見出し画像

穴穂部さんと宅部さん

※この記事には山岸凉子作「日出処の天子」の軽微なネタバレが含まれます、ご注意下さい


お久しぶりです、雪山です。

ちょっと色々やる事が立て込んでいて、まるで2日でnote飽きた奴みたいになってしまってましたが、大丈夫です、飽きてません……!!

今日も元気に奈良への想いを募らせています。

それでは、そんな私の奈良への想いの原動力、それは一体何なのか……?について、今日は書いていきたいと思います。

藤ノ木古墳の被葬者は誰?

奈良に行きたい!奈良に住みたい!常々そう言って憚らない私ですが、ではそもそもなぜそこまで奈良に行きたいのか……?

実はその主な理由は、上記にもある藤ノ木古墳にあったりします。

藤ノ木古墳、私より歳上の人なら発掘当時相当話題になったようなのでご存知の方も多いかも知れません。奈良県は斑鳩町にある国指定の史跡、古墳時代後期に造られた円墳ですね。古代史ブームを巻き起こした!とか書かれている資料も見た事があるので、相当騒がれたのではないでしょうか。

未盗掘な上に絢爛豪華な副葬品の数々、余程の権力者か王族の墳墓か、でも何よりも浪漫を掻き立てられるのが……

合葬されたふたりの被葬者が誰なのか分かっていない!

と言う部分にあるのではないでしょうか。

斑鳩に眠る二人の貴公子……なんて言われちゃってたりしてな!

見つかった当時は南側被葬者が性別不明だったようですが、現在では男性でほぼ確定だそうです。北側被葬者は早々に男性で確定していたので、成人男性2名が同じお墓に埋葬されていると言う事になりますね。合葬自体は別に珍しい事ではないそうですが、正体不明の男同士、密室、千数百余年、何も起きないはずがなく……(すみません)

とにかく、"謎" ってやつはそれだけで人の興味を惹きつけるものです。

そんな謎の貴公子コンビですが、じゃ誰なの?と言う話。一説には蘇我馬子によって暗殺された穴穂部皇子と宅部皇子なのでは……?と言われています。

穴穂部皇子と宅部皇子

なんと、藤ノ木古墳のWikipediaにも被葬者の欄にこのふたりの名前が刻まれている……!(一説として)

いや穴穂部皇子って誰やねん、と言う方の為に非常にざっくり説明すると、古墳時代後期に大王の座を狙ったけど対立した豪族に殺されちゃった皇子様です。そして宅部皇子はその穴穂部と仲が良かったから殺された、と日本書紀に記されている皇子様ですね。

私はこのふたりを、後述する「日出処の天子」を読んで初めて知りました。以来、ずっとなんとなく気になる存在として心の中に留めていたのですが、ある時……

たまたま見ていた古墳プレゼン番組で、藤ノ木古墳が紹介されているのを私は観てしまったのです!!

当然被葬者の有力な候補である穴穂部&宅部の名前も番組内に登場しました。

その時の衝撃たるや「穴穂部?穴穂部ってあの穴穂部?ケツアゴの?宅部?宅部って穴穂部と仲良しのあのちょっとモブっぽい顔した宅部皇子?」と。一瞬で、そう言えば "ずっと気になる存在だった男たち" の記憶を強く呼び覚ますそれはディープなインパクトでした。

恥ずかしながらその時私は初めて藤ノ木古墳の存在を知り、そしてそこで初めて藤ノ木古墳と穴穂部・宅部両皇子が結び付いたと言うわけなんですね。

藤ノ木古墳と斑鳩の人々

これは以前、藤ノ木古墳近くの法隆寺iセンターに立ち寄らせていただいた時の話です。

女のひとり旅は割と旅先で色々な人に声をかけられます。いや、男性でもそうかも知れないですが、私は女なので女のひとり旅しか分からない……。

とにかく、法隆寺iセンターに立ち寄った際にもスタッフの女性ふたりに「ひとりで来たの?」や、「何か見たい物があるの?」と声をかけていただきました。目的は藤ノ木古墳だったので、「あの、藤ノ木古墳……、あの、私穴穂部皇子が好きで……」と、素直になかなかオタク丸出しの返しをた私に、恐らく現地の方であろう元気なスタッフのおばさまは言いました。

