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記憶力が低下した高齢者が働ける環境をつくれた視点

介護事業所と配達業者が連携し、配送の一部を高次脳機能障害で記憶力が低下した高齢者に代行してもらう取り組みが、福岡県大牟田市で始まっている。この取り組みは、小規模多機能型居宅介護施設「てつお」とヤマト運輸が実施。高齢者には手当が入り、配達を行うことで顔が知られ、行方不明の際に住民に気付いてもらえる。また宅配業者は業務の負担が減るなど双方にメリットがある。このような代行配達は全国でも珍しい。今回はこの取り組みを実現させた「てつお」の管理者である、浦幸寛さんにお話を伺った。

連携が始まった経緯

取り組みのきっかけは、2017年12月に地域共生フォーラムが開催。農家や運送業、福祉関係者など様々な業種の50名ほどが集まったことからだった。

「フォーラムの中で各地区ごとにグループワークがあり、そこでお互いの問題点を出し合いました。私が感じていたのは、ご利用者の中で土をいじりたいという方がおられましたが、そのネットワークがないために実現できていなかった。なので、様々なネットワークを構築できれば、ご利用者のご希望に少しでも寄り添えるサービスができるのではないかと思っていました。」

農家以外にも、配達業者との連携の話が進んだ。しかし、話が進んでいくにつれ、連絡が途絶えることが2社続いた。そこで、3社目のヤマト運輸には、支社から話を進めるのではなく、市の仲介担当者が直接本社へ出向き、話を聞いてもらうことにした。すると、この提案に興味を持ってもらい、市と企業、事業所が協働することで実現するに至った。

「話を進める中で心がけたのは、生産ではなく、福祉としての部分をいかに理解してもらえるのか。お互いの目的を共有した上で話を進めていくことで、いい関係性が構築できると考えました。そもそも最初は、お互いの事業を理解していなかったので。すると、お互いの共通する問題点として上がったのが、人材不足。なので、お互いが手を取り合って地域の活性化をやっていこうということで一致しました。」

てつおさん写真②

記憶力が低下した方が配達員になった訳

「配達員をされている方は、今まで頻回に行方不明になることがありました。その中でも一番のきっかけになった出来事は、1年ほど前に行方不明になられた時のことです。その時は最終的に、7時間ほど歩かれていて、隣の市まで行かれていました。その2週間後に、どこを歩いていたのかがわかりました。それは地域の方からの声でした。地域の方もその時に声をかければよかったね。と後悔されてました。」

本人が出かけるルートを予め把握していた浦さんは、そのルート周辺の方々に自身の名刺を配り関係性を作っていた。そのため、今ではご本人が帰りたいと言うまで見守りしてくれる方も出てきたという。しかしその時は、いつもと違うルートで出かけたため、発見ができなかった。

「ご本人は、私は好きな時に、好きな場所へ行きたい。いつもそう言われている。これをどうしたら実現できるのかを考えました。それには環境面を変えていく必要があると思ったのです。私自身も「出かけていいよ。安心して出て行っていいよ。」と言いたかった。そうすることで、「出て行ってもいいんだ。」と思ってくれるのではないかと。介護サービスを利用する事で遮断されるのではなく、サービスを利用することでどんどん出て行っていいと思える、視点の切り替えをしたかった。そんな時にヤマト運輸さんとの話が進んでいったので、それをやる事で行方不明になっても顔が見れる関係性を地域で作れるのではないかと思いました。」

最初はどうなるのだろうと思っていた浦さんだったが、今では朝9時に来られて、その5分後には「早く行こうかね。」とご本人から言われるほど、とても積極的になられたという。徐々に仕事としての自覚も見栄え、それが生きがいになられているようだ。

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これからの目指す高齢者像

最後に浦さん自身が目指す、新時代の新しい高齢者像をお聞きした。

「自分がもし逆の立場になったら、こういう支援をしてほしいと思うので、今それをやっています。私がもしその立場になったら、自分が出かけたい時に、出かけたい場所に行きたいと思うだろう。そして、自分がやりたいようにやりたいと思う。なので、相手の立場に立って、自分だったらどういう支援をして欲しいのかを考えてやっている。今回のような活動を継続していくことで、自分が高齢者になった時には、安心して出かけられる社会があって欲しい。そのためにも皆さんと、そういった社会を目指してやっていきたいなと思っています。

浦さんの活動は共感を生み、市内で同様の取り組みを行う事業所も増えてきた。このような取り組みを実践する先に、どんな方でも安心してやりたいことが実現できる社会が見えてくるのかもしれない。

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