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涙鉛筆(毎週ショートショートnote、410文字)

私は自分の部屋で、泣いて泣いて泣き明かした。
何日も何日も泣き続けた。

ぬぐった袖がびちゃびちゃになり、かわくひまがなかった。
その袖を絞ってはまた泣いた。

そして、涙は枯れはてた。
泣こうと思っても涙は出ない。

鏡を見て、涙が枯れたわけではないことを知った。
感情が死んだのだと。

私の前に神様が現れた。
そんな非現実的な現象にもまったく驚かない。表情がピクリとも動かない。

「人間は、泣いてすっきりするように作った。緊張をやわらげて、不安とかマイナス指向の感情が解消されるように」
「と、言われても、私はもう泣くことができません」

神様は、自分の顔写真に涙を書き込めば、自然と涙が出てくる涙鉛筆をくれた。

私は、部屋から出ることにした。

悲しむべき時に泣いた。
うれしいと思うべき時に泣いた。
悔しさを感じるべき時に泣いた。
さみしい気持ちになるべき時に泣いた。

鉛筆は短くなり、使えなくなった。

それを見て、涙鉛筆を使わずに泣いている自分に気づいた。

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