名前も知らない人のアカウントを2年かけて特定したら人生が確変に入った
自慢じゃないけどネットストーカーが得意。彼氏の元カノのインスタグラムとか秒速で見つけちゃう。マジで自慢じゃないです。このあいだ、友人がVJをやっているというので1分でそのVJユニットのツイッターアカウントを特定して送り付けたら「ネトスト1級?」と聞かれた。粘着質の賜物ですわよ。
まあそれにしたってアカウント特定にはある程度の手がかりが必要になってくる。名前、居住地、出身大学、エトセトラ。なんらかのヒントが無いとさすがに難儀。別に特別な技術があるわけでもないし、本当にただ粘着質なだけで。
人生で特定したアカウントは数知れず、その中でも一番厄介で一番時間がかかった相手がいました。
かかった年数、約2年。
名前も居住地も知らなかった。知っているのは出身大学と顔だけ。共通の知人なんて1人もいない。
それでも絶対に見つけたかった。
2年間、ずっと膨大なネットの海を潜ってはきょろきょろと探し続けていた。
絶対に、見つけたかった。
◆
2019年の夏、Youtubeのお勧め欄に、突然「サンボマスター」の文字が現れた。
サンボ、そんなに聴かない。別に好きでも嫌いでもない。
なんで突然勧められたのか、と思ってよくよく見ると、どうやらそれはどこかの大学の軽音学部のコピーバンドの動画だった。
コピーか、それなら尚更興味ないや、と一度スルーしかけたわたしが思い直して再生ボタンを押したのは、「60万再生」というコピーバンドの動画では考えられない数字が目に入って戸惑ったからだった。
60万再生?
すごくない?コピバンで60万再生??
60万再生がどれくらいすごいか知りたくて今ちょっと思いついたバンドのMVを確認したら、PK shampooの夜間通用口で31万再生、CRYAMYの月面旅行が43万再生。おれたちの山田亮一が率いるハヌマーンの猿の学生が67万再生だった。ヤマトパンクスとカワノに勝ち、山田とまあまあ競っている。
あと今思いつきで調べた夕闇に誘いし漆黒の天使達の最近の動画は普通に10万もいってなかった。オイ頑張れよ。まあそんなことはいいんですけど。
動画を再生する。「AMERICAN EAGLE」とデカデカとプリントされたえんじ色のパーカーを着た、前髪の長いモサ眼鏡が、早口でなにかを叫んでいた。マジでなに言ってるか聞き取れんかった。どこからともなく「髪切ってー!」とヤジが飛んでいる。
ボーカルが、一通りなにかを叫んで、バスドラが鳴る。
イントロで何の曲かすぐに分かった。青春狂騒曲。世代がドンピシャすぎる。NARUTOしかり銀魂しかりBLEACHしかり、この頃のジャンプアニメの主題歌はマジでどれも最高。よく見たらもう5年くらい前の動画で、っていうことはこの人たち同世代かなあ、とぼんやり思う。
歌いだしの第一声を聴いた瞬間、
頭の中に浮かんだ言葉はただ一つ
「アッッッッ好き」
名前も知らないアメリカンイーグルとの恋が一方的に始まった瞬間だった。
◆
声が良い。良すぎる。歌がちょっとわけわからんくらい上手い。そしてなんせ熱量がすごい。
そんなことを思いながら、通勤中定期的にサンボマスターの動画を観るようになった。60万再生はマジで伊達じゃないよ。
みーんな打ちぬかれとる。勝手に引用してすいません。
でもこの頃はまだ「彼の歌が好き」というよりは「この動画が好き」という感じだった。だけど結構狂ったように動画を観ていた。叫び、歌い、眼鏡を吹っ飛ばし、ギターの弦に拳を叩きつける姿を見て、笑ったり感動したり熱くなったりやっぱり笑ったりしていた。コピーバンドの熱量じゃないのよ。
当時のツイートです。生きる気力まで与えられ出している。
別日には「抗生物質より総合薬より今のわたしに効くのはサンボマスター」ともツイートしていた。いや薬飲めよ。
そんでもって、やや運命的な出来事が起きる。
サンボの動画にハマり散らかしてから数か月が経過した頃のある日のこと。
たまたまなんとなく、YouTubeで「バズマザーズ コピー」と検索をかけた。これはどうでもいい情報なんですけど、わたし自身学生時代コピーバンドを齧っていた為、好きなバンドのコピーを無性に漁りたくなる時があります。
出てきた動画の中で一番再生回数が多い動画を試しに再生したら、なんとアメリカンイーグルの彼が歌っていた。
え!?
