がコンピュータ・システムの使用者と共に共同著作者となる場合もあり得ると考えられる。

また、素材の作成者が、プログラムの作成者と共同して特定の創作物の作成を意図して、そのための特定のプログラム及び素材を作成していると認められ、使用者は単なる操作者であるに留まる場合には、素材の作成者とプログラムの作成者が共同著作者となる場合もあり得ると考えられる。

なお、素材の作成者が単独でコンピュータ創作物の著作者となることはほとんどあり得ないと考えられる。

II 各コンピュータ創作物に固有の著作権問題
1 コンピュータ・グラフィックス
(2)創作的寄与の評価について
(略)
なお、図形処理のプログラムの作成者及び形状データ又はそのデータベースの作成者も、特定のコンピュータ・グラフィックスを作成するために共同して作業し、創作的寄与があった場合はコンピュータ・グラフィックスの共同作成者となると考えられる。しかし、共同性がなく、それぞれ独立して作成され、使用することができる場合は、プログラム作成者等はコンピュータ・グラフィックスの作成者とはならず、システムの使用者の行為のみで判断されることとなると考えられる。

また、権利制限規定によって、著作物を公開している(又は海賊版などが違法に公開されている)著作者はコンピュータ創作物の共同著作者になる機会を喪失させられている可能性が考えられます。

(4) AI生成物に関する論点
<現行知財制度とAI生成物に係る状況>
AI生成物のうち、AIによって自律的に生成されるものと定義したAI創作物については、次世代知財システム検討委員会報告書を踏まえた「知的財産計画2016」において、現行の知財制度上は権利の対象とならないと整理したうえで、「フリーライド抑制等の観点から、市場に提供されることで一定の価値(ブランド価値など)が生じたAI創作物については、新たに知的財産として保護が必要となる可能性がある」とされた。
現状、人間の創作的寄与がないAI創作物があると指摘される一方で、実際に市場に提供されているものは人間の創作的寄与がありAIを道具として活用した創作なのではないかとの指摘もあることから、現実に即して検討を深める必要があると考えられる。また、このようなAI生成物が他者の著作権等を侵害する場合や、AI創作物が人間の創作物と見分けがつかない以上、権利を僭称する場合や権利を濫用されるおそれなどについても検討することが急務であるとの指摘もあったことを踏まえ、その考え方についても併せて検討する必要があると考えられる。

首相官邸ホームページ 新たな情報財検討委員会 報告書

創作的寄与が認められる基準が明確でないのに、あたかも市場に提供されているものには創作的寄与があるはずであるかのような、根拠に欠ける指摘があります。
それこそフリーライドや権利の僭称である可能性があると思います。

課題④-2)AIを活用した創作(著作物)に関する保護の可能性
(略)
これについては、選択を含めた何らかの関与があれば創作性が認められるとの指摘があった一方で、単にパラメータの設定を行うだけであれば創作的寄与とは言えないのではないかとの指摘もあり、AIの技術の変化は非常に激しく、具体的な事例が多くない状況で、どこまでの関与が創作的寄与として認められるかという点について、現時点で、具体的な方向性を決めることは難しいと考えられる 。したがって、まずは、AI生成物に関する具体的な事例の継続的な把握を進めることが適当である。以上から、AI創作物の著作物性と創作的寄与の関係については、AI技術の進展に注視しながら、具体的な事例に即して引き続き検討することが適当である。

