ノイズとアート
日経新聞に「適度な『ノイズ』は効率アップ」という記事がのった(2015年5月24日)。ここでいう「ノイズ」は、内側から発生するノイズと外から加わってくるノイズがある。
内側からくるノイズ。ある集団、例えばアリやライオンが、最短の時間でターゲットを獲得しようとするとき、状況に応じ適切な割合で、ランダムに動く個体(ノイズ)を発生させる。二つのエサどおしが遠くにある場合、真面目アリと気まぐれアリ(ノイズ)が半々の集団が最速となる(広島大学西森拓教授)。
1万人のホールから避難するとき、出口に殺到するとかえって支障がでる。すぐに動かない人、避難口と逆方向に進む人(これがノイズ)が2割のとき、一番効率よく全員が避難できる。最短時間で目的地に誘導するカーナビ情報にみんなが従うと、かえって渋滞を起こす。正確な交通情報を3割の人に流し、7割がランダムな運転(これがノイズ)をした場合に、渋滞が起きにくくなる(東京大学西成活裕教授)など。
外側から加わるノイズ。弱い信号、例えば遠くの星が発している弱い光に、不規則に変化するノイズが適切なレヴェルで加わることで、いままで見えなかった特徴があぶり出される現象が起こる。
これらのノイズの例は、規則正しく動く個体の中に、ランダムに動く個体(ノイズ)を適度に発生させたり、感知できない弱い信号に、適切なノイズを加えることで、ターゲットをとらえる確率を高める現象を示しており、これらを『確率共鳴』と呼ぶそうだ。
ノイズがもつ確率共鳴を起こす役割を考えるとき、アートやアートプロジェクトが、私に果たしている役割も「確率共鳴」なのでは、と思えてくる。
アーティストは、問いかけをし、ポジションを逆転させ、いま立っているレイヤーに孔をあけ、別のレイヤーを提示したりする。それが、いつもとは違うランダムなノイズとなって、私の深い奥から聞こえてくる、かすかな信号を意識に上らせる。ノイズが適切となるように、コミュニケーションしながら仕込んでいくのがアートプロジェクト、違和感をもつ作品として固定されればコンテンポラリーアートと定義できるかもしれない。(2015年5月26日)
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