エスカレーター片側空けない運動

僕はあまり主義主張というものがない人間で、それは日本や人類が破滅しようがどうなろうがおもろいやんと思っているからだが、時には主義主張を持つこともある。その一つが「エスカレーター片側空けるのやめろ」だ。

別に片側に寄って逆側がスカスカなら僕も何も言うことはないのだが、特に新宿とかの人が多くてロングなエスカレーターだと右側がスカスカで左は長蛇の列みたいになっていることが多すぎる。誰も歩きたくないから右側がスカスカなわけだがだったらみんな右側にも立ってのっていけばよい。それが結局は最大効率だし、安全面でいってもそれが推奨されている。

そのため僕はささやかな抵抗として片側があいているエスカレーターでは常に空いたほうに棒立ちして移動することを高校生ぐらいの頃から日課として続けている。昔はそんなことをする人はおらず、正直言ってこの活動はリスクとリターンが見合わなかった。何しろ歩きたくて仕方がない男たちが(全員男だった)その怒りをぼっ立ちしている僕にぶつけることがあるからだ。

身体をぶつけておいっ! と怒号を発しながらすり抜けようとしてくる男もいれば(新宿に通勤していた時、毎日右側を埋めていたのだが一ヶ月に一回ぐらいいた)、邪魔なんでどいてくれませんか? と丁寧に聞いてくる比較的穏健派もいた。「嫌です」と答えてつっぱねていたが。幸いなことに今のところ殴られたことはないが、僕はこの活動は殴られることもあるだろうな、と覚悟してやっている。趣味でやっていることだが、覚悟は決めているのだ。

しかし最近少しずつ潮目が変わってきたのを感じる。今では新宿の長大なエスカレーターを使うこともあまりなくなったが、時々行くと、僕がやるまでもなく片側がちゃんと埋まっていることがあるのだ。埼玉県では「埼玉県エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が令和3年から施行されているし、名古屋市の「エスカレーター条例」は、転倒事故を防ぐため利用位置の右側、左側に関わらず立ち止まって利用することを義務付けている。

徐々に徐々に世界っていうのは変わっているのかもしれないな、と思った話だった(特にオチはない……)。もしこの主張に賛同してもらえるなら、ぜひ片側を空けない運動に参加してもらいたい。

エスカレーターをどうしても歩きたい人

この記事を書く前にエスカレーターの片側を速く歩きたい人の思考はどんなもんなんだろうと調べていたら、下記の記事が出てきたのだけど、その思考がヤバすぎてびっくりしてしまった。

全員が2列に並んで立てば輸送効率は最大化され、待ち行列の解消も早い。確かにそのとおりだけど、人は理屈では動かない。全員の輸送時間は平均化されるけれども、急ぎたい人の不満は大きくなる。一方、並ぶ人はいつまでも並べる。ラクをしたい人は行列を苦としない。輸送効率論は利用者の満足度を考慮しない空論だ。効率第一で言うならば、2列に並んで全員が歩いたほうが最大化できる。
急ぐ人は階段を利用してくださいというのも変な話で、急ぐからエスカレーターの推進力を利用したいわけだ。なぜ急ぎたい人が階段とエスカレーターのスピード競争を強いられるか理解できない。むしろ急がない人は階段をゆっくりと休憩しながら上っていくべきだ。

https://toyokeizai.net/articles/-/266164?page=2

な、何を言ってるんだこいつは……。並ぶ人、ラクをしたい人は行列を苦にしないと意味不明な主張をしているがそんなわけないだろ。急ぐからエスカレーターの推進力を利用したいともいうがエスカレーターの推進力を利用してわずかに(ほんの数秒、よくて10数秒だろう)速くなるぐらいなら階段走れよ以外の感想が湧いてこない。しかし数々の怒れる男たちの突撃を食らった僕は「エスカレーターをどうしても歩きたい」という強い欲望を持った人たちがいるのを身体で知っており、こういう人もいることはよくわかる。

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