具体的な方向が決まらなければ、どこからが僭称に当たるのかが決まりません。
ルールが曖昧では秩序が作られません。

課題④-3)AI生成物が問題となる(悪用される等)可能性
・学習済みモデルから学習用データ(著作物)類似物が出力される問題
(略)
当該学習済みモデルに何らかの入力を与えて出力した結果の一部又は全部が、元の学習用データの一部又は全部と同一又は類似する場合をどのように考えるかという問題がある。
(略)
仮に依拠を一律に否定するとAIを利用すれば著作権侵害を否定できるようになり、その結果、著作権侵害を目的としてAIを利用することや実際にはAIを利用しない場合でも侵害逃れのためにAIを利用したと僭称することが想定されるのではないかとの指摘がある。
(略)
この問題についても、AIの技術の変化は非常に激しく、問題となった具体的な事例が多くない状況では、人間の創作を前提とした従来の依拠の考え方をAIの創作の場合に当てはめて良いのか更に検討を進めることが必要であり、現時点で、具体的な方向性を決めることは難しいと考えられる。
(略)
今後、AI生成物の出力に対する利用者(人間)の関与が減少していった場合に利用者に責任を負わせて良いのかという問題が生じる可能性もあるが、現時点でAIの技術の可能性について必ずしも予断することはできず、同様に具体的な方向性を決めることは困難と考えられる。
以上から、AIを利用した場合の依拠や責任の考え方について、問題となった具体的な事例に即して引き続き検討することが適当と考えられる。

先程の「既存の三次元の完全な構成物から二次元の断面図を作成する場合」のような「単なる変形」の考慮が完全に消失しています。
三次元の構造物と二次元の断面図には、外見上の類似性は認められないでしょう。(追記に書いたように、この考慮は不要でした。)
また、データセットの内容が確認不可能な状態の場合、依拠性を一律に否定するとまではいかずとも、一律に隠匿することができてしまいます。

課題④-3)AI生成物が問題となる(悪用される等)可能性
・AI創作物の権利主張・濫用の可能性(AI創作物を人間の創作であるとして市場に供給する問題 )
(略)
以上から、現時点では、AI創作物による人間の創作その他の社会活動への大きな影響が出るか否かは不透明であるため、AIの技術の変化や利活用状況を注視し、引き続き検討することが適当である。
むしろ、AI創作物については、選択や編集・加工等の人間の創作的寄与を加えることで更なる付加価値を生む可能性があり、本検討委員会の第一の視点である産業競争力強化の視点からAIを利活用した高度な付加価値を創出することは重要であると考えられるため、AIを道具として利活用した新たな創作を生みだす活動を推奨することが妥当であり、当面こうした動きの広がりが期待される。

AIの利活用の推進は産業競争力強化という経済的利益を重視した視点であり、
文化的利益を重視すれば、資料に何度も検討の必要性を示す文章が出てきたように、課題が多く残っていると思われます。

3.新たな情報財の創出と知財システム
3.1 人工知能によって生み出される創作物と知財制度
(2)論点1:議論の前提とするAI創作物と現行制度の適用可能性
<AI創作物の保護の必要性の検討>
AI創作物に適した知財保護のあり方を検討するに当たっては、特定の情報についてなぜ「知財」として法的な保護を付与するのか、という知財制度のそもそも論に立ち返って考えることが必要である。
特定の情報を知財として保護する根拠としては、大きく二つの考え方が存在する。一つは、保護によって人間の行動(投資等)を変化させ、社会全体としての合理性を実現するとの考え方がある(インセンティブ論)。もう一つは、各人の頭脳に生じた知的創作物はその者に帰属するものであり、それを主張可能とするために「権利」がある、との考え方である(自然権論)。
前者の視点については、創作をする人工知能への投資や積極的な利用といった人間の動きに影響しうるものであることから、この考え方に照らし、AI創作物の保護の必要性について検討を行うことが適当である(検討の内容は(3)論点2参照)。後者の考え方については、本委員会では、前述の通り意思のない人工知能を前提として議論をしているため、それに基づきAI創作物に権利を付与する必要性は認めにくいと整理した。

首相官邸ホームページ 次世代知財システム検討委員会報告書


(上記引用元資料p.28より)

AI生成物へのフリーライドについて懸念されていますが、
AI生成物による侵害や依拠性についての検討が不十分では、人間の著作物へのフリーライドの抑制ができないのではないかと思います。
インセンティブ論にのみ基づいて保護の必要性が生まれているAI生成物を保護するあまり、
インセンティブ論と自然権論両方に基づいて保護の必要性が生まれている人間の著作物の保護が疎かになるのは、非合理的ではないかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?