見出し画像

キャンディ・ハイウェイを自転車でゆく

大学生の頃、なんだか常に恋をしていた。
いつも誰かからの返事を待ってはドキドキして、誰かの好みに合わせて服を選んでメイクして、結構病んでたまに泣いて、朝方インスタグラムに長文を載せてみたりして、そんでそういう自分のことがあまり好きじゃなかった。恋ばかりしていたのに恋を軽んじていた、あたしいっつも男の子のことばっかりで気持ち悪い薄っぺらいつまらない‼️って思っていた。

掛け持ちしてたサークルも2つとも中途半端で、バカ真面目に単位だけは落とさず卒業したけど勉強した内容なんてひとつも覚えてない。就活の時エントリーシートが埋められなくてパソコンの前で泣いた、あたしなんにもしてきてない!4年間、なにもしてない…………恋しかしてない。学生時代打ち込んだことは恋です❗️恋してました❗️好きな男の子のこと駅で3時間までは待てます❗️誰がそんな女採用するんだ。確か3時間駅で男の子を待った話は実際にエントリーシートに書いた気がする、ウケてくれ~~~と思ったけど書類選考1社しか受からんかった🎶その1社に就職したらブラックだった。さもありなん。

現代宗教学はA+だったけど恋はC-ってとこだった、マーージで片思いが叶ったこと一度もない!本当に全然振り向いてもらえない、でも相手にされてないなと気づくや否や「時間の無駄かも🎶」と見切りをつけることは出来て、でもすぐまた誰かのこと好きになった。だからすごい周期で色んな人のこと好きだった。
で、好きな人が出来る度、近所のTSUTAYAまで好きな人の好きなバンドのアルバムを借りにいった。10枚で1,000円!チャリで戻って、ウォークマンに取り込んでからまたチャリで返しに行く。サブスクってちょー便利だけど、好きな人のことを考えながらTSUTAYAまでチャリ飛ばしてる時間の狂おしさには代えらんなかったよ。
色んな男の子の影響で色んな音楽を聴いた。好きになれたものもなれなかったものもあった。



ハタチの時、札幌のマディーガールというバンドのボーカルのことが少しの間好きだった。さっぱり相手にされなかったからすぐに好きじゃなくなったけど。でもバンドは格好良かったな、こういう時他のバンドの名前出すのどうかとも思うけどアジカンとサカナクションを足して割ってなにか少しまた足したみたいなバンドだった。弟の同級生がドラムを叩いていた別のバンドのライブを見に行ったらマディーガールも出てて、格好良くて、帰りEP買って帰った。今も多分実家にある。

真っ直ぐ通るクリーンな声で歌う人だった。声は高くないけど音域が高かった。でも前身のバンドではしゃがれ声で歌っていたと聞いた。YouTubeに1曲だけあがっていたその時代のPVを呆れるほど繰り返し観た。もうこの声では歌わないんですかと聞いたら「喉死ぬから」と笑われた。
どういう流れだったか覚えていないけど、その人と、ベースの人と3人で、一度だけカラオケに行った。狸小路のナナイロに入ってるカラオケマッシュ。時間は夕方だった。ほんの1時間だけ歌って解散した。選曲に困って、2人がガンプラ好きなのを思い出してthe brilliant greenのAsh Like Snowを歌った記憶がある。あたしは本当にこういうどうでもいいことはいつまで経っても忘れないんだよな。

好きだった人は、何度せがんでも「絶対に嫌だ」と聞かせてくれなかったしゃがれ声を、たった一度、1曲だけ、聴かせてくれた。


次の日TSUTAYAに走った。まだ出たばかりだった『GOLD TRASH』を、1枚だけ借りて帰った。



あたし、4年間ずっと誰かに恋してた。別に悪いことじゃなかったなって思えるようになったのはつい最近だ。好きな音楽どれにも別々の男の子のにおいがする人生フツーにキショいよ‼️と思ってたけど、自分のものにしちゃったあとにどう愛するかはあたしの世界だけの話だし。

2023年11月26日、飲み会から帰ってきた配偶者が言葉少なにテレビをつけて、YouTubeでROSSOのライブ映像を流してぼんやり観ていた。
ミッシェルとROSSOは愛しているけどバースデイは通っていないという配偶者に「じゃあわたしの好きな曲流すね」と言ってあのPVを見せたら、Cメロの歌い出しを聴いて両手で顔を覆って泣き出してしまった。尾崎世界観が追悼のエッセイで「チョコレートドーナツみたい」と言ったあの声と、あたしが最後に恋した男の子の啜り泣きだけ部屋に響いてた。

そうだ、あの時ハタチだったなあたし、と思った。
ハタチだった。どこにでも転がってるようなしょーもなくて短い恋だった。連絡先も残ってないし顔も名前の漢字も覚えてない、余計なものは削ぎ落とされて音楽だけがあたしのものになって、別れの日まで8年間消えずにいてくれた。お前に会えて良かったよ、心底!薔薇に囲まれて歌うロックスターへ。

あたし、昔、なんだか常に恋をしていた。
馬鹿みたいっていうか実際馬鹿なんだけど、あたしは人の良いところを見つけるのが今も昔も得意で、だからすぐに誰かのこと好きになっちゃえた。特技も取り柄もないから恋で戦ってた。悪くない、別に悪いことじゃないよ、好きな人の好きなものを好きになりたかった可愛いあたしのおかげで出会えたものがたくさんあった。あたしが赤いチャリで飛んでいっていたTSUTAYAはもうないらしいけどそんなことはどうだっていいんだよ。
じゃあまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?