市の中学生全員がわたしを応援した日

それは7年前の春。某市中学校駅伝競走大会のことだった。



その日は喉が痛くて走りたくなんてなかったけど、
走りきることが自分の使命だと確信し会場に向かった。



中学校駅伝競走大会とは、
市の中学校から男女各1チーム5人が出場し速さを競う大会で
大会当日は応援のために市中の中学生が競技場に集まる。
あの年は、学校として最後の出場となる大会だった。

中学入学の数ヶ月後、後輩が入ってこないことを知らされた。
最後の卒業生である私たちは、
この駅伝大会に嫌でも出場しなければいけなかった。



いつから練習していたのかはもう覚えていない。
HRの時間、体育館の2階にあるランニングコースを、
時間中走っていたのは中学1年の時だっただろうか。
足が遅かったわたしには駅伝なんて縁のない存在で、
ただただ苦痛の時間だった。
人数が少ないので、練習は常に全員参加。
最初は担任だけだったのが、
次第に体育の先生まであらわれるようになった。
タイム計測をされたり、「もっと早く走れ」と言われたり。
例年うちの学校は最下位。
練習してもしなくても一緒だろと考えていた
ほとんどの生徒たちはやる気がなかったが、
手を抜けない性格上、わたしは精一杯ついていった。
それでもわたしは女子8人中6番。
自分は出場しないのに、なぜこんなに走らなきゃいけないのか。
そう思いながらも、日々の練習に参加していた。

ある時、一番早かった女子生徒が負傷。駅伝大会出場は絶望となった。
繰り上げ当選で、わたしは駅伝選手候補となってしまったのだ。
1km5分を切ったことないわたしが?!
恥ずかしい思いと同時に、
わたしが体育大会に出ていいの?という喜びがあった。
そうと決まれば、やる気アップ。
一生懸命走った。毎日筋肉痛だった。

大会が近づき、走順が発表された。
単純な速い者順。わたしは5区アンカーになってしまった。
襷を渡す練習もした。最終走者の分、渡す失敗はないと安心した。



大会当日。
初めての体育大会参加。
事前に配布されていた資料通り、
早く起き、朝食も早くに食べた。
すっかりアスリートの気分だった。

電車で会場へ向かう。
自分がこれから選手として走る実感はなかった。

会場に着くと、既にいかにも速そうな選手たちがトラックを走っていた。
これからわたしもここを走るのかと思うとワクワクした。
開会式を終え、待機場所へと移動する。
初めての経験ばかり。緊張でいっぱいだった。

「バン!」
1区早々から大きく差をつけられる。
1区でさえ、他校なら駅伝選手に選ばれないレベルなのである。
他校の5区が呼ばれると、わたしも一緒にスタート位置へ移動した。
この頃から周回遅れになり始め、わたしの出番はまだまだだと思いながら見守る。
いよいよ他校の5区がスタート。速すぎるそのスピードは衝撃的だった。
あっという間に戻ってきたが、わたしはまだスタートしていない。
思わず「おめでとうございます」と声をかける。
わたしは次第に早く走り切ってしまいたいと思うようになっていた。
ブービー校の5区と「早く4区の子戻ってきてほしいですね」と話して時間を潰した。(これが高校で相棒となる人物との出会いだった)
話したのも束の間、ブービー校の5区は颯爽と走り出してしまった。

スタート地点に残されてしまった。
黄色い繰り上げの襷は準備され始める。
繰り上げだけは避けたい、4区よ早く戻ってきてくれと願っていた。
祈り届いたのか、4区は繰り上げ時間前に戻ってきた。
いよいよ襷がわたしの元へ。肩にかけ、ぎゅっと締め、走り出した。

襷を受け取った直後、ブービー校の5区がゴール。
レースコースを走っているのはわたし1人だった。
トラックを一周走る。「頑張れ」の大声援が鳴り響く。
トラックから公園の外周へ出る。
フェンス越しに聞こえる「頑張れ」「調子いいんじゃない」の応援とイジリ。
どこを走っていても聞こえてくる応援の声。初めての経験だった。
会場にいる全員がわたしのために声を出してくれている。
この状況がずっと続けばいいとさえ思ってしまった。
最後のトラックでの直線。頑張れの声が聞こえる。
最後の力を振り絞って全力で走った。
ゴール。大きな拍手。
1人の女子中学生のゴールにこんなにも拍手をもらえるのかと
感謝の気持ちでいっぱいになった。
感動と、選手として走り切ったことの達成感の余韻を噛み締めたくて、
襷をなかなか体から離すことができなかったのをよく覚えている。


今でも時々あの時の景色を思い出す。
あれ以来運動に一生懸命になったことはない。

「あの時は本当にありがとうございました!」
応援してくれた人に伝えきれないまま、
時間が過ぎていくのであった。







※かっこよく書いてみました。
久しぶりに振り返ることができてよかった!

ありがとうございました!Sakでした。