僕が生きてた頃の日記 3話 線香花火

家にやり残した花火がそのまんまになっていた。

盆の時期にやって来た年の離れた子どもが途中で飽きてほったらかしたと思うと、なんだか気に触ったので片付けたくて自転車をこいで小さな公園に着いた。

夏期講習でのやる気もとっくに燃え尽きて秋との境界線に向き合っていた。ただ夏らしいことが何も出来てなくて、子どものことを口実に外に出たかっただけなのかもしれない。

じりじりとロウソクに火をつけた。

この小さくて情けない光がなんだか愛しいように思える。弱いものはいい。エネルギーがなくて自分のことで精一杯だから、比べて競争していがみ合う暇なんてないし。

それはきっと自分もそう。じりじり。

生ぬるい空気はじっと季節が交代するのを待っているかのように止まっていて、おかげで花火に火をつけて消えたらバケツに突っ込み、また花火に火をつけるという単純な作業を滞りなくこなせることができた。

こんなつまらないことばかりやってるから何事も上手くいかないんだ。誰かに評価してもらえるまでがまずはスタートラインで始まってもいないんだ。 今後、誰からも気にかけてもらえない自分もまともそうな人格になってやっていけるんだろうか。みんな生きてることに本当は飽きてそうだけど。それでも、どうにか誤魔化してやってんのかな。

「君はこのまま惰性で生きていくんだよ。誤魔化してやってくのも下手くそなまま」

俯いていた頭を上げると女の子が立っていた。

「やっぱりそうなんかな」

「しかもこのまま何も変わらずに。ろくに努力も続かない。人の機嫌を見て行動が出来ない。誰も見てないからってハナクソ食べちゃうし」

少しムッとした。でも。きっとそう。

「失敗することが怖くて出会いや可能性を選ぶことから自ら逃げてきたから。何も出来ないのに逃げてばかりで。それなのに、こんなにも絶望の中にいるのに何だか安心しちゃってて。そんなんだからね」

そりゃ変わんないよね。

でも、一体いつからこの子はここにいたんだろう。初対面なはずなのに。ハナクソのことも知ってるし。

その瞬間、最後の線香花火の火種が落ちた。そして気がついた。

ああやっぱりそうだったのかと。元からここには女の子なんていなかったと。

もう一度辺りを向き直して、また家まで来た道をゆっくりと自転車をこいで僕は1人公園からでて行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?