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苦い思い出 第3話 仕上がる

シンヤはこの後も好調だった。
ひたすらマンガン以上を和了し続ける。

「エリのカンチャンぶち込んでから、麻雀でもカンチャンから埋まっていくぜ。お前らもエリとヤレば麻雀強くなるぞ。あいつはウナジとバックが好きだからたくさんイカしてやれよ。」
「シンヤは調子に乗るとマジで手がつけられない。」
俺を無視した仲間内の会話は続いていた。
会話の内容の品のなさが更に冷静さを失わせる。

俺は展開が悪くリーチ負けの連続で、脳が焦げていた。
3面チャンのリーチもシンヤのカンちゃん一発ツモに交わされていく。
「気持ちいい!やっぱ生でヤったから運気も持続するんだな。次俺より上の着順だった奴にエリのハメ撮り見せてやんよ。お客さんも見ます?」
「ふざけんな!」
突然デスノートがキレ出した。
「お前、好きだったのか?エリのこと。あんな軽い女が?だったらビデオやるよ。俺より上の着順じゃなくてもな。」
「いらねーよ。」
「だから麻雀よえぇんだよ。真っ直ぐじゃないというかジメッとした性格がよ。」
卓の空気が少し変わった。
デスノートは血の気のない唇を震わせていた。
シンヤほど煽るのがうまい人間を俺は今まで見たことがあっただろうか。


「俺もヤったから安心しろ。ビデオは撮ってないけどな。」
突然の爆撃だった。
今まで聞き役だったシンメトリーはトンデモ発言で禍々しい領域を展開し始めた。
そもそも誰かを安心させるような発言ではない。
このシンメトリーは宇宙人だ。
「ウナジより耳舐めの方が喜ぶぞ。」
無駄に太い声が信憑性を増しているが、コイツはデスノートの心をえぐっていることに気付いてなさそうだ。
軽い女だったから諦めろ➡︎俺もヤッた➡︎安心しろ➡︎お前もやれるかもしれないから耳舐めな
という思考回路なのだろうか。
イカレている。

デスノートは俯いたまま震えていた。
細い指には合わない大きさのスカルの指輪が泣いているように見えた。


南2局 親 デスノート ドラ③
デスノート 3700 点
俺  8000 点

5巡目にデスノートが発を鳴く。
8巡目に白を鳴く。
少し悩んで⑤切り。
中を持っているなら悩まないと俺は思った。
ふたつ鳴いて悩むなんて。
俺の手
234二三四五五五赤②③④中
ここに六を引いてくる。
河に左手を添えて中を叩きつけて千点棒を放り投げた。
シンヤだけが俺を睨んだが注意しなかった。
それより中を叩きつけたことにビックリしたようだった。
別に振り込んでもよかった。
トップがシンヤからデスノートになるだけ。
箱下もないから派手にとぶのはそこまで悪くない。

シモチャのデスノートが親指の垢を牌に擦り付けるようにしてツモ牌を盲牌していた。

そしてその牌をゆっくりと丁寧に河に置いた。
力なくゆっくりと倒れた六萬に俺は勢いよく手牌を倒した。
「うわぁ。不幸なときは不幸なことが続くよな。中も捉えられないし、エリちゃんともハメられないままサヨナラだし。ダメダメだな。」

「ラストーご優勝はシンヤ様。2連勝おめでとうございますー!」
相変わらずシンヤは自分でコールを続ける。

デスノートはドクターストップだろと思っていたが、エヴァの初号機並みの猫背ガリの体を震わせながら精算を乗り切っていた。

中を通して和了しきった興奮。
目の前で崩れているデスノート。
悪魔のように微笑んでいるシンヤ。
デスノートを慰めようとして、傷に塩を塗るシンメトリー。
その全てが非日常で非現実的で刺激的だった。



チリンチリン
New challengerが来たことを鈴が知らせた。
他の客と同じように俺も入り口の自動ドアに照準を合わせていた。

続く

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