奈良大芸術祭CM

トーチカ、土地の神様に捧げるダンス

2014年7月30日

原点とは、だれにも侵入されず、そこに触れると心針が振れ、その時の感謝の気持ちがよみがえるようなものだと思う。

私の場合は、7月末「PIKA PIKA」との出会いがある。ペンライトパフォーマンスのアーティストのトーチカ(ナガタさん、カズエさん)のアートプロジェクトである。承諾を得る前に押しかけて待ち、帰れなくたったから泊めてもらう、という迷惑極まりない行動で、奈良県大芸術祭のCMイベントの映像製作現場におじゃました。この日トーチカの二人が選んだ場所は、奈良県でも三重に近い山奥の室生芸術の森である。国際的彫刻家ダニ・カラバンが5つの作品を中心として、周囲の山々も取り込んだ壮大なランドスケープを創造している。公園全体で入場者は私一人である。公園管理者曽良さんと仲良くなり、午後5時からトーチカと打合せすること、曽良さんも撮影に協力すること、奈良県や市からも職員が応援にくることなどがわかった。撮影は当然夜。定刻どおりトーチカの2人とナガタさんの教え子たちが到着し、自動車の屋根に撮影機器をセッティングしはじめる。19時丁度に十数人の若いお母さん子どもたちが集まった。曽良さんはじめ行政マン3人と私もそのなかに入る。

アートプロジェクトはシンボルツリーから地上に掘られた水路で伸びてくるダニ・カラバンの渦巻きの彫刻の上で行われる。渦巻きの中心から奈良大芸術祭の「光の大の字」が生まれて次第に渦巻きにそって広がっていくイメージを提示される。みんなで練習した様子を撮影して、「こんな感じ」といってパソコン画面をみせてくれる。10余りの光る文字が動いているのをみてやる気になる。21時まで2時間、うずまきの彫刻の上を半歩づつすすんで様々な大の字をおへその前、みぞおちの前、あごの前というように連続するように空中に描いていく。一番小さな女の子は小学生のお兄さんが彼女の人型を後ろからペンライトで描く。すると太くて小さな大の字が動く映像となっていく。100回以上ペンライトで書いた。びっちりやった残像をつなぎ合わせて5秒ほどの作品ができあがる。パソコン画面をまたみんなで頭を寄せて見る。空中に描くのは手ごたえがなくとても頼りないのに、みんなで努力した結果ちゃんとトーチカのアートになっている。真っ暗で静かな闇にむかって「やった」と叫びたくなる。この瞬間なんてステキなんだ。

ダニ・カラバンの創造した森は昼間は深く眠っているように思えた。山の霊力を静かに集め、室生という霊場の力を表現したダニ・カラバンを、トーチカのペンライトパフォーマンスが夜の森の中に眠りから醒めさせ、くっきりと立上げてみせた。それは私にとって発見だった。

トーチカのアートプロジェクトは・・ライブである、撮りたての映像を共有しながら進める共同作業である、遊びである、ダンスである、夜のプロジェクトである、非日常である、経験、国籍や年齢や性別に関係なく極めてバリアフリーである、子どもを含めみんなが主役になれる、そして室生という霊場にがっちりと食い込んでいるダニ・カラバンを最高に活かすプロジェクトであった。トーチカは、映像作品においてだけでなく、その場所の力を解放するという2重の意味でのアーティストなのである。

HAPSスタジオ(東山アーティスツ・プレイスメント・サービス実行委員会が運営しているアーティスト・イン・レジデンス)を案内してくれトーチカに会う機会をくれたHAPSの芦立事務局長、芦立さんにお願いしてくれた及位マネージャー、ダニ・カラバンを語りトーチカの到着まで居場所を確保してくれた公園管理者曽良さん、泊めていただいた家の真の借主、映像アーティストの吉濱さん、そして参加を迷惑がらずに認めてくれたナガタさん、カズエさん…多くの方にお世話になって室生芸術の森のダニ・カラバンとトーチカのアートプロジェクトに会うことができました。

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