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殺めることが許されるときpart①

僕には殺めたい人がいた。

アイツはいつも名前を呼ぶと他人に怒りを与えるような目をして睨む。

アイツは僕の友人を憎み僕が友人から遊びの誘いを受けたら「こいつ〇〇嫌いだから」と嘘をついて誘いを勝手に断る。

アイツは僕の親を憎み親が病で倒れているのに平気で薬を取り上げる。

僕は聞いた

「なぜそんなことするんだ?」

アイツはこう答えた

「俺はお前を守ってるんだ。そうしないとお前も俺も死ぬぜ」

そうだ。
アイツが僕の前に立ち、横柄な態度をとることによって僕はキャラクターが確立されているんだ。

アイツが死ぬと僕のキャラクターは無くなり価値も無くなる。そんな奴は死んだも同然なんだ。



僕には好きな役者がいた。

その人の主演作を映画館で観終わり帰る途中のコンビニで見たことある名前のライブ告知ポスターがあった。

「あ、この人さっきの映画の主題歌を歌っていた人だ。」

その人はシンガーソングライター。

その響きは昔から毛嫌いしていた。理由は戯言を歌っているように思っていたからだ。

「くだらない。」

僕はその場を去った。

僕の好きなその役者は大きな演劇の舞台にも立っていてその様子は町の小さな映画館で上映されることになっていた。

その映画はお気に入りな場所で、僕は数日後に観に行くことにした。


町の小さな映画館。そこはノスタルジックで本屋やカフェ、雑貨屋なども併設されており近所の方々の溜まり場にもなっていた。

上演時間まで時間があるため館内を物色していると

「あ…」

先日コンビニで見かけたシンガーソングライターの告知ポスターがここにもあった。時間もあるしよく読んでみると、この映画館の1番大きいホールでライブがあるらしい。

一応ライブチケットの値段を見てみると

「3000円!?」

僕には普段好きすぎて通い詰めているアーティストがいる。そのライブは1公演1万円はくだらなかった。

かつての僕は

『ライブチケットというものはみんな1万円はする』

そう思い込んでいた。

つまりそのシンガーソングライターのライブチケットの値段は僕からしたら破格だったのだ。

演劇の映画館上映の時間は迫っている。

揺らぐ心…。

気付いたらそのシンガーソングライターのライブチケットを握りしめたまま僕は観劇をしていた。



映画の主題歌しか知らないそのシンガーソングライターの楽曲。お金を払っていくことだし楽しめるようにレンタル屋さんでCDを借りることにした。

「これ借りときゃ、大丈夫だろっ」

借りたのは一通り網羅できるベストアルバム。

早速、帰って聴いてみると…

"ピッ、ピッ、ピッ"

まるで音が耳にフィットしてくるようだった。

例えるなら『パズルのピースがハマる』だろうか。
音が耳の中に入ってきても違和感が全くなく、
どこかで聴いたことあるような、

子宮で聴いていたかのような心地よい音。
あの感じはうまく伝えられない感触だった。

どんどん聴いていくと12曲目で奴が潜んでいた。

それは
僕が殺めたいアイツだ。

歌詞が丸々、アイツが今まで僕に降り注げてきた言葉たちと一緒だったのだ。

僕は震え悶えて鳥肌が立ち涙した。

「アイツだ…このシンガーソングライターにはアイツが潜んでいる…!」

聴いていられなくなり僕は聴くのをやめた。



そう、僕が殺したい人『アイツ』は僕自身の中にいる人を憎む心だ。



数日後、動悸を抑えながらシンガーソングライターのライブに僕は重い腰を上げながらも参加した。
-今思えば無駄金にはしたくないという気持ちが働いたのだろうな-

ライブが始まった。
歌声を聴いてみると。

(儚い)

と思いながらも人を憎む心を凌駕するようなロックなステージを披露してくれた。

そしてあの曲。
ベストアルバムの12曲目のあの歌も披露してきた。

僕はその曲を聴いていて思った。
たくさんの人の前で

「私は人が憎い!!」

と公の場で歌い叫ぶことでみんなに知ってもらうことによりその醜い自分自身の心をこのシンガーソングライターは溶かしているのではないかと。

『反骨』

そのためにこのステージはあるのではないかと。

そして1番感じたのはその"溶かし"は客席にまで影響してくることだった。

僕が殺したかった"アイツ"はシンガーソングライターの歌によって死滅されたのだ。

いや、死滅ではないかもしれない。

その曲が食べてくれて、その曲に封印されのだ。

「シンガーソングライターは戯言を歌っている」

僕はそう思っていた時期があった。
だけどその戯言は誰しもが抱く心であり誰しもの心を包み込んでくれる歌だったのだ。

僕がかつて人を憎んだ心は確かにあった。

だけどその歌とともに離別し、新たに確立できた。

前に
「アイツが死ぬと僕のキャラクターは無くなり価値も無くなる。そんな奴は死んだも同然。」

と思っていたが、違った。
僕には人がくれた『愛』が確かに残っていたのだ。



その歌は今の僕にとって大切な古いアルバムになってくれている。
シンガーソングライターとの出会い素晴らしい奇跡だった。

人を殺すことは絶対にやってはいけない。
しかし、殺すべき人の心はこの世に蔓延っている。

僕はそう思う。

そして、このシンガーソングライターとの出会いは僕の中にさらに潜むアイツを炙り出していくのだった。

この話は、事実をかなり凝縮したものです。
そのまま話すとかなり長くなってしまうので…
今でも十分長いですが…
このシンガーソングライターに助けられた曲は1曲だけじゃないのでpart2もあります。

#人生を変えた出会い #シンガーソングライター
#お題企画で1番になったらシンガーソングライターの名前を公開しようかな


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