SFファン交流会用に作った話す内容メモ

02/16 本の雑誌原稿のゲラを確認して戻す。昨日「よくもSFマガジンの連載やってるのに本の雑誌の連載を受けましたねえ!」と言われたが、依頼されたときは「憧れの本の雑誌だ〜〜〜コレでもう自分で本の雑誌を買わなくて済む!」としか思っておらず、書き始めてから「月刊の網羅的な書評連載って……たいへんですね……」と痛感しているのが実際のところである。

とはいえ読書量自体を特別に増やす必要があったわけではなく、趣味として読んでいた分で全然書けること(まあ、その態度が問題かもしれないが)。本の雑誌原稿を書く時間自体はチェック含め3〜4時間程度であることから、致命的に負荷があがったイメージはない。また、時間がなくなるとそれはそれで「もっともコアな部分だけに自分の時間を集中させる」必要性が出てきて、本当に必要なものは何なのかを考え直し整理ができた側面もある。

もろもろおわり疲労困憊したので一日だらだら過ごす。しかし「喋り慣れていないから声が枯れた」と思っていたがVTuber見ていても数時間喋り続けていると声が枯れているし、喋り慣れているとか関係ないのかもしれないな。ブログを更新したかったが断念。昼はやきそばを炒め、夜は鍋を作った。

SFファン交流会用に作った話す内容メモ

先日のSFファン交流会にのぞむにあたって「何を話すかの要点のみ」をいったんメモっといた内容を転記します。基本はこうやって作品ごとにメモをとって、これを全部流れの中で喋ってみることで話の練習をしていた。

【裏(あんまり知られてなさそうな作品中心)のランキング海外】
①ヨアブ・ブルーム『偶然仕掛け人』
・イスラエルで暮らす著者によって、ヘブライ語で書かれた。
・世界の問題を解決するために偶然を仕掛ける仕事の物語。
・偶然仕掛け人はレベル1〜6までいて、5は大事故や災害、6は人類の歴史を塗り替えるほどの事件を扱うなどのケレン味がおもしろい。
・三人の偶然仕掛け人見習いが主人公で、その過程を通して「偶然とは何なのか」「偶然仕掛け人の矜持とはなにか」がしっかりと描かれていくディティールが面白い。
・基本的には恋愛譚なのだが、「偶然仕掛け人は私利私欲のために偶然を仕掛けられるのか?」という問いかけから、「この世界は偶然仕掛け人によって偶然が仕掛けられ、操作された世界なのではないか?」という問いかけにまで繋がってくる。

②陳浩基『ディオゲネス変奏曲』
・13・67という傑作警察ミステリィの著者。
・基本的にはミステリィですが、SFでおもしろいのがある。
・たとえば「カーラ星第九号事件」とか。これは外宇宙探査を行っている船で起こった殺人事件を探偵が解決する物語なのだけれども、後期クイーン問題を取り扱っていて、さらにはこれが外宇宙探査船で行われた殺人事件である意味がしっかりと謎の根幹に関わっているという意味で優れたSFミステリィになっている。

③シモン・ストーレンハーグ『エレクトリック・ステイト』
・デジタル・イラストレーションに小説がついたイラスト・ブック。
・ドローンによる無人機戦争によって荒廃したアメリカを少女と小さなロボットが旅をするだけの物語なのだが、とにかくその情景が素晴らしい。
・荒廃した街の風景だけでなく、うちすてられた多種多様なロボット。VR空間の虜になって不気味にたたずんんでいるVR中毒者らのイラストなど、終末的な風景が地に描く美しい。SFの情景を一変させてしまったとおもう。

④スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』
・イングランドの館を舞台に起こる連続殺人事件を扱ったミステリ。
・凄いのは人格転移&ループの要素が混ぜ合わされていること。
・とにかく複雑すぎて読んでいる最中わけがわからなくてドン引きするのだが、最後まで読むとあまりにもスルスルとすべてが繋がるので感動してしまう。

