石田尚志、ライブ・ドローイングの興奮
2015年5月5日
横浜美術館の池との間の前庭は、3人のアーティストのライブ・ドローイングのために20m角に白いビニールシートで切り取られ、それが美術館の影でくっきりと半分に割られている。パフォーマンスの中心は美術館で大規模な個展を開催中の画家であり映像作家の石田尚志(たかし)。石田のためにV字のロードがロールペーパーでつくられている。
0 JUN、小林正人の2人の画家は、急遽石田から参加を要請されたのではないか(チラシには載っていない)。小林はしばらく前から、3m近い丸太、黄色い大きな帆布と格闘しながら気迫のこもった準備をしている。3台のカメラ、電子ピアノ、ゴールデンウィークの陽射し、開始20分前に縁に座ってこの様子をみている50人ほどのコアな人たち。自分自身にライブのスイッチがはいるのを感じた。
開始の14時。石田の弟、マサシが弾くバッハとともに、3人がパフォーマンスにはいる。石田は、この3次元からさらに深い次元へと自分自身をリープさせるように踊りながら、長柄のスポンジをロールさせ、インク色のペンキでV字ロードに描いていく。5分も立たない内にメガネが飛び、先端のスポンジも飛んだ。
すると、池の縁に2色のチョークで有機的な文様を描き、熊手を池の水につけてゴシゴシとこする。池の中にロールペーパーを敷きだし、それを丸めて山にする。いつの間にか、バッハは強い風の音に変わっている。
害虫駆除消毒用ポンプを手動しながら絵の具をまき散らす。這いずり回りながら全身で描く。目と手と足が触覚のようにのびて、自在に5〜10mのおおきな「さかな」と「トリ」のようなものを2匹づつ描いた。
ここまで20〜25分ぐらい。小林は3mちかい丸太を三角形に組み、黄色の帆布でキャンバスをつくり、白い馬を描く。その真ん中を裂く音がしてびっくりしてそちらに目を移す。切り取られたもう一つの三角形はその馬の生命そのものを取り出したかのようだ。
大柄の0 JUNは1.8m角のキャンバス3枚を線画で仕上げると、真ん中で、50cmほどの奇妙なセメントの塊を出した。バケツをひっくり返したような形。絵付けされており、作品であると思われた。中空になっているが、とても重たい。(後から聞いたが、40kg以上あるという。)音楽が止まり、無音だ。
5分は向き合っていたが、突然それをかぶって、ビニールシートの上を小さな歩幅で歩き出した。石田がビデオで撮影しながら誘導するように寄り添っている。バッハが重なり「作品の重さ」に耐えることを、観る側にも課しているようなパフォーマンスだった。
開始から40分。石田が終了を宣言。縁で観ていたひと達に「中にはいっていいです。」とのアナウンス。100人ちかい観客もまたライブをつくった構成員だ。だれも帰らない。興奮がさめない人たちとともに、作品をなぞっていく。コンサートを聴いたあと、余韻を共有する人たちと、ホワイエでくつろいでいるような気持ちの良さだった。この20分もライブ・ドローイングの一部であると感じた。
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