いつも見てるサンボの人だ!?!?
眼鏡外すとこんな顔なんだ!?!?
はああバズマも歌いこなしちゃう感じなんだ
ていうかギターうめえな
一曲目にバックステージジャックガールってガチの人の選曲じゃん
スーツ似合うな
声が好きすぎる
声が、好きすぎる、マジで
いろんな感情が脳をぐるぐる駆け回った。脳が溶けるくらい良かった為、思わずコメントも残した。
「この動画が好き」が、「この人の歌が好き」に、変わった。
さっき恋が始まった瞬間とか書いたけど、多分本当に恋が始まったのはバズマザーズの動画を見た瞬間だったと思う。
声が、いい。歌声が凄まじくいい。
MCの声もいい。喋り方もいい。関西弁がキツすぎずゆるゆるとしていて格好良かった。内容はややすべってたけど。
なんかわからんけどもう顔も好きな気さえしてきた。一重の男、好きだし。
サンボの動画ばかり観ていた頃はそれだけで満足していたのに、好きすぎて全然足りなくなってしまって、彼が歌っているコピー動画をひたすら探すようになった。
米津玄師、サカナクション、a flood of circle、ナンバーガール、スガシカオ、ポルノグラフィティ。軽音学部のアカウントを掘ると出てきたそれらは、当たり前にどれも良かった。し、他の動画でも結構な確率でアメリカンイーグルのパーカーを着ていた。なんでや。そんなに気に入ってんのか。
あらゆるジャンルの曲を歌いこなしていた。どれも微妙に違う歌い方で、でも全てに彼の声特有の良さが出ていた。
毎日とは言わないまでも、わりと定期的に、彼の動画を見るのが日課になった。
彼が今なにをしているのか知りたい。そう思うようになるまで時間はかからなかった。
どの動画も、全部4~5年前の動画だ。彼はどう計算してもとっくに社会人になっている。いやわからんけど、ヤマトパンクスみたいに7回生とかになってる可能性もあるけど。軽音サークルのやつらってマジで全然卒業しませんよね。
彼は今何をしているのか。今もバンド活動はしてるんだろうか。あれだけ声が良いんだから、コピーではなくオリジナルで活動している可能性もある。だとしたら絶対に応援したい。
知りたい。
もっとこの人の歌が聴きたい。
「関西学院大学 サンボマスター」
「絶対生きるもんズ」
「関学 バンド」
調べても調べても手掛かりはつかめなかった。ていうか無理すぎ。難攻不落。名前も知らねえし。なんだこのクソみたいな検索ワード。
それでも定期的に、なにかヒントを、と思って検索を続けた。
唯一手がかりっぽかったのは、彼が歌うバズマザーズの動画を載せているアカウントの名前が個人名だったことだった。彼本人じゃないにしろ、バズマザーズを一緒にコピーしているメンバーである可能性は高いと思った。
その名前を秒速で検索してツイッターアカウントを特定、フォローしてすぐフォロバが返ってきたのでDMするも、
会話、爆速で終了。
さすがにここで「バズマザーズのコピーの動画載せてますよね!?あの動画でボーカルやってる人って今何してるんですか!?」と尋ねる勇気はなかった。怪しすぎる。
ていうかこのDMを送った日付に注目して欲しいんだけど、2020年7月、既にサンボの動画に出会ってから1年が経過している。全然めげてない。1年間なんの手がかりも得られなかったのに、まだ探すつもりでいる。怖い。
◆
本当に何も見つけられないまま、アメリカンイーグルに焦がれ初めて約2年が経過しようとしていた。定期的に検索を試みても駄目だった。ネトスト1級とはなんだったのか。
でも執着だけはいっちょ前。雪国の女の執念深さを舐めないで欲しい。2年間、マジで一度も諦めていなかった。本当に怖い。
でもそれくらい、彼の歌声が好きだった。
そして忘れもしない2021年4月17日。
その日わたしは土曜出勤のため職場に向かっていた。地下鉄の中で、いつも通り彼の動画を観る。
なんとなくサンボの動画のコメント欄をスクロールする。「鳥肌が立った」「アツすぎる」「ボーカル最高でびっくりする」「ドラム東京03の角田に似てね?」などのコメントが並ぶ中、ひとつのコメントに手が止まった。
「このギタボの山田君が今バンドをしているのか、オリジナルやってるのか。もしやってたら、本気で応援したい!」
オイ!!!!
