見出し画像

『バンオウ-盤王-』と『龍と苺』

https://amzn.to/3RiAfw6

https://amzn.to/3sKqk8l

ジャンプ+で将棋漫画『バンオウ-盤王-』を読んだらおもしろかったので、盤王とセットで語られることの多い将棋漫画の『龍と苺』も読んでみた。

かたや(盤王)、長い寿命を持つ吸血鬼が300年将棋を指し続けアマ最強になっていてアマチュア枠から竜王戦に挑む話で、かたや女版カイジみたいな覚悟決まりまくった中学生の女の子が将棋を指したら天才すぎて奨励会に入ってプロになって──とかいうかったるいルートをすっ飛ばして竜王戦に挑んでプロと戦おうとする話である。同じ令和にはじまった将棋漫画とは思えないぐらいに将棋界の書き方とキャラの書き方が異なっていておもしろい。

どちらもアマから竜王戦を目指すというパクリだろみたいな展開だが演出も構成もキャラも何もかも異なるのでまるで別の作品にみえるしどっちもおもろい(実際パクリなわけもなく別の作品なんだからそれはそうだが)。

よく事実は小説より奇なりというが、それは小説は読者に説得力を感じてもらえないと商品にならないので突飛な設定はできないのだが、現実は現実なので説得力もクソもない展開が平気でできる(し現実なので受け入れざるを得ない)からである。しかし、人間の100m走などのタイムが更新されていくように、現実がリアリティを更新していくと、フィクションも「なるほど、ここまでやっていいんだ」ということで、枠が拡張されていく。

そしてフィクションを読んだ人がその競技や現象に興味を持ったり、これをやってみよう/できるかもしれない──と思い立ち行動をすることで、フィクションと現実は相互作用して前に進んでいくものだが、『盤王』と『龍と苺』はどちらも藤井以後作品であり、その「現実の拡張」に追いついた作品であるようにみえる(正確にこの両者の作品が藤井聡太をみて着想したかというとそうではないと思うけど。龍と苺も構想は古かったみたいだし)。

キャラの書き方でおもしろいのが盤王はプロや奨励会員はお互いにみな礼儀正しくリスペクトをしあっているのにたいし龍と苺世界ではみなプライドが高く女性差別者が多く暴力もふるうし暴言も吐く(主人公の苺自体が暴力もふるうし暴言も吐くんだが)というあまりに対極的な点にある。龍と苺には2巻で『将棋は性格悪ぃ奴ほど強いんだ』という最悪のセリフがあるが、まさにそれを体現するように出てくるやつどいつもこいつも性格が悪い。プロ同士もオラオラ系ばかりでお互いをしょっちゅう煽り合っている。

性格の悪そうなやつら(3巻より)

ただずっと性格が悪いわけでもなく、負けて現実を突き詰められると、はっきりと言い訳もできない結果のでる勝負の世界だから、つきものが落ちたみたいにしてみなが黒い部分を出してすっきりしていくのがおもしろい。

あとは将棋の盤面、戦術をどこまで書き込むか、という演出上の違いもある。盤王の方は盤面がコマに書き込まれることはなく、主人公がどう強いのか、なぜ強いのか、どの一手が良かったのか、戦術面や戦略面についてはかなりフワッとしか語られない。龍と苺は盤面・戦術・戦略の違いはより詳細だ。ただこれは演出方針の違いでどっちがよい・悪いという話ではない。

どちらも好きな漫画だ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?