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つめたいよる

しとしとと降る雪みたいな雨が傘、ビニール傘に当たる音しかしない午後4時40分
つめたい冬の風が首元を冷やす
濡れる革靴を思って水たまりをさけて歩くけれども一向に濡れていく革靴に対して諦めを通り越して妙な空白感の瀰漫する傘の中の今切られた空間で、行くあてのない雨の降る街で考えられることは背の高いコンビニエンスストアの看板を頼りにするほかなくて、そんな稚拙な感性をどうしようもなく思うけれども丁度今みたいな重苦しい内面は限り無く汚れた灰色に近い淀んだ雲雲と親和性が良く、彷徨う当てのあるぼうっと歩く数分間は幾分か気が紛れるけれど徐にコートの胸ポケットにある皺がある頼りない紙切れに包まれた少ししけったキャスターホワイトとライターに手が触れると根拠のない自信が湧いてくるものだからすぐ先の灰皿も関係なく火をつける
傘に当たる雨粒は一向に喧しくないし、向こうに見える細い道路を通る先の見えない行く先目掛けている走行車の排気音もなんだか物足りないある冬の日には人気を感じれて安心する
下らないことを考えた2秒前
過ぎ去る日々に立ち止まる瞬間は無くて、雨音が重力の通りに地面に接地するその間の僅かな時間を美しい曲線をなだらかに広げた雫の形で落下していくように全てはきっと流れていて、あの雲も走行車も灰になる指先の煙草もその瞬間を流れるように崩れていっている、恐ろしい程正確に
溺れるくらい空間は広がっているように感じられる6畳の部屋の中で考えることと安いビニール傘を持って白い綺麗な息を吐いて街街をふらつくことは同じ時間が流れているはずなのに、つまらない瞬間を安売りされた愛をすぐさま買い手が見つかる脆い愛を求めて彷徨うことはどうやらみっともないようで夢のようなひとときで実感がなくて質感も質量もなくて、それでも答えのない実体のないものを考えている時間はなんだか気持ちが良くて一抹の虚栄心と微かな希望と現実の絶対的質量によってぐにゃりと曲がっていた頭の中が真っ直ぐ整地されてあの道道のようにどこまでも続いているような不安と絶望がその先にはきっとあることをまた思い出すけれど、唯一私を肯定してくれたたばこも灰と化し気付けばどんよりとした雲はそのままで雨が止んだからちょっといい気がした



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