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保険適用になった今こそ知っておくべき!高度不妊治療であなたが失う17の宝物【3】お金

避けては通れない「お金」のハナシ

高度不妊治療で失うもの――最もわかりやすく、そしてダメージの大きなものが「お金」です。

本書を読んでくださっている方であれば、ある程度の情報は調べられていると思いますが、高度不妊治療には想像を絶する額のお金が必要になります。

体外受精または顕微授精にステップアップする場合、ほとんどのクリニックが説明会を実施するか、工程・金額などの情報をまとめた冊子を準備するでしょう。

それを見ると、「採卵1回:20万円」と記載されていて、「あれ、想像していたよりはまだましかも」なんて思うこともあると思います。

しかし、実際には、顕微授精であれば50万円程度、高ければ70万円程度かかることもあります。

高度不妊治療は、結局のところ「やること」が多く、採卵から受精、培養から凍結、融解から移植という複数のステップが「1セット」で進められていきます。

上記の「採卵1回:20万円」は、採卵という処置のみの価格であり、それ以外の工程の費用が数万円、数十万円の単位であれよあれよと加算されていきます。

採卵時に採れた卵の数や、受精した後に順調に培養が進み、最終的に凍結できた卵の数によってもその額は前後します。

採卵にいたるまでに使用した薬の種類、処方回数も大きく影響します。

例えば、自己注射は1本で2万円程度(これを1周期に2~5回打ちます)しますし、飲み薬も並行して服用します。

それがすべて加算されると、50万円なんてあっという間に消えていきます。

採卵の工程だけで終わってしまった場合(つまり、採卵したけれども移植できるレベルまで卵が育たなかった、またはそもそも卵が採れなかった)は、採卵費用のみになります。私が通院していたクリニックでは30万円~35万円の費用になりました。

ただ、この点は2022年4月からの保険適用により、負担が大幅に軽減されました。
本当に素晴らしい施策だと思います。

とはいえ、対象外になってしまう内容も非常に多いのが現実です。
実際に、私はPGT-Aという着床前診断にチャレンジして、やっと、初めて妊娠することができました。

例えばこの着床前診断をとっても、卵1つあたり10万円以上かかります。

染色体関連の検査を受け、卵を選別し、オプションをつけて移植まで進むと50~60万円かかることも珍しくありません。

それでも着床しない場合は一瞬にして「またゼロから」ということになります。
冷静に考えると「ウン十万の金額をかけたのに収穫ゼロ」ということになり、次の周期ではまたゼロから始めないといけないということになります。

そうです。不妊治療の非情なところはまさにここなのです。
どれだけお金をかけても、時間をかけても、結果がダメであればまたゼロから。

「あれだけやったのだから、次は少し進んだところから」
「これだけやってきたのだから、次の成功率は少し上がる」

ということが、一切ないということです。神様は非情だなと、心底感じていました。

とはいえ、不妊治療も医療行為です。
お金という対価がなければ、どれだけ素晴らしい心を持っていても、どれだけ親になるのにふさわしい人でも、どれだけ子どもが欲しいと願っている人でも、不妊治療という医療行為を受けることはできません。

シビアな言い方をすると、お金でその「チャンス」を買わなければいけません。お金がなければ買えません。これが現実です。

今、高度不妊治療にステップアップするか迷っているあなたは、この現実を少なからず受け入れているはずです。とはいえ、その金額に大きな不安を抱いているのではないでしょうか。

保険適用は、基本的に助成対象は43歳までで、回数は6回までという制限が設けられています。

「この範囲内でおさまれば、もうけもの」
これが私の正直な感想です。

高度不妊治療を始めたときに、誰しもが思うこと――「これで妊娠できるだろう」
それだけ期待感が大きいのです。

そして、そのためならウン十万円も支払う価値がある。そう思ってステップアップを決断するのです。

誰しもが思います。
「1回で授からなくとも、4~5回やればさすがに結果は出るだろう――」

わかります。私もそうでしたから。

問題なのは、そうでなかった場合です。

私は結果的に採卵11回、移植8回に至り、治療費は合計で500万円程度かかりました。

「せめて助成回数である6回以内に……」

ここが覆されたとき、経済的負担はいよいよ想像を絶するものになります。
そして、回数を重ねるたびにじわりじわりとやってくる精神的負担は…… 経験した者にしかわからないと断言できます。

「不妊治療がここまで長くなるとは思わなかった」

とにかく、とにかく疲弊します。

毎月、20万円、30万円と引き落としがあると、さすがに病んできますよ。
1、2回ならまだしも、5回を超えると精神的に追い詰められてきますね。

そうなるともう、不妊治療を続けるかどうするかという話し合いになります。
当然ながら、夫婦の財力も大きく関係してきます。
中には「お金ならいくらでもある」という方もいらっしゃると思いますが、ここでは経済的に明らかな負担になることを前提にお話しします。

