「私があなたにTURNする」

この言葉からドミニク・チェンさんは思考とトークを始める。「シンギュラリティ:人工知能から超知能へ」の翻訳者で情報学研究者、縦横無尽な論客、ドミニク・チェンさん(1981 年生まれ)を触発し、でてきた言葉たちをいくつかに分類して見出しをつけて紹介する。(「私があなたにTURNする7日間」日比野克彦と多彩なゲストを迎えたトークシリーズ・平成28年6月17日(金)〜23日(木)19時アーツ千代田3331ROOM302)

【私のなかに複数の人が存在するからあなたにTURNする】        ◎ジルベルト・ジルの言葉(ミュージシャン・当時ブラジルの文化大臣だった彼の言葉をカンファランスでドミニクさんは直に聞いたそうです。)     わたしはアフリカ人である、わたしは男である、・・・・わたしは女である、私は白人である、・・・・◎古代の神々。ひとつの神の中に矛盾する様々な存在が共存していた。清と濁、創造と破壊、清廉と娼婦(シュメール神話の女神イナンナの話)

【人ははじめから生と死を与えられている。生まれたときからもっている生命情報で私はあなたにTURNする】                    ◎情報を機械情報、社会情報、生命情報と分けてみる。それを、うつり変わり変化しつづけるもの、社会化された共有されるメッセージ、非言語的な身体価値としてみる。ドミニクさんは「以心伝心」の瞬間に生命情報があるのではと感じるそうだ。◎生命情報の一例として・・・カニをみてなぜ生き物と直感できるのだろうか。関節など、パターンとパターンを接続するパターンが自らと相似しているから。(接続するパターンを「情報」と定義する研究者の授業を例に引いて。)

【生命情報の解像度を上げて、私はあなたにTURNする】         ◎ドミニクさんは民族でいえば日本、中国、台湾、ベトナム、文化でいえばフランスとアメリカ、国籍はフランス。「何人」といわれてもはっきりしない。アメリカのサイト23andme.comは、尿の分析からその人の構成割合—ヨーロッパ系、アフリカ系、アジ系、○○系が何%なのかをグラフ化する。解像度を上げれば、単一民族なんて存在しないし、複数の血が混じり合って今の私たちがあることがわかる。◎リレーコラム20万分の1のプロポーザル(東京オリンピック開催させる時期に合わせて実施したいアートプロジェクトのプロポーザル)の中で、国籍で選手を分けるのはおかしい、と書いた。

【相手に合わせるのではなく、ズラしながら呼応することでