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【星の館】#3 新しい世界へ




ガタン・・・ガタゴト・・・ガタッ


ん、
…っ

気付いた時には、私は列車の中にいた。
だいぶ長い間寝ていたようで、首が少し痛い。
窓からきらきらと朝日が差し込んでいて眩しい。

あれ、私…さっきまでどこに行ってたんだっけ。
横には大きな鞄。どこか旅行にでも行ってた?
ああ、そういえば行きたいところあったなあ。お休みの日にでも行こうかな。

休み…?
あ。

列車は、私の家があるいつもの駅に停まった。

学校のこと、忘れてた…


列車のドアが開く。
早朝だからか、降りる人は私くらいしかいなかった。

駅のホームをとぼとぼ歩く。
鞄が重い。なんでこんなに、たくさん荷物を持っていったんだろう。

うう…と歩いていた、その時。
ガッと肩を掴まれた。

「外に出ないで。これから"アメ"が降る」

振り向くと、さらさらした黒髪短髪の長身の女の子。
きらきら光る"何か"を持って空中にすっと線を引いている。
な、なに!?

「また、いつもの面倒なのが来た」

なら、と彼女は"何か"を外に向ける。
目が追い付かない速さで"何か"から光がバシュっと放たれた。

すると、駅の外に巨大な透明の傘が現れた。
ちょうど真下で、おばあさんがゆっくり道を歩いている。

そこから数秒経った辺り。
空から降ってきたのは、"飴🍬"だった。

どしゃああ、と大量の飴が道のそこら中に降る。
おばあさんは、わっと驚いて腰を抜かしてその場に倒れてしまった。

飴は、すぐに降り止んだ。
おばあさんに怪我はなかった。

横に立つ彼女がふう、とため息をつく。
「何とか間に合ったね」

私は、その数秒間で起きた光景に頭が追い付かなくなり、
ただただ呆然と立ち尽くしていた。


「いたずら常習犯?」

そう、と彼女が答える。
「最近、変なやつが出てきてそこら中を荒らすようになった」

彼女が言うには、その変なやつが起こす出来事が見える人と見えない人がいるらしい。子どものおふざけ程度のいたずらで、かなり厄介だと。

ふうん…?どういう人なんだろう。

外を見ると、透明な巨大な傘が空中にぽっかり浮かんでいる。変な風景。
降った飴は、彼女が素早く片付けてしまったようで、元通りの道になった。

ホームのベンチに座ってひと息つく。
ほんの数分前まで異常なことが起きていたと思えないほど、朝の駅は静かで穏やかだった。

これ飲む?と彼女からコップに入った水をもらった。
ありがとうございます、と受け取り飲む。
ごくごく。美味しい。
身体が生き返ったみたいに元気になってきた。
そうか、私、喉渇いてたんだ。

あれ、このコップどこから?

「私が作った」

ええ!?
彼女は当たり前のように話す。

「そういえば、あの大きな傘も…どうやって作ったの?」

これ見て、と彼女は持っていたものを私に見せた。

細長い透明な宝石?

「これはクリスタル。何でも作れる魔法の石」

魔法?
不思議な力に吸い込まれるようにその石から目が離せなくなった。

「すごく綺麗!どこで買ったの?」

「こんなのが売ってるわけない。特注だから」

特注??
私もそれ欲しい!使ってみたい!

「あんたに、使いこなせるかどうか」

むっ
かちんと来た。
あんた、って…。

「そういえば、お名前なに?
私はソラって言うんだ」

「名前名乗って何になるの?友達じゃあるまいし」

つ、冷たい…。

「どこから来たの?私はこの駅の町の学校に通ってるよ」

「言いたくない」

え、ええっとー。あの、どうしたら…
何とかして話を続けたい。

私、そろそろ用事あるから…と彼女はそそくさと歩き出す。

ちょ、ちょっと待って…!
走って彼女の目の前に行く。

「そのクリスタルのこと、私、知りたい…!」

彼女は大きくはあ。とため息をついた。
私は負けじとじっと彼女を見つめる。

「知りたいならついて来ればいい。その代わり…
勇気がないなら、辞めておいた方がいい」

真っ直ぐに見つめ返された。
彼女の気迫に圧倒される。

勇気って、何の…?

「"普通"の生活じゃなくなる。それをできるかできないか」

普通…の生活…?

