見出し画像

憎き雪

完全に雪に飽きた。もう見たくもないし触りたくもない。それでも雪は降ってくる。降ってきた雪はかかないといけない。なんでかかないといけないか、家が埋まるから。隣の家には人が住んでいない。だから週末はほぼ必ず親族の方が雪をおろしにやってくる。壊せばいいのにと思うけれど、壊すのにも数百万かかってしまう。僕はここで生きているので、毎日せっせと雪をかいておけばそこまで大変でもない。毎日30分から〜1時間くらい、雪をかき続ければとりあえず家の出入りや、郵便局員の方、そして灯油を汲みにきてくれる方が困らない程度にはなる。少しでもサボると雪は固まって重くなる。重くなると雪かきがさらに億劫になる。たまにそんな感じになることもある。でも基本的にはそれなりに頑張っているほうだ。

でも飽きた。もういい。やりたくない。どんだけ降るんだ。この気持ちが強くなり過ぎて、どうしようかなと思った。我慢してやり続けるか、それとも。
そうだ、もう捨てるのをやめて1箇所に集めよう。そして大きなかまくらを作ろう、と思いついた。それが完成したら、かまくらの中で市場を開いて、人に来てもらおう。まじで小学生みたいなことを考えて、ワクワクしながら寝た。寝て起きて、昨日の俺のアホさを笑った。

起きてすぐ雪かきをした。いつもなら捨てる雪をひとつにまとめている自分がいる。アホな自分の言うことを聞いてみたくなった。どうせ捨てるくらいなら今日から降ってきた雪全部ここにためてやる。そう思ったら、不思議なことに雪かきがめちゃくちゃたのしくなってきた。

1時間ほどで、いつもかいている雪は回収し尽くした。いつもならそれで家に戻り、コーヒーでも飲むところなのだけど、僕の心はまだ燃えている。まだあるじゃないか、と固くなって取りづらい雪までかきはじめた。そんな感じで、かまくらをせこせこと作り上げていく。

そんなふうにやっていると、隣の隣に住んでいるじいさんが除雪機を持って僕の家の方まできた。遠くから僕が何をしているのか分かったのだろう。何も言うなという顔で、固くなった雪壁を除雪車で壊し始める。そしてその壊した雪を、僕のかまくらの上に投げてくれた。

まじでかっこいいじいさん。大好き。
何も言わずとも俺の意図を汲んでくれるところとか、まじ好き。


最終的にたまった雪。これからさらに大きくなっていくだろう。

このじいさんの手伝いもあって、1日でけっこうな大きさの山になった。すごいなーこんなにでっかくなるのか。とりあえず30日間、雪は捨てずにこのかまくらに積もらせていく。30日でどれくらい大きくなるか乞うご期待。

・・・

うちの妻が週末、この家にやってきてくれる。妻の実家のほうではあまり雪は積もっていないみたいで、雪をみて結構はしゃいでくれる。それを見て「僕も最初はそんなふうにはしゃげていたのだよな」と思って悲しくなる。僕にはこの白い物体は、醜さの塊のように見える。いらつくのだ。いつまでも降りやがって、と。
妻が一度、雪かきしよう、と家を出て行って(僕は気分が乗らなかったので家でじっとしていた。)、しばらくするとかまくらを掘っていた。それはいいね、と僕もかまくら掘りを手伝った。雪を移動しているだけなので、正確には雪かきではないのだけど、でもかかなければならないポイントの雪はしっかりどけているし、これでも全然雪かきになるのだと思った。何よりたのしい。なるほどこうやって楽しめばいいんだな、とそのときに気づいたはいいけれど、普段一人の時にそんな遊びみたいなことをやる気にもなれず、粛々と雪を捨てていた。

「そんな遊びみたいなこと」と書いたけれど、僕は「そんな遊びみたいなこと」で生きていきたい。人から見たらふざけて見られたり、真面目に働けよ、って思われるかもしれないやり方で生きていきたい。なのにやってなかった。なんでだよって感じだけど、それをやるにはかなり大きめの勇気が必要になってくるのだ。馬鹿にされても気にせず、怒られても気にせず、蔑まれても気にしない、強い心が。心が弱っていると、周りに合わせるのが普通になってくる。考える隙間すらない。そうなると、どんどん周りの目(あるいは自分の目)が濃く強くなってくる。

これに近い話で、今日までの自分はちょっと忙しいふりをしていたような気がする。なんか働いてないと、怒られるし、馬鹿にされるし、蔑まれる。とりあえずなんかやってないと、みたいな感じで何かをやり続けてはきた。でも、それが第一優先ではないのかもしれない。僕はもっと我儘になってもいい。どうせあと1年で何も結果を出せなかったらやめないといけないのだから、忙しいふりをして時間を食い潰している場合ではないのだ。マイナスにはマイナスを掛けてプラスにする。そんなことやるやつおらんだろってことをやる。怒られてもいいから好きにやる。これくらい鼓舞しないとすぐ折れるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?