「ああ!穴穂部さんと宅部さんね!」

それは、あくまで数多い説の中のひとつでしかないものです。穴穂部と弟の泊瀬部皇子(崇峻天皇)とする説もあるし、ふたりとも全然別の人かも知れない。実際に誰かなんてまだ本当には分かっていません。それでも斑鳩の人たちはあの場所に眠るふたりの人物を、「穴穂部さんと宅部さん」だと思って親しみを抱いてくれている……。私はその時とても嬉しくなって、彼らが確かにこの地に息づいた人たちだったのだと改めて胸を打たれる思いがしました。

……そして他人の口から聞く推しの名前にひどく興奮した事を覚えています。うん、オタなので……。

まあその、サンプルひとつで斑鳩の人はみんなそう!とは言えないんですけどね……。ただ本当に、穴穂部さんと宅部さんと言う呼び方がすごく可愛くて親しみに溢れていて、印象に残りました。言うお話でした!

画像1

日出処の天子

最後に、私が初めてふたりを認識したきっかけである「日出処の天子」における穴穂部&宅部のお話をして、この記事を終えたいと思います。

私はこの作品……、と言うか山岸凉子作品はだいたいそうですが、なんかこう、人間的な、あまりに人間的な、って感じの描写が多く、あまり漫画的でないと言うかいい意味でも悪い意味でも人間がすごく人間臭いと思っているんですよね。特に女性の描き方が残酷なほどリアル……。まあその辺はまた後ほど別の機会に語りたいと思います。

さて処天(略)の話に戻りましょう。

やたらに人間臭い登場人物たち……。例えば主人公の厩戸皇子は超人的な能力を持っていて、それに伴ってかどこか世の中を諦観していたり、年齢よりずっと大人びた思考を持っていたりします。しかし、だからと言って決してスーパーヒーローではないんですよね。恋をするし執着もするし、思い込んだり嫉妬に苦しんだり、自暴自棄になったりする。年齢以上に幼い部分や醜い部分も持っている。

そんな厩戸を筆頭に歴史上の大人物がそれなりに登場するんですが、みんな決して英雄的な描かれ方はしていないんですよね。キラキラってよりみんななんとなくズーンと黒々してる。ただそれは我々には分からないくらい当時は生き残るのに必死だったり、何より登場人物みんな身分の高い人たちなので権謀術数は当たり前、爽やかな人間関係なんて望むべくもない……、と思えば当然なのですが。そして、それは穴穂部も同じで……。

そんな中で、これは本当に私見なんですけど、そんな中で輝くのが宅部皇子の真っ当ないい奴感……ッ!!!なんですよ!!!まあーこのいい奴っぷりが甘ちゃん現代人に刺さること刺さること……!!!!

仲の良い友人である穴穂部の勇み足を根気強く諫め、心底心配し、友人の死には打算なく泣いて義憤に燃え、しかもその謎多い死の真相に辿り着く(この作品では厩戸が穴穂部を殺した事になっています)事ができる……。

いい奴で、しかもめちゃくちゃ有能!!!!!!

なんと言うか処天読んでるとそう言う、「普通にただただいい奴」への渇望がすごい事になるんですよね、あまりに貴重すぎて。そんな中早々に退場してしまうとは言え宅部皇子の煌めきは一服の清涼剤となるわけです。顔は若干モブっぽいけどそんなところも良い。

こんな友達欲しいな。そう思う事請け合いです。

と、宅部の話ばかりになってしまいましたが、穴穂部皇子も(軽率とも取れるが)開けっ広げな剛毅さが魅力の男前で私は大好きですよ!ケツアゴで強面なのも好き!

電子版がないのに加え現在紙媒体もなかなか手に入りにくいようですが、機会があったらぜひ読んでいただきたい歴史漫画の傑作です。

穴穂部と宅部の活躍もぜひ、お楽しみ下さい!

それでは、久しぶりなせいか長文になってしまいましたが、本日はこの辺りで失礼させていただきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?