Morfonica の Daylight のヴァイオリンパートを「イントロだけでも何とかギターで弾きたい!」と思っていろいろ試したというお話。

「還暦 BanG Dream!er」を自称する事もあるギター&シンセ好きのZ3(*1)が手持ちの機材だけで色々試した時のお話。

まずはこの動画をご覧いただけますでしょうか。

これは今から1年ほど前の2022年の7月~10月頃にかけて、BOSS のエフェクタータイプのギターシンセ SY-1 で何とかしてヴァイオリン風の音を出そうと色々工夫していたときに収録した動画です。以前からヴァイオリンをフィーチャーしている楽曲 Morfonica というバンドの 「Daylight」 が気に入っていたので、この曲のヴァイオリンパートをイントロだけでもギターで弾いてみたい!と思ったのがきっかけです。そこで手持ちの機材だけで色々試行錯誤する事になりました。以下はその顛末をまとめたものです。

尚、以下の文章中に登場するギターアンプやエフェクター等の名称は外部に接続する BOSS SY-1 を除いてすべて ZOOM G11 に搭載されているモデリングの機能を指しています。

まず最初に問題となるのはギターでヴァイオリンの音域をカバーするにはレギュラーチューニングなら36フレット位無いと高い方の音が出せないという点。最初はオクターブファズかあるいはピッチシフターの様な物で妥協しても良いかと考えたのですが、ふと思い出してみると予約までして買ってはみたもののイマイチ使いどころが無くてお倉入りしていた BOSS の SY-1 には入力信号の1オクターブ上の鋸歯状波系のサウンドが出せる Saw Lead Oct Up というトーンがある事に気が付きました。

これを利用したらイイ感じで出来るかも?

現在メインで使用しているギター周りのシグナルプロセッサは ZOOM の G11 なのですが、これには任意の接続順の場所に差せる Send / Return のユニットが用意されています。これを利用すればいくつかのエフェクターで前処理をした信号を SY-1 に出力し、戻した SY-1 の信号をさらにいくつかのエフェクターで後処理する、という信号の流れを実現するのに好都合です。これで、手持ちの機材だけで何とかなるかもしれない!

まずは、ノイズゲートをかけて弦に触っただけで鳴る様な事を防ぎます。

次に、出来るだけ音を伸ばすためにロバート・フリップ方式を応用する事に。ワウペダルを踏み上げて余計な倍音をカットしつつ Big Muff で音を出来るだけ伸ばすというものです。この接続順については Big Muff の後にワウペダルだ、という説もありますがロバート・フリップ先生の真似をそっくりそのまま行うのが目的ではないのでここでは [ ワウペダル → Big Muff ] の順序を採用しました。いずれにしても、弓の操作で好きなだけ音を伸ばせる本物のヴァイオリンと全く同じというわけには行きませんが、これで大概の楽曲では実用的な範囲で音が伸ばせる様になりました。ホントはサスティナー搭載のギターが欲しいところですが残念ながら持っていません。

その後の段にパラメトリックEQを差して6弦側と1弦側の振幅を出来るだけそろえる様にしています。Daylight でよく出てくる音程の1弦の12~15フレット付近がどうしても弱くなってしまいますし、低音弦側は音が大きくなりがちなのでこれを補正するのが目的です。(但し、これだけでは充分な補正ができませんのでこの動画を撮った後の現在では全体的なトーンコントロール類をいろいろと調整してバランスを取り直しています。パラメトリックEQの各パラメータもかなり変えましたし、他に Big Muff のトーン等もいじっています)

ここまでで前処理した信号を BOSS SY-1 に送り、SY-1 の Saw Lead Oct Up のトーンを ZOOM G11 に戻します。

その後、当初は何の気なしに Fender Twin Reverb のプリアンプモデリング+キャビネット・シミュレータを通してから軽くディレイリバーブを掛けるという流れで満足していました。Fender Twin Reverb のプリアンプのトーンコントロールを適当にいじってサウンドをまとめていたのです。Twin Reverb のアンプ・モデリングを選んだ事には特に深い理由はありません。あまり歪まないクリーン・トーンのギターアンプなら何でも良いかと思って適当に選んだだけですので。しかし、そもそも何故ギターアンプのモデリングを通そうと思ったのか今となっては謎です。無意識のうちにそうしていたとしか言いようがありません。(笑)