あ、学校…

「続けたいならついて来ないで」

彼女がまた歩き出そうとする。
行ってしまう。

なぜか、彼女の体から、きらきらした光が出ているように見えた。

自分の胸に問いかける。
ハートはじわじわ暖かい。
これは…


もうとっくに心は決まってた。
ぎゅっと手を握りしめ、前を向く。

「私…。
私、もう学校行かない!!」

その瞬間、辺り一帯が真っ白になった。
キーン、という耳鳴り音が響く。意識を失いそうなくらいくらくらして…

気付いた時には、私は"あの"館にいた。

「何で、私まで…」

ため息をつく彼女と一緒に。

あら?と、不思議と安心するあの声がした。

「ふふ。また出会えたわね、ソラちゃん」


「じゃあ、ソラちゃんにも手伝ってもらおうかな。植林活動」

ふふ、と楽しげな表情を浮かべるミチカさんが、小皿を持ってきた。

「これが種。それぞれ種類ごとにまく場所が決まっているから、そこにまいてね」

種は、赤色だったり黄色だったり、と色が違う。
形も、それぞれに個性があるみたい。

これは何の種なの?と聞いてみる。
「これは星座の種。もちろん、ただの種じゃないわよ」

星座?星座って、あの?
「そう。12星座。牡羊座から魚座まで。私が心を込めて作った12種類の種」

ミチカさんはそれを種類ごとに紙に包んで、柔らかい布袋の中に移し、はい、と私に渡す。

「この種、どうやって作ったの?12星座って、どういうこと?」
不思議に思った。

ふふ、まだ秘密、とミチカさんは口に手を当てて答えた。

それとこれ…と地図を渡された。

「まく場所に行って、牡羊座の種から順番にまいて行ってね」

地図に書かれた地名は、知らない場所だ。どんなところなんだろう?

「ミチカ。種の本、一冊なくなってる」
さっきの魔法少女が本棚を怪訝そうに見つめていた。

「あら不思議ね。本を持って行く人がいるなんて」

「種の本を閲覧できるのは、高レベルの人だけ。誰もが読めるわけじゃない。
本は一度読めば能力を習得できる。一定の時間が経つと自動的にここに戻される。持って行く必要なんてあるのかわからない」

さらっと気になっていた本の説明をしてくれる。
うーん、と口元に手をやって考え込んでいる。
あれ、そういえば、この人ってどうしてここに…?

「あの、ここの館のこと、随分詳しいんだね?」

「ここには、私が子どもの頃から来てるから」

彼女はうつむきながら答えた。
それを見て、ミチカさんがふふ、と笑う。

「ヨルちゃん、ソラちゃんと一緒に来たから、とっくにお友達になったのかと思ってたわ」

「私はずっと一人で生きてきた。友達なんか作らない」

ヨル、は不服そうに言い放った。
なぜかミチカさんがにまにましている。

「名前、ヨルって言うの?」

「私の名前は、ミチカに付けてもらった」

えっ
名前を?

「私、人生のこと、ミチカに教えてもらった。だからいつもミチカの手伝いをしてる」

ヨルちゃん、とミチカさんがマグカップを持ってきた。
熱々のホットチョコレートの良い匂いがする。

「ヨルちゃん、ちょうどいいタイミングだから、ソラちゃんと一緒に種まきに行かない?」

「私には私のやることがある。ご丁寧に付き添うほど暇じゃない」

きりっとした表情をしながらホットチョコレートをごくごくと飲むヨル。

「そんなお堅いこと言わずに。ソラちゃん、とっても楽しい子だから。ほら」

ぽんぽん、とヨルの背中を押すミチカさん。
やっぱりお母さんみたい。

そういえば、またここの館に来たってことは、
私のレベル、ちょっとは上がったのかな?

本棚を上から順に見る。この前の、地形参考資料集は…。

あった。
そーっと手を伸ばし…て

バチッ!!

うわっ

「あんたにはまだ早い」

すかさず厳しいツッコミを入れられる。
うう…レベル上がったと思ったのに…。

「それは上級者向けの本。初心者は占星術から始める」

むっ
占星術、私結構勉強してるんだけどな…。

「まだ知る必要がない」

ふ、ふうん?
じゃあ、何でまたここに来たんだろう?

「それは呼ばれたから」

誰に?ミチカさんに?

「違う。この館があんたを呼んだ。あんたは何も知らないだけ」

なんか、ちょっといらっとしてきた。
こう、何というか、心がないというか…。

「ヨルって、なんかロボットみたいだね」

「私を何だと思ってるの…!?」

あ!怒った!?

「私だって人間だよ」
ヨルは、ふんっと後ろを向いてぼそっと呟く。

「あ、ごめんね。つい…」

「あんたは猿みたいだね」

むっ!?
「言うじゃん…!」

両者バチバチと静かに火花を散らす。

その様子を見て、ははは!とミチカさんが笑う。

「仲良いわねえ。やっぱり似たとこあるんだあ。
ここに二人が集まったのも、何かあるのかもしれないわね」

私、今ちょっとワクワクしてるの、とミチカさんは楽しげだ。

「さあ、二人とも、そろそろ準備はいい?」

「はい!」
ヨルもこくっと頷く。

よし、そこにいてね、とミチカさんが何やら集中している。
そういえば、この前の時は頭がくらくらして…

くらっ
あ、来た

ふふ、と声が聞こえる。

「じゃ、二人とも、行ってらっしゃーい!楽しい旅を!」

にこやかに手を振るミチカさんに私も手を振り返す。

キーン、と耳鳴りがして、だんだん視界がぼやけていく。

「ソラちゃん、世界、ちょっとずつ変わっているからね…」

だんだんと小さくなっていくミチカさんの声が聞こえて、世界は真っ白になった。

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