不妊治療で難しいのは、いつ結果が出るかなんて誰にもわからない、自分たちで予測が立てられないということです。

この前提のもと、「お金」に関して手立てを打つこと自体、非常に難しいことです。

そんな中でも、できることはあります。
具体的には2つの側面で事前準備ができます。

ポイントは「最初のクリニック選択」と「お金の管理方法」

1つは、不妊治療の費用総額をできるだけ少なくなるように、最初から動くこと。
もう1つは、高額の支払いが継続するストレスをできるだけ軽減する措置を取ることです。

まずは、前者から説明します。
これはクリニックの選択がキーとなります。

結論からお話しすると、「価格ラインが多少高くても、実績のあるクリニック(有名なクリニック)を最初から選ぶべき」です。

体外受精・顕微授精を行えるクリニックは現在、そこら中にあります。よほど評判が悪いクリニックを除けば、結果はどこでも同じという印象はありませんか?

私はありました。

採卵して、受精させて、培養して、凍結する。
どのクリニックでも基本的に同じ工程をふむので、結果に関しても大差ないだろうと。

しかし、これが大きな間違いなのです。

高度不妊治療は、そのクリニックのラボ(培養室)の実力で結果に驚くほどの差が出てきます。
使用している設備、受精時の作業方法、培養液、そして何より培養士の腕。これ、本当に差が出ます。信じられないほど。

私の経験をお話しします。

私は高度不妊治療にステップアップした後、とあるクリニックで2回採卵して5回移植しました。

そこでずっと苦しんでいたのが、「採卵で卵は採れるし、受精もするけれど胚盤胞まで進まない」でした。胚盤胞率が極端に低かったのです。珍しいパターンだといわれました。

そこは、千葉の有名なクリニックで実績をあげていた先生が独立してオープンさせた、比較的新しいクリニックでした。自宅からも近かったですし、その先生も非常に有名な方だったため、そこで間違いないと思って治療を進めていました。
当然ですが、そのクリニックで実際に妊娠する方もいらっしゃいました。

ただ、私の場合は最終的に「箸にも棒にもかからない」という結果に終わってしまいました。
1回目の採卵では卵が17個採れても胚盤胞には1つもならず。保険で凍結した初期胚1つを戻すも着床せず。2回目も15個ほど卵が採れましたが、胚盤胞になったのはたったの1つだけ。保険で凍結していた初期胚3つを合わせて4回移植しましたが、結局のところ着床することはありませんでした。

結果、そのクリニックでは妊娠することなく、「不妊治療最後の砦」といわれる加藤レディスクリニック(以下、KLC)に転院しました。

KLCは低刺激を基本としているクリニックなので、一度に採卵する卵の数は2~3個と比較的少なくなります。なので、今までの傾向からするとさらに時間がかかってしまうのではという一抹の不安もありました。なにせ、前のクリニックで胚盤胞になったのなんて35個採れて1つだけ……。

しかし、です。

KLCでは胚盤胞率が格段に上がりました。

全体のデータと比較すると、胚盤胞まで到達する割合はやはり「低い」という現実はありました。が、採れた卵に対する割合は採卵をくり返すたびに確実に上がっていきました。

具体的には、採卵7~8個あたりに1つ程度、胚盤胞まで到達しました。前のクリニックと比較すると格段に上がっています。

ただ、「採卵しても凍結できなかった」ということも何度も経験していますので、その部分ではKLCに転院後も非常に苦労しました。(試行錯誤でした)

移植まではなかなか到達できませんでしたが、「妊娠できる確率が高い、いわゆる質の高い卵を戻す」という明確な指針がありましたので、前のクリニックでは5回移植しても結果が出なかったものの、KLCでは一転、2回目の移植で妊娠することができました。

最初からKLCを選んでおけば、トータルの費用ももう少し少なく済んだと思います。

不妊治療の過程で患者が直接やり取りするのは先生が圧倒的に多く、培養士と接する機会は普通あまりないのですが、KLCは採卵後に培養士との面談があります。治療を数周期くり返すうちに、「このクリニックは培養士の腕がほかとは違うな」というのを感じるようになってきました。

「そりゃ、実績もともなってくるわ……」

これが私のKLCに対する評価です。通院されている方で、そう感じている方も多いと思います。

このような、いわゆる大手で、歴史があり、有名で実績もともなっているクリニックは、各エリアに存在しています。治療方針や、患者に合う・合わないはあると思いますが、「しっかりと結果を出してくれるクリニック」を選ぶことは非常に大事です。

