見出し画像

自己紹介草(409字)毎週ショートショートnote

伯耆国の姫とお見合いをすることになった出雲国の若君は、無口で人見知りが激しかった。

出雲国の殿が、天守閣で声を出す。
「草!」
「はっ」
突然、黒装束の忍者が畳の上に出現した。ご存知のように草とは忍者の別名だ。

「草、今度の見合いで若はおそらく喋ることができない。お前が代わりに自己紹介をしろ」
「草が自己紹介でございますか?」
「もちろん、わしが文を書くゆえ、おぬしは、それを覚えて喋るのじゃ。まるで若が喋っているように」

「方法は?」
「お前に任せる。忍者のお前の方が詳しいじゃろ」

「その後の会話はいかがいたしましょうか?」
「その後の会話はお前に任せる。頼んだぞ」
「お任せください」

忍者は天井裏に消えた。

見合い当日
若と家来衆の前で、姫が自己紹介をする。

続いて、若の自己紹介の番だ。

突然、天井から降りてきた忍者が仁王立ちしたまま、若の首の後ろを右手でつかんでひょいと持ち上げた。
そして、そのまま喋り出した。

腹話術が誕生した瞬間だった。

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?