⑤ジェフ・ヴァンダミア『ワンダーブック 奇想小説創作全集』
・ジェフ・ヴァンダミアによる奇想小説の書き方ガイド。
・SFの歴史が波のようにして表現されていたり、ル・グインやキム・スタンリー・のエッセイが載っていたり、ディレイニーの仕事場が載っていたりするのでSFファンはぜひ読んでほしいですね。

⑥ショーン・プレスコット『穴の町』
・オーストラリアの作家ショーン・プレスコットの長篇デビュー作。
・純然たるSFではないが、終末SF的な雰囲気にガツンとやられた。
・基本的には謎の町に住む男の日常が淡々と綴られていくのだが、町の住人は多かれ少なかれ不気味に狂っているようにみえる。たとえば、パブの主人はこの町は縮小していると同時に拡大しているというし、町でのロックの演奏は禁止されている。
・町には誰ものらないバスが「町にはバスが必要だから」という理由で走っている。
・存在しないバンドの架空のコンサートを宣伝して回る少女もいる。
・町には突如として穴が出現し徐々に拡大するが、人々の生活は変わらない。
・徐々に徐々に破滅へと向かっていく雰囲気がたまらないのである。

⑦クレア・ノース『ホープは突然現れる』
・誰の記憶にも残ることができない女と、その女を追う者たちの物語。
・誰の記憶にも残ることが出来ないがゆえになんとかして記憶に残りたいと思う女の執念と、その能力を欲して誰よりも彼女を求めているのにどうしても記憶することができないという女のお互いを求め合っているのにどうしてもすれ違ってしまう関係性が最大の魅力。

⑧マルク=ウヴェ・クリング『クォリティランド』
・ドイツSF大賞をとったディストピア・コメディ。
・クオリティランドは国名であり、そこの国民はクオリティ・ピープルと呼ばれる。すべての男子は父親の職業を名字とし、女子は母親の職業を名字にすべし、と規定されているせいで、父親が無職の時に生まれた主人公はピーター・ジョブレスという名前になってしまった。
・売れることがわかっている古典作品のカスタム版を「そんな低俗なやり方は私の主義に反している」と否定し売れないSF小説を書く狂った電子詩人カリオペ7・3。自由でいるための唯一の手段はクレイジーでいつづけることだと宣言し、予測不能な行動を取り続けるキキなど、キャラクター陣の魅力が良い。
・性的行為について100ページ以上の同意項目書を読んで同意しないといけないなど、とにかく物量で笑わせに来るのがずるい。

⑨フランシス・ハーディング『カッコーの歌』

⑩ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『ボーダー 二つの世界』

【短篇のランキング】
グレッグ・イーガン『ビットプレイヤー』から「七色覚」
陳浩基『ディオゲネス変奏曲』から「カーラ星第九号事件」
ケン・リュウ『生まれ変わり』から「神々は鎖に繋がれてはいない」から始まる短篇三部作(続くのは「神々は殺されはしない」「神々は犬死はしない」)
アリエット・ド・ボダール『茶匠と探偵』から「茶匠と探偵」
『アステリズムに花束を』から陸秋槎『色のない緑』
テッド・チャン『息吹』から「息吹」
郝景芳『郝景芳短篇集』から「弦の調べ」
ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説・都市生成論』から「ホモジェニア 等質市」
『ボーダー 二つの世界』から「最終処理」
ピーター・ワッツ『巨星 ピーター・ワッツ傑作選』から「天使」

【表(よく知られている)作品のランキング】
①劉慈欣『三体』
・問答無用の大傑作。
・特段一つ一つの要素が新しいというわけではないけれどとにかく演出がうまい。
・視界の端でカウントダウンが始まるとか、世界中の物理学者が失踪していくとか、「いまやべえなにかがおこってるんだ!!」という演出が本当にうまいんですよね。
・でも第二作の方がおもしろい。こっちは全人類巻き込んだデスノートみたいになる。

②テッド・チャン『息吹』
・言わずとしれた傑作短篇集。特に「息吹」は凄い。
・アイデアの鮮明さ、描写の鮮烈さもさることながら「人間のどうしようもなさ」を描き出しつつ、同時に「それでも、もっといい人間になろうと努力することはできる」という前向きさもあって、読んでいると気持ちがあったかくなる短篇集。