「悪くなさそう」で選ぶのではなく、「実績がずば抜けているクリニック」を最初から狙い撃ちで選択すること――これは声を大にしてお伝えしたいです。

そうすることで、結果的に妊娠への近道となり、高度不妊治療の期間そのものの短縮につなげることができます。

ただ、移植しても残念ながら着床しないことはよくあることです。

先ほど少し触れましたが、原因の1つに「染色体異常」があります。

染色体異常の卵だと、いくらグレードがよくても、遅かれ早かれ流産してしまいます。現在の医療だと、染色体異常を改善できる治療や薬はありません。そうなる原因もまだ明らかにされていません。

私は1つ目のクリニックで「ここまで胚盤胞にならないのは、もしかしたら染色体に何かしらの異常があるかもしれない」といわれました。まったく着床しないのもそのためでは?という見解でした。

そこで、染色体異常の卵を「選別」できるPGT-Aができるクリニックの1つとして、KLCへの転院をすすめられました。※すべてのクリニックが対応しているとは限りませんし、実施にはさまざまな条件・審査がありますので、気になる方はご自身のクリニックで確認してください。

私たち夫婦はPGT-Aを目的としてKLCに転院したといっても過言ではありません。

PGT-Aで染色体異常と出た卵を戻さないことで流産を回避できます。この部分は本当に大きいですよね。

さらに、あえて経済的な観点でメリットをお伝えすると、「移植しても最後(妊娠・出産)までいかない卵」を移植してしまうということを避けることで、「結果につながらない移植費用」を抑えることができるというメリットがあります。

PGT-Aは経済面でも貢献度が高いのです。
しかし、ここもいわゆる大手でしか取り扱っていないということがよくあります。その点でも、しっかりとした実績があり、大手で、さまざまな選択肢があるクリニックを最初から選択するということが、高度不妊治療の経済的負担に大きく影響してくるといえます。

以上、「不妊治療の費用総額をできるだけ少なくなるように、最初から動くこと」について解説させていただきました。

もう1つの「高額の支払いが継続するストレスをできるだけ軽減する措置を取ること」について、私が有効だと感じた策をシェアさせていただきます。

少し古典的な方法ですが、「お金の流れを見えなくする」ということです。

具体的に説明しますね。

まず、夫婦でしっかりと相談して、「これだけ使おう」というラインを予め決めておくことをおすすめします。

次に、その額(ある程度まとまった額になると思います)を別の通帳または普段あまり使っていない通帳に移します。

そして、新しいカードまたは普段あまり使っていないカードを不妊治療専用のクレジットカードとして、その通帳にひも付けるのです。

少々面倒ですが、下記のようなメリットがあります。

  • 普段よく目にするお金の流れとは別の場所で管理することにより、その金額の大きさに目がくらむ回数自体を減らす

  • 毎月、驚くほどの金額が引き落とされる現実から目をそらす(会計するのは自分なので、「今回いくらかかった」というのは嫌でもわかります。ストレスはその1回で十分です。)

  • 不妊治療は別の財布にすることで、追加する必要があるか否かをわかりやすく相談できる

普段の生活費や自身の買い物で使用している通帳やクレジットカードと一緒にすると、「引き落としの額がただただ増えた」ことだけに異常に目がいくようになり、それが毎月続くとなると相当なストレスになります。

毎回、しっかり確認できてしまうことで、逆にストレスになってしまうということです。不妊治療専用の通帳にある程度の額が入っている――そうであれば、毎回「目についてしまう」ということで発生するストレスは削減すべきです。

可視化されることによるストレスを、逆のアプローチ(見えなくすること)で回避するという方法です。

ぜひ参考にしてください。

以上とまとめると、最もわかりやすい宝物「お金」を守るために、
「価格ラインが多少高くても、実績のあるクリニック(有名なクリニック)を最初から選ぶ」
「普段使用している通帳、クレジットカードとは別の流れでお金を管理する」
の2点を意識されると、経済的要因からくるストレスを軽減させることができます。

保険適用とその代償

2022年4月から、高度不妊治療が保険適用になりました。
これは非常に大きな変化であり、さまざまな方の選択肢を広げる素晴らしい策といえます。この回で述べた「経済的な負担」がぐっと軽減されますね。
一方で、逆にいうと、「経済的な負担」この部分しかカバーされないものです。

「経済的な負担」という壁が大幅に下がることで高度不妊治療にチャレンジできる人が増えるのは素晴らしいことです。

しかし、それでほぼ解決したと勘違いして、お金以外の宝物に目を向けないで高度不妊治療を初めてしまうと、「想像以上に痛い目を見ることになる」と経験者としてお伝えしたいです。

高度不妊治療って、それだけ「失われるもの」が多いのです。悲しいですが……。

前半の3回では、高度不妊治療であなたが失う宝物として、「時間」「体調」「お金」について解説してきました。

よくいわれる「不妊治療3大負担」ですね。

さて、ここからは本題に入っていきます。あなたが失う宝物、まだまだあります。
次の章からは経験者でしか実感することができない、よりリアルな内容で解説していきます。

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