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「いいから高い」のではなく「少ないから高い」

少し前に「人新世の「資本論」」という本を読んだ。その本の中で「経済的価値は希少性で決まる」というような一節があった。この本の本筋からは少し外れてしまっているかもしれないけど、このことばがずっと頭にある。

それまでは、「本当にいいものだから値段が高い」と僕は思い込んでいたのだけれど、この本を読んでからそうじゃないんだ、ということを知った。「いいから高い」ではなく「少ないから高い」。たしかによく考えてみると、いわゆる「一点もの」というものは高くつく。それはこの世に一点しかない、つまり少ない。でもそれがいいものかどうかは本当のところは分からない。

しどけ。希少性で言えば山菜の中ではトップクラス。

一応僕達はこの原理原則に従って生きている。でもこの「少ないから高い」という原則だと、ちょっとおかしなことが起きないか?と思った。それはある農家さんがTwitterでこんなことを呟いていたのを目にしたからだ。
「きゅうりが採れすぎて1本○円です」
具体的な数字は忘れてしまったけど、一桁台だったとおもう。きゅうりって1本いくらのイメージだろうか?もちろん時期によって異なるけど僕は1本50円〜100円くらいの感覚。それがほとんど農家さんの手元に入っていないという衝撃。いくらなんでも安すぎる。
しかももっと意味がわからないのは、採れすぎたのはいいことなのではないだろうか?ということ。農家さんが一生懸命に土を耕して、肥料もたんまりとあげて、虫やら雨やら風やらからきゅうりを守って、やっとのことで売れるものを作ったのではないか?その努力の結果「きゅうりが採れすぎる」というのは本来喜ばしいことなのではないだろうか?
でも現実は、採れすぎたからきゅうりが安くなるという訳の分からない結果を生んでいる。頑張ったら頑張った分だけ稼げるわけではないのだ。頑張ったら頑張った分だけ損をするようにできている。全ての業種でこの現象が起きているわけではないとは思うけど、「少ないから高い」の原則に従ったこの世界では、頑張った人が報われなくなっていることが事実として存在する。こんなに悔しいことはない。


「いしかわさん」というおじさんと山菜採りに行ったときの絵。

自分も山菜を採って売ることを生業にしようとしているけど、採れば採るほど1本の価値が下がっていくような原理原則のもとでは、全くやる気がおこらないし、そもそもやろうと思わない。それなら最初からゼロでいい。山菜を採ること自体に楽しみがあるので、その楽しみだけで十分だ。
でも仕事としてやるのであれば、モチベーションが必要だし、お金というのはモチベーションの源泉の一つだ。それだけは切っても切り離せない。だからこそ1本収穫するごとに、値段が安くなっていくイメージでは続けられないと僕は思う。


どうすればいいんだろうか?
みんながみんな自分のお客さんを作って、間に大量購入する業者さんを入れないようにする。そしてそのお客さんに毎年買ってもらって、必要な分だけ作るようにする。それは可能なのか?
業者さんが「少ないから高い」の原則から抜け出して、「いいから高い」の原則で買えるようになったらどうなるのだろうか?「いい」ってなんだろう?って話になるし、それはとっても難しい話になってくる。そして大量の農家さんを相手にいちいち「いい」を判断するのはとても時間がかかるし、現実的ではなさそうだ。

客観的な「いい」は判断するのが難しいので「少ない」というシンプルな価値を「経済的な価値」として考えたのだろう。わかりやすいし、部分的にはそれで合っている部分もあるのかもしれない。でもその原理原則のおかげでおかしなことになっている業界は多数存在しそうだ。そしてそのおかしなことを変えていかなければ、誰も作って売ろう、となんてしなくなるんじゃないか、って育てるのが苦手な僕は思う。ほんとうに野菜作るのって手間なんだもん。農家さんとか、家庭菜園をしている人めちゃくちゃすごいのだ。
僕がこんな場所で嘆いたところで何も変わらないのはわかっているけれど、同じ地球に生きている人間として、頑張った人が報われないというのは悔しい。どうにかなんないのかなあ。

と、なんだか愚痴のようになってしまった。
当たり前になってしまって、みんなが問題提起すら起こさないようなことは、いろんな業界のあちらこちらであるんだろうと思う。システムが出来上がっていればいるほど、もう後には引き返せなくなって、さらに誰も声を上げられなくなるという悪循環もある。自分はできればその循環の中に入らずに、のらりくらりと生きていきたい。その問題を解決できる気はしないけど、どんな社会の中でも、生きていける何かを身につけたいっす。そんでちょっとしんどそうな人を助けられたら最高ですよね。いまは僕が助けられている立場だけれど・・・。

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