③グレッグ・イーガン『ビットプレイヤー』
④ジャスパー・フォード『雪降る夏空にきみと眠る』
・「文学刑事シリーズ」で知られるジャスパー・フォードの作品。
・人口の99.9パーセントが冬眠する架空のイギリスのウェールズが舞台。
・冬眠中に生存率を向上させるために飲む薬のせいでナイトウォーカーなどの人間の生存の脅威になる存在がいて、主人公はそれを取り締まる冬季取締官。
・魅力なのはその圧倒的なごった煮感だ。文章の終わりに前置詞をつけたというだけでぶん殴ってくる人間とかキャラクターのアクとセリフはジョジョみたいにインパクトがあって、二丁拳銃のガンマン、ウェールズのおとぎ話や怪物が「夢」の話と絡まって、不思議の国のアリスのナンセンス文学的なおもしろさもある傑作である。

⑤ピーター・ワッツ『巨星 ピーター・ワッツ傑作選』
・ピーター・ワッツの面倒くさい部分が凝縮された短篇集。
・無人軍用機の「標的判定アルゴリズム」が「味方タグがついた人間を撃ったものに敵タグをつける」みたいにして標的の評価・費用対利益を予測するうちに、高度な自律性を有していく一篇である「天使」など、とにかくワッツらしい短篇が揃っている。
・突如知性らしきものを持ち出した雲に地上がほぼ支配された世界を描く「乱雲」、遊星からの物体Xモチーフの、異種生命体であるX側の視点から人間についての考察を深めていく「遊星からの物体Xの回想」など、広く知性とは何かを描き出していく。

⑥ケン・リュウ『生まれ変わり』
・まあ普通におもしろい短篇集。

⑦ベッキー・チェンバーズ『銀河核へ』
・銀河系中心へのトンネルを建造するための建造宇宙船の面々の物語。
・もともとクラウドファンディングで成功して執筆スタートして作品で、「こういう作品を読みたい」という熱量に支えられている。
・宇宙船の中で多様な文化を持つ種族が共生していく描写がおもしろい
・爬虫類みたいなやつも羽がはえているやつも六本の腕がはえているやつもいる。
・見た目の差異だけではなく、自分たちが産んだ卵を孵化させた卵を別の育ての親に渡してしまうエイアンドリスク人など、「人間と似ているけれどもちょっと違う」やり方をする文化的な差異も多く、そうした多文化が一つの宇宙船の中で共生していくことの難しさ、だからこそのおもしろさが描かれていく。

⑧アリエット ド・ボダール『茶匠と探偵』
・ベトナムと中国文化が混ざりあった〈シュヤ宇宙〉を舞台にしたスペース・オペラ。
・中国が先に北米大陸を占拠しスペイン人の征服が起こらなかった架空の世界。
・人間の子宮から生まれた後宇宙船へと投入されることで生まれる有魂船など、独特な設定が数多くある。たとえば、胆魂を身ごもった女性が早産しそうになり、大慌てで納期を短縮して船を作る羽目になる設計士の物語「船を造る者たち」では自分よりもずっと長生きをする胆魂への親の思いが描き出されていく。表題作はシャーロック・ホームズをベースにした探偵譚だが、二人の性別が女性になっている上に、ワトソン役の〈影子〉は戦争でトラウマを負った一船の有魂船という設定で、二人が深宇宙に漂う死体の謎を追ううちに、有魂船と人間の独特なパートナーシップが描き出されていく。深宇宙は非現実的な空間であり、人間はそこで思考を正常に保つために、特別に配合したお茶を必要とするなど、各所にアジア要素が入り込んでくるのが楽しい。
・読んでいてコードウェイナー・スミスの人類補完機構を思い出した。

⑨シルヴァン・ヌーヴェル『巨神降臨』
・第一部、第二部、第三部とそれぞれ全く違った方向性で楽しませてくれた。
・第三部は壮大な親子喧嘩というか、異なる常識を持つ他文化といかに共生するのか、人類間での争いがクローズアップされ、現代の意味にゃマイノリティの排斥に関する問題を反映させたような暗い側面が多い。貪欲に

⑩ギョルゲ・ササルマン『方形の円』

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