ここまでの各ユニットの接続順とそれらのパラメータは以下の画像のとおり。説明は省きますが、ノイズゲートをもう一段掛けています。

ZOOM Guitar Lab 画面のキャプチャ画像 2022年8月頃
ギターアンプのモデリング利用版

結果、「これは中々良いのではないか!?」少なくともオクターブファズやピッチシフターでやるよりは全然イイ感じです。って当たり前か。(笑)

気をよくしてしばらくの間はそのまま件のヴァイオリンのフレーズを耳コピしたり弾きやすい運指とポジションを探ったりと曲の練習をしていましたが、そうこうするうちにふと思いつきました。

『もしも、ヴァイオリンのボディの IR ( Impulse Response )ファイルが手に入ったら Twin Reverb をやめて IR ユニットに換えたらどうだろう? 』
妄想が膨らみます。

ZOOM G11 ではユーザーが用意した外部の IR ファイルを読み込む事が可能な IR ユニットが搭載されています。IR は DAW 方面では convolution reverb で利用する事が多いですが、 ギター用のシグナルプロセッサに於ける IR ユニットの目的は大概の場合ギターやベースのアンプのスピーカーとキャビネットの特性を付加するのが目的です。しかし別に生楽器のボディの特性を与えるために使ったってバチはあたらない(= 壊れはしない)だろうと考えました。(これを書いている2023年7月現在、つい最近知ったのですが中国系ブランドのギター用マルチエフェクターにはアコースティックギターのシミュレーション用に数種類のアコギの IR を搭載している製品があるんですね。まったくもって不勉強でした(笑))

というわけでそれからネットを検索しまくったところ、果たしてヴァイオリンやヴィオラにチェロ等の IR ファイルがいくつか販売されている事がわかりました。「これを買ってみようか?」と思いながらもさらに検索するとフリーでダウンロード可能なヴァイオリンとヴィオラの IR ファイルがある事がわかりましたのでまずはそれを利用してみる事に。

IR ファイルのダウンロード元:  http://pcfarina.eng.unipr.it/Public/IMP-RESP/Violins/   

注: この IR ファイルはサンプリングレートを44.1KHzに変換しないと ZOOM G11 に読み込ませる事が出来ません。

IR を適用した状態の各エフェクターの接続やパラメータの値などが次の画像です。(各パラメータは2023年7月現在では少しずつ変更されています。この写真は2022年10月頃の先の動画撮影時の状態です)

ZOOM Guitar Lab 画面のキャプチャ画像 2022年10月頃
ギターアンプをやめてIRユニットに変更

当初試していた信号経路中の Fender Twin Reverb のプリアンプとキャビネットのシミュレータをやめにして、代わりにフリーのヴァイオリンの IR データを読み込ませた IR ユニットに置き換えています。

そしてこれを使って演奏してみたのが冒頭の動画というわけでした。

これをやってみた結果ちょっと面白いなと思ったのは、ピッキングのアタック部分のギター特有のバチっとしたノイズ音がかなり軽減される事です。もちろん、PCM音源ではないので弓で擦った感じにはなりません。それから素の鋸歯状波の鋭い音色は幾分柔らかくなっています。これらの事からヴァイオリンのボディの音響特性はもしかしたら擦弦楽器特有の耳障りな成分を軽減させる方向も含めて発達してきたのではないか?と思った次第ではありました。

以上がギターでヴァイオリンのフレーズを弾きたいがためにたまたま持っていた BOSS SY-1 と ZOOM G11 を組み合わせて試行錯誤した事の顛末です。

しかし、それから約1年後の2023年7月 BOSS からディバイデッド・ピックアップ方式の本格的なギターシンセサイザーの新製品 GM-800 が発表されたのでこの方向での追及の旅は終わりかもしれませんね。(笑)


(*1) Z3 = 爺さんw


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