#2　インスタコードとロンドン・コーリング

　近年の衝動買いにおけるスマッシュヒットといえば、インスタコードが筆頭にあがることは間違いない。インスタコードというのは「簡単なのに本格的コードを学べる全く新しい楽器」とサイトに紹介されている。紹介しきれないほどの機能をもつガジェットであるが、私にとっては、「楽器の経験がなくても、ゲームで遊ぶように簡単に弾き語りができるめちゃくちゃ楽しい電子楽器」である。

　ネット通販における衝動買いの怖さは説明するまでもないだろう。勢いで服を買ったら、サイズ感や色味が思っていたのと違った。そんな失敗談をあげれば、枚挙にいとまがない。それでも、服を試着せずに買えばそんなこともあるという想像はできるし、赤いシャツを買ったつもりが届いたら青いパンツだった、ということもない。

　だが、音楽をほとんどやったことのない人間が、触ったことも見たこともない、開発されたばかりの楽器を、試すこともなくネットで買おうというのである。これはなかなかの博打だ。

　歌うのは好きだからカラオケにはよく行っていたけれど、楽器演奏とは無縁の日々を過ごしてきた。かつて初心者向けの教本を見ながら、ギターを借りて挑戦したことはあった。ものの数回の練習で、ロンドン・コーリングのジャケットのポール・シムノンのごとく、ギターを叩きつけたくなった。シムノンのはベースだけど。

　そんな私が、3万4980円（価格は当時）の大博打に勝った。これは最高の買い物だった。

　購入にいたったきっかけは、開発者のゆーいちさんが、初めてインスタコードに触れる音楽の素人に使い方を指南する動画である。驚きの声をあげつつ、いきなり楽しそうに弾き語りをする姿は、衝撃以外の何ものでもなかった。インスタコードの評判や使い勝手などあれこれ調べたけれど、その動画が決定打だった。

　音楽理論も電子機器にも詳しくない私が、この楽器について語れることはあまりない。ただただ楽しいというだけだ。歌って聞かせてあげたいほどだ。素人でも触ればわかるすごいプロダクトなので、興味のわいた方はぜひ調べてみてほしい。この衝動買いはスマッシュヒットどころか、特大場外ホームランといってよいだろう。

　インスタコードでは昨年秋ごろだったか、最新機種と同等の機能にするハードウェアのアップデートサービスがあった。ソフトじゃなくハードですよ。自分で交換する方法もあったけど、私は有償でやってもらい、使い勝手は劇的に進化した。機能もソフトウェアアップデートのたびに進化している。

　クラッシュの楽曲で、弾き語りに向いている曲のコードを探してみよう。カラオケに行くこともなくなり、すっかり高音が出なくなった私の声帯も、5400円でハードウェアアップデートしてくれないだろうか。