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昭和の底力を肌に浸みこませる     ~~北区西ヶ原・殿上湯

2022年10月10日,北区西ヶ原・殿上湯,廃業。


噂に高い名湯の廃業をあるブログで知った。廃業前日に慌てて駆けつける。殿上湯はJR山手線「駒込駅」か京浜東北線「北中里駅」からテクテク歩く。開店間際に駆け付けるとすでにちらほら常連さん。

テレビカメラを構える男女。youtuber?地元メディア?

後で知ったけれどテレビ東京のクルーだったようです。

脇の通路が開いているので入ってみる。あずまや風のコーナーがある。

真夏に夕涼みをしたかったなぁ

風呂上り団扇で仰ぎながら談笑したり,
将棋を指したりしていたんだろうか。

うん?ドアが開いている。

さては…ボイラー室。内部を除いたのは初めてかも。

このボイラーがテレビ番組で大きな存在感を放ちます。

さて開店。人波をいったんやり過ごしてから入る。

いざ入湯

20代と思しき娘さんが笑顔で迎えてくれる。(テレビ番組で知りましたが,次女の李枝さん。年齢はまさかの…殿上湯の湯質のすばらしさを知った)

ボク「初めてなんですけれど、閉業されると聞いて駆けつけてきました」

李枝さん「わざわざありがとうございます」

受け答えがきちんとしている。

小さいころからご両親の姿を見て学んでいたんだろうなぁ。

入りかけると,後ろから「はい,これ」の声。

お客さんがバラの束を差し出している。

とたんに娘さんの目から涙が零れ落ちる。

いやぁステキな景色を見せてもらった。

粋なお客さんの粋な計らい。
銭湯(みせ)と編み上げてきた粋な時間が垣間見えた。

でも,これじゃ彼女,この先も涙が止まらないだろうなぁ。

さて脱衣所。明るい!
ボクが読んだブログにもあったけれど,廃業しそうな気配が感じられない。トイレも新調,バリアフリー,車いす対応,ウォシュレット。
まだまだ続けていくつもりだったんですね。

このイラスト,フロントの娘さんが書いたに違いない。

いざ浴室へ。
カランの数は20。湯舟がやや変形なので,カランの数が列ごとに違う。
ペンキ絵は,富士山と麓に広がる満開の桜。いや富士山が威風堂々。こんなに前面にせり出している富士も,「富士と桜」の絵柄も,普通のようで,実は珍しいかも。

湯船につかって見上げると,天井も壁もそこかしこが疲れている。ペンキがはがれかかり,タイルもひびが入ったり,欠けていたり…。でも,と振り返りペンキ絵を見つめ直す。これには剥げがない。きっとそう遠くない時期に描きなおしたんだろう。
先ほどの脱衣所と同じく,銭湯(みせ)を守り続けたかった気持ちと,
抗えなかった無念がひしひしと伝わり,勝手にしんみり。

湯温は…ぬるい。深風呂,浅風呂ともに42度,水風呂30度となっているが,湯温計もお疲れなんでしょう。体感40度と20度。
先ほどのボイラーもお疲れ気味か。燃料高騰で腹ペコなのか。
でも,あと2日。がんばれ!いや,もう中国語で「加油」

とはいえ,「井戸水を沸かしています」というだけあってか,じわじわと芯から温まる感じはする。なんだかんだと40分ほどいると,開店時入店の皆さんは入れ替る。ボクもそろそろかと,最後のひとっ風呂。すると!

これぞ「昭和の底力」

おっ,おっ,おぉ,あったまってきたじゃないか。というか熱いぞ。
いいぞ,いいぞ,湯温計は43度のままだけれど,体感は確実に42度までは来ている。よ~~し,よし,よ~~し。ボイラー,やるじゃないか。

見せてもらったよぉ~~。「昭和の底力」

汗が噴き出るまでたっぷり湯に浸かり,大満足!

名残を惜しむ

フロントにはまだ娘さんがいる。おっ花束が増えている。粋な土地柄なんだなぁ(近くに古河バラ園があるせいかもしれない)。

つい二言三言。
ボク「はじめは少しぬるいと思ったんですけど」
李枝さん「あっすみません」
ボク「いやいや,途中からしっかり温まってきて,底力を見せてもらいましたよ」
李枝さん「ありがとうございます」
しっかりボクの目を見つめてくれる。その瞳がキラキラ☆☆
やりとりを聞きつけたのか女将さんが出てきて下足箱まで見送ってくれた。

ボク「残念ですねぇ~。もう50年以上やられていたんですか」
女将さん「いえ,うちはここに移ってからだけでも60~…65年かしら。元々  
    始めてからは120年くらい,今は5代目なんですよ。ここに移ってき
    て建て替えたんですけれど,もうねぇあちこち痛んじゃって…」
ボク「そんなに古い歴史があったんですか。そういえば殿上湯って名前です
  けれど,昔はどこぞのお殿様が入っていたとか?」
女将さん「そうですね。ここは江戸時代に狩場だったんです。それ地名が
    ね,字名が鷹番殿上っていうんです」
ボク「あぁ地名だったんですか。いやぁ勉強になりました。あっそれじゃ井
   戸水の井戸も昔からあったんですかね」
女将さん「そうですよ」
ボク「もったいないですねぇ。その井戸だけでも…あっすっかり長話をして
   すみません。お世話になりました」
女将さん「いえいえこちらこそ。お気をつけて」

外はとっぷり暮れて,しかも雨が降ってきた。

黄金色に輝く姿が美しい

でも,ボクは心も体もすっかりポッカポカ。
「殿上湯」さん,ありがとうございます。いいお湯でした。
初めてだったけれど,また来たくなるステキな銭湯(おみせ)でしたよ。

後日談~~最後の営業日がテレビ放送されました。

2022年12月28日,殿上湯とまさかの再会。
テレビ東京『一軒家丸ごと壊す 名店から銭湯まで″4つの閉店”解体物語』
「銭湯」の文字にビビッと来て予約録画を入れる。そこに殿上湯が登場。

廃業の理由には建物の老朽化以外にも,燃料費の高騰や湯沸かしバーナーの老朽化など複合的な要因があったそうです。

そして,なんと営業終了まで30分も切ったところで,大きなドラマが。
湯沸かしバーナーが停止!
最後の最後まで力を振り絞り,でもゴール目前で無念のリタイア。

いやぁ…ここ…正直,涙がこぼれました。
湯温が下がってしまうため,まだ来るお客さんに謝りつつ暖簾を下げるご主人。
おつかれさまでした。

殿上湯が北区の博物館に記録される

このあと,一抹の救いとなる話題を知りました。北区教育委員会が殿上湯の資料を飛鳥山博物館に保存することが決定!
「江戸東京たてもの園」内の「子宝湯」のように移築されるとよいのですが,北区さんエライ,ぜひそこまではりきってください。


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