名前!!!!!!!!!
山田っていうんですね!!!!!!!!!!
※仮名
職場について、仕事そっちのけで会社のパソコンで大学名と苗字を並べて検索をかけた。
出てきたのは彼のFacebook。本名フルネームが判明。えっ、名前、めちゃくちゃ珍しくて良い名前だな………………
知り得たフルネームを検索すると、次に出てきたのはツイッターのアカウントだった。
◆
夢かな、と思った。思いました。ずっと探していた。2年かかった。
突然DMに凸をかましたわけわからん雪国の女を気持ち悪がることもなく、彼は「もう新たな供給がなくて申し訳ないから」と、昔コピーしたBUMPとハヌマーンの動画を送ってくれた。心、エーゲ海より広い。
ていうかBUMPとハヌマーンって。わたしの3大好きなバンドがthe pillows、BUMP OF CHICKEN、ハヌマーンだと知っての所業でしょうか?はあ?運命?
知ったばかりの彼のフルネームをYouTubeの検索欄に打つと、彼のお母さんが個人的に撮って載せていたらしい古いライブの動画がたくさん出てきた。
ピロウズ、BUMP、ハヌマーン、The Cheserasera、ACIDMAN、THE PINBALLS、WHITE ASH、フィッシュマンズ。
好きな曲ばかり歌っていた。泣きそうだった。2年間、焦がれていた、世界で一番好きな歌声が、好きな曲ばかり歌っている。そんなことがあっていいいのか。いいんすかね?
ずっと知りたかった彼の名前を、なぞるように頭の中で反芻した。
本当に綺麗な名前だった。
もう脳内でアメリカンイーグル呼ばわりせずに済む。名前を、呼べる。
で。思いが昂った結果、
我慢が出来なくなった。
人は欲張りな生き物です。名前を、知って、好きな曲を歌っている動画を観れて、それだけで十分すぎるくらい想いは叶っていたのに。
次の日の朝「山田です」とLINEが送られてきたのを見て、喜びで溜息をついたのだった。
◆
ここまで過去の回想が続いたので、一旦少しだけ現在の話をします。
2022年現在。わたしが彼のアカウントを特定してからは1年、名も知らないアメリカンイーグルに釘付けになってからは3年が経つ。
ついこの間、わたしの苗字は、27年連れ添ってきたものから、あの日コメント欄で見つけたものに変わった。
人生、確変です。
ネトストしたら結婚決まった。
◆
回想に戻ります。
LINEを交換したのち、翌日の夜には初めて通話をした。電話の向こうの彼は死ぬほどキョドっていた。声を聴く瞬間まで友達のいたずらかなにかだと疑っていたらしい。ウケる。
しかし話し込んでいるうちになんとなく打ち解け、5時間に渡る通話も佳境を迎え、深夜2時を回る頃、なにがどうなったのかわからんけど彼は住んでいる福岡からわたしのいる札幌まで会いに来る飛行機を取った。スピード感どうなってんだ?
翌日電話で「わたしのこと好きになったってこと?」と聞いたら「こんなんなるに決まってるやろ!!!!」と半ギレされた。
単純すぎない?
そうして毎日LINEや通話を繰り返し、連絡先を交換してから3週間後に初対面、空港に現れた彼はアメリカンイーグルの面影もないお洒落な服を着ていて、わたしと同じDr.Martensの靴を履いていた。ちょっと笑えるくらい手が震えていた。「見れん、はあ、無理」と全く目を合わせてくれなかった。
それでもなんとなくこちらを見て話してくれるようになった頃合い、札幌の良い感じの居酒屋で、彼はシルバーのキラキラした指輪を差し出して、「付き合ってください」と言った。
驚きながら「宜しくお願いします」と答えた後に「結婚を前提に」と付け足した。オッケー出てから後出しするの姑息では?
そんでその後、福岡⇔札幌という2050km距離がある恋を、その距離感にも関わらず月2回~3回は会うという馬鹿頻度でこなしていった。
日本列島縦断。ウラジオストクで会った方が早いまである。
で、紆余曲折あり、今に至る。
◆
夫婦おもしろ馴れ初めグランプリがあったらいい線いくと思う。本当に粘着質の賜物。
お互い結婚に焦っていたわけではなかった。わたしはそもそも結婚に拘りがなくて一生独身でもいいと思っていたし、彼はなんとなく35歳くらいまでに結婚出来ればいいと思っていたらしい。ほんとかよ。4回目くらいの電話で、まだ付き合いたいとかそういう風に踏み切れずに「付き合うってことに意味があると思えない」と言ったら「それはなんとなく俺もわかるよ、でもじゃあ結婚とかは意味あるなあと思うから、結婚するっていうのはどう」と言われて、膝から崩れ落ちて笑ったのを覚えている。結婚願望ない人の台詞ですかこれは?わたしも怖いけどこいつも怖いだろ。
結婚がどうとか言う以前に遠距離なんて恐ろしいものに足を踏み入れたくもなかったし、そもそも会ったこともなかったのだ。勝手にネトストしてただけで。
馬鹿みたい、信じられない、なにこのスピード感、と怯えるわたしにアメリカンイーグルは電話でこう言った。
「なんとなく手近な人見つけてインスタントに寂しさを解消するか、それが出来なくてもこの人がいいかと思うかって話になってくると思うんやけど、距離とかかるコストと精神的負荷とを考えたときに、俺はそれでも絶対にこの子がええなと思った。なにがあっても手放したくない。やっぱり無理ですってなってもええから1回試しに俺のもんになってみてくれ」
少女漫画?
目つき悪くした佐伯ポインティみたいな風貌なのに、王子様に見えてきた。
あの日トップスピードで距離を詰めてきた見知らぬ雪国の女を「最初にDM来たときは誰やねんこいつと思った、でもツイッターの写真遡ったらタイプやったからテンション上がった」と笑う現金な彼は、遠距離の間、「なにか歌って」とせがめば電話口でギターを弾いてくれたし、今は目の前で歌ってくれる。動画の中と同じ声のそれを聴きながら、自分で掴み取った幸せだといつも思う。降って湧いでてたものではない。執念と、執着で、掴み取った。彼を見つけた。ネトスト1級で良かった。良かったね!!!
そういえば余談なんだけど、彼を探すあまり動画のアップロード者をフォローした1年半前、彼のまわりでは「山田を探している女がいる」とそこそこ噂になっていたらしく、彼の親友と初めて3人で飲んだ時「あの時の子やろ?辿り着いたんやなあ…………」としみじみ言われて結構笑ったしわたしマジ怖いなと思った。
でもまあ良かったよ。いや良いのか?
良いです。夢みたいな話だよ。世界ではこれも愛と呼んで欲しい。執念深くて良かった!ぜってー幸せにしよーっと。
じゃあね。
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