映画『ツイスターズ』(原題:Twisters)2024)感想

軽いネタばれあり。

映画『ツイスターズ』本予告 2024年8月1日(木)公開

『Twister』 (1996)(以下「前作」)を連想させるタイトル。リメイクではないがキャラクター設定やプロットに似た部分も多くいわゆるリブート作品ということになろう。実際、エグゼクティブ・プロデューサーにはスピルバーグが入ってるし、前作同様ユニバーサルとワーナーとともにアンブリンが製作者としてクレジットされている。前作の登場人物は出てこないが、前作に登場する観測機器「Dorothy」(いうまでもなく、竜巻に巻き込まれる『オズの魔法使い』の主人公の名にちなんだものだ)の改良型である「Dorothy V」が使われる。世界観を共有する続編とみる方がよいのかもしれない。

Twister (1996) | 4K Ultra HD Official Trailer | Warner Bros. Entertainment

主人公ケイトは前作と同様科学者の女性で、過去のつらい経験からstorm chaserではない仕事に就いているが、旧友に頼まれチームに加わる。前作を見たときは「こういう仕事が世の中に存在するのか」と不思議に思ったものだが米国ではそこそこ知られた存在であるらしい。というのも米国では竜巻の被害自体がそれほど珍しくないからで、本作にも他の作品にも出てくるtornado alley(竜巻街道)は実際に米国中部あたりの竜巻多発地域を形容することばだ。実際、ちょっと前にも、竜巻から逃れてきた家族をstorm chaserたちが救出したという報道があった。

The New Tornado Alley: 東進する竜巻街道(日経サイエンス)
Family of four survives direct tornado hit after being rescued by storm chaser (CBS Mornings 2024/05/06)

上記記事では「米国は毎年およそ1,200の竜巻に襲われる」とある(2023年では1,400ぐらいに増えているらしい)。当然、被害も深刻。なんとかしたいという努力が続けられているものの、そもそも竜巻自体の解明がまだ充分ではないようで、実際の竜巻を観測する必要がある。とはいえ何しろいつどこに現れるか直前までわからず、そう長く存在するわけでもないので、追いかけて回る必要があるわけだ。研究だけでなく、映像としてとらえようという人々もいて、本作にもそういう人々が出てくる。前作では2つの研究者チームの競争として描かれていたが、本作では研究者チームとYouTuberチームが竜巻を追いかける。

前作ファンとしては前作とのちがいを当然意識してしまうわけだが、女性のstorm chaserを主人公にしている点もさることながら、前作と同じ元NOAAのGlobal Systems Laboratoryでdirectorを務めたKevin Kelleher氏が竜巻に関するコンサルタントを務めているなど、基本的に科学的な裏付けを重視している点などは共通している。前作で登場した、竜巻の強さを表すFujita Scaleは2007年に改良版であるEnhanced Fujita scaleになっているが、もちろんこれもきちんと反映している(本作では双子の竜巻が発生したシーンでチームのメンバーが「Fujiwara effect!!」叫んでいることも併せ、この分野での日本人研究者のプレゼンスの大きさが伺えるのはちょっとうれしい)。

もちろん娯楽作品だから事実そのままというわけはなくて、前作では「竜巻のデータをとる」ことが目的となっていたが、本作では「竜巻のより詳しいデータをとる」と同時に、人工降雨にも使われるヨウ化銀を竜巻の中に打ち込んで雨を降らせ竜巻の勢いを削ぐことで「竜巻を手なずける」(「tame a tornado」と表現されている)ことをめざしている。これは原理的にありえなくはないが実際には難しいだろうというのが専門家の間では概ね合意されているようだ。

Twisters asks if you can 'tame' a tornado. We have the answer

前作と異なる点の1つはstorm chaserたちの背景がより解像度高く描かれていることだろう。前作では研究者のチームという以外はよくわからなかったが、本作では主人公が加わる研究チームには不動産業者がスポンサーとして加わっており、研究活動が資金獲得のためのビジネスとの結びつきによって歪められがちになるという、学術界隈でよく問題になる現状を批判的に描いている。

一方、主人公と競うチームを率いるタイラーはYouTuberで、竜巻の映像配信やグッズ販売などで稼いでいるが、元は研究者であるという設定のようだ。ドローン撮影を駆使することも含め、この時代ならではという感がある。実際にこういう人はいるようで、このタイラーのモデルなのではないかといわれているReed Timmer氏はディスカバリーチャンネルの番組『Stormchasers』にも出てくるが、彼も研究者でありつつ、動画配信やグッズ販売などで資金を集めている。竜巻の中に入って撮影するための車を作っていたりするという点では本作のタイラーよりさらに過激かもしれない。前作の登場人物にちなんで「過激先生」(The Extreme)と呼んでもいい過激さだが、観測機器をロケットで竜巻の中に打ち込むというDorothyを想起させる研究を行ったりもしている。

Reed Timmer - YouTube
Storm Chasers- Kirksville Tornado Intercept 5/13/09
Dominator 3 Tornado Tank ULTIMATE Tour
Timmer et al. (2024). “Design and rocket deployment of a trackable pseudo-Lagrangian drifter-based meteorological probe into the Lawrence/Linwood EF4 tornado and mesocyclone on 28 May 2019.” Atmospheric Measurement Techniques 17(3):943-960. DOI:10.5194/amt-17-943-2024

気に入ったのは、本作が前作と比べて恋愛要素が薄いことだ。本作でもそういう雰囲気は漂っていて、ケイトとタイラーは紆余曲折あって一緒に行動することになり、最終的にはいい感じになるのだが、ハリウッド映画でよくある「ラストで男女がキスする」みたいなシーンはない。最近の作品では以前より少なくなってきているかもしれないが、ああいうとってつけたようなお約束シーンを常々苦々しく思っていたので、本作はその点で前作より好ましい。全体として、本作の主人公ケイトは前作の主人公ジョーと比べてより自立していて自律的に行動する人として描かれているという印象を受ける。

竜巻が登場する映画は少なくないが、竜巻そのものを主体に描く作品はかつてはそれほど多くはなかった。というのも竜巻を映像として描くのが難しかったからで、それが大きく変わったのが1996年の前作だった。1990年代は、『Terminator 2』(1991)、『Jurassic Park』(1993)、『Jumanji』(1996)(前作に登場する空飛ぶ牛のCGIはこの作品のシマウマから作られたらしい)、『Titanic』(1997)など、ちょうどCGIが劇場用映画の実写作品に本格的に導入されていった時期にあたる。竜巻は物理的な現象でもあるし、ある意味CGIに向いている素材でもあるのだろうが、あの時期だから実現できた作品だったともいえる。

その後は映画の題材としての竜巻への関心が高まったのだろう、竜巻との闘いを主なテーマとする作品がさらに多く作られるようになった。この背景には2000年代以降、3DCGの技術がさらに発展し広く普及していったことがある。「スター・ウォーズ」シリーズも4作めとなる『Star Wars: Episode I – The Phantom Menace』(1999)で初めて本格的にCGIを導入している。

Into the Storm (2014)
Death Storm (2021)
SUPERCELL(2023)

ドキュメンタリーもいくつも作られている。Storm chaserは何やらかっこよくみえるのだろう、ドキュメンタリーでは多く取り上げられていて、また彼ら自身も動画配信を行っていたりして取り上げやすいという事情もあるのかもしれない。

『Tornado Alley』(2011)
The Last Chase: Remembering Tim Samaras | National Geographic(2013)
Storm Chasers: On the hunt for tornados(2022)
Most Powerful Forces on Earth: Tornadoes | Fatal Forecast | Free Documentary(2023)

しかし、竜巻映画はこうした「まじめ」なものばかりではない。これまでの竜巻映画を並べてみると、「ネタ系」の竜巻映画が少なからず含まれていることがわかる。実験失敗で発生する氷の竜巻、エイリアンの地球侵略作戦としての竜巻、強力な磁場で金属を吸い寄せる竜巻、特殊な燃料の火災から発生する炎の竜巻(火災旋風をイメージさせるが発生メカニズムがまったくちがっていて概ねネタ系だ)と、まあよく考えつくものである。

Ice Twisters (2009)
Alien Tornado (2012)
Metal Tornado (2014)
Fire Twister (2015)

ここまできてはっと気づかされた。おバカサメ映画の金字塔といってもよい「シャークネード」シリーズの作品もまた、このネタ系竜巻映画の系譜の中に位置づけることができるものであるということだ。

Sharknado (2013)
Sharknado 2: The Second One (2014)
Sharknado 3: Oh Hell No! (2015)
Sharknado: The 4th Awakens (2016)
Sharknado 5: Global Swarming (2017)
The Last Sharknado: It's About Time (2018)

竜巻映画の系譜における『Sharknado』(2013)のイノベーションといえるのは、サメだけを巻き上げる竜巻が起こる理由についての説明をほぼ放棄しているということだろう。大ヒット(それなりの)した結果作られていった続編の中ではそれらしき説明があるにはあるが、その時点では既にシリーズ全体がお笑い化していたので、誰も理由など気にしなくなっていた。既にシャークネードは「そういうものだ」ということで押し通す雰囲気が醸成されていたわけだ。

こわい題材をネタ化して描く作品ジャンルの例としては他にゾンビ映画がある。1986年の第1作以降シリーズ化された『バタリアン』も元は1968年の『Night of the Living Dead』のパロディだったが、他にもネタ系のゾンビ映画は少なからずある。日本でも『カメラを止めるな!』(2017)はこのジャンルに入るのだろう。

『Batallion (The Return of the Living Dead)』(1986)
『Return of the Living Dead Part II』(1987)
『Return of the Living Dead 3』(1993)
『Shaun of the Dead』(2004)
『Return of the Living Dead: Necropolis』(2006)
『Return of the Living Dead: Rave to the Grave』(2006)
『Planet Terror』(2007)2
『Zombieland』(2009)
『How to Kill a Zombie』(2015)
『Cooties』(2015)
『Anna and the Apocalypse』(2017)
『Zombie Tidal Wave』(2019)
『Zombieland: Double Tap』(2019)

近年のネタ系竜巻映画も、こうした発展を遂げることになるのかもしれない。サメと同様(もしくはそれ以上に)竜巻は人間の恐怖の対象だ。だからこそパニックアクション映画における定番のテーマとなるわけだが、まさにそれゆえに、恐怖を逆手にとったネタ系作品が作られる余地がある。まさに「恐怖と笑いは紙一重」であるわけだが、それを作品として描くことは、安全な場所で体験する恐怖はそれ自体が娯楽でもあるからなのだろう。

もちろん本作はネタ系ではないが、登場するstorm chaserたちはかっこいいし、何より竜巻の映像は圧倒的で、娯楽としてじゅうぶん楽しめる作品になっている。前作のヒット以降、竜巻研究の資金調達はだいぶ楽になったとか、前作を見て気象学者になろうと決めたとかいう話を聞いたことがあるが、本作でもそういうことは起きるだろう。実際、以前から米国中部で行われていた観光目的の竜巻追跡ツアーには客が殺到してキャンセル待ちの状態になっているという。

「竜巻追跡ツアー」が米国で人気沸騰、映画『ツイスターズ』で

興味本位で危険に近づくのは感心しないが、安全を確保したうえで実際に竜巻を見ることがきっかけで研究者の道に進む人、資金面で支える人、竜巻への備えを進める人が増えていくのであれば、悪いことではない。そのきっかけを本作がもたらしたのであれば、社会にとっても有益というものであろう。個人的には、「シャークネード」シリーズが一段落したようだし、今後のおバカ竜巻映画の発展にも期待したいところだが。

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