著作権の権利制限規定と明確性について、『権利制限一般規定ワーキングチーム 報告書 (平成22年1月)』で言及されている。
著作権の権利制限規定には「一般人の理解において具体的な場面で刑罰が適用されるかどうかという基準が読み取れるかどうか」が分かる必要性があり、抽象的な文言を用いる場合には明確性が確保されるよう注意しなければならない。
「C 著作物の表現を知覚するための利用とは評価されない利用であり、当該著作物としての本来の利用とは評価されないもの」について次のように検討されている。
『文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月)』では非享受目的の利用に関する権利制限規定の明確性について検討されている。
「享受」の意味は明確であるものの、抽象的なただし書きを用いることに関する明確性は検討されていないように思われる。
また、柔軟性と明確性はトレードオフの関係にあり、法を適切に運用するための工夫が求められとされる。下の引用の続きでは委任命令やソフトローを活用する方策が挙げられている。
平成29年2月13日の『文化審議会著作権分科会 法制・基本問題小委員会平成28年度「新たな時代のニーズに的確に対応した制度等の整備に関するワーキングチーム」(第6回)』では明確性について次のような発言があった。
以上をまとめると、著作権の権利制限規定には「一般人の理解において具体的な場面で刑罰が適用されるかどうかという基準が読み取れるかどうか」を基準とした明確性が必要とされる。
刑罰法規は裁判時においてではなく、行為時において既に明確にされていなければならないと考えられている。
柔軟性と明確性はトレードオフの関係にあるため、弱みを補うための運用上の工夫が講じることが求められる。
その上で、文化庁の『AI と著作権に関する考え方について(素案)(令和6年2月29日時点版)』を元に30条の4の明確性の問題点を挙げる。
まずこの『考え方』は法的拘束力のあるものではないため、「一般人の理解」を手助けするためのものだと思われる。
問題点1
ここではただし書きに該当するかについて両論示されている。
当該生成物が学習元著作物の創作的表現と共通しない場合に、ただし書きに該当することはないと考えるべきか、該当することがあると考えるべきか明確でない。
「一般人の理解において具体的な場面で刑罰が適用されるかどうかという基準が読み取れるかどうか」、「守ろうとしている人には守れるだけの明確性があること」という点から条文に問題があるのではないかと考えられる。
問題点2
海賊版の利用がただし書きへの該当可能性を高める要素になるとの意見がある。
しかし2023年4月に文部科学省大臣は次のような考えを示している。
ただし書きの明確性が不十分であるがゆえに考え方の違いが生まれたのではないかと推測できる。
問題点3
『「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関するパブリックコメントの結果について』では、ただし書きに該当する場合を非常に限定的に考える意見や、逆に著作権法に保護されない利益を含めて考える意見が見られた。
これは現に一般人の理解において具体的な場面で刑罰が適用されるかどうかという基準が30条の4から読み取ることが困難であることの証左ではないかと推測できる。