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石黒正数『天国大魔境』

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石黒正数による連載中の終末SF漫画『天国大魔境』。現在最新刊は10巻なのでそこまで読んだけどおもしろいですね〜〜。古き良き(?)終末SF漫画でちゃんとモヒカンみたいなやつらが人を襲うしみちゆく人たちや主人公であってもご都合主義的に助かったりしなくて普通にえらいめにあう。

石黒正数の少し丸みを帯びた感じの絵だとこの過酷な世界観とちょっとあわない面もあるけどモブは時々ほとんどAKIRAやこれみたいなキャラになってるしいうほど悪くはない。そして何よりバディ物の二人の主人公がめっちゃかわいいし、ここまでの技術が投入された廃墟の背景もとても良いですね。バディ物・ロードムービーというのは終末SFの醍醐味を凝縮してるよな。

終末SFというのはわりとありきたりな情景やプロットに陥りやすいところだが、本書の場合は石黒正数が技術を極めてきた「普通の人間、普通の生活を色んな角度からみる」技法と、終末後を描くだけでなく「いかに終末に至ったのか」を10巻かけてじっくり解き明かしていくパズルのような構成、またAKIRA的な超人・超能力者たちから人間が変質したバケモンたちとの戦い、管理社会体制まで様々な要素を投入することでネタの鮮度を保っている。

終末もので男女バディにする際の問題をどう克服するか?(2巻ぐらいまでのネタバレあり)

あとメイン二人のキャラクタがやはりとても素晴らしい。終末SFでバディ、それを男女にするとたいていの場合性の問題が巻起こるから『ザ・ロード』では父親と息子の親子、『The last of us』では親子ほど年の離れたおじさんと少女、『少女終末旅行』では女性同士と同性同士だったり親子だったりという座組みになることが多いが、本作は直球で年頃の男女バディ!

当然性欲の問題が出てくるが、えっちなお姉さんであるキルコはその中身が男の子で恋愛に(ジェンダー自認の観点から)なりたくない──というジレンマが設定されているのがうーんいいですねえ。巻が進むごとに身体が女の子に馴染んでいくのもTS物としてはぐっとくるのかもしれないが(このタイプのをTS物に入れていいのかよくわからんが)、それもまたよし。

「終末SFのバディ物ロードムービー」といえばそれまでだが、超人バトルもありゃ怪物バトルもありミステリーみたいな展開もあればそれ町みたいな要素もあって、著者の集大成みたいな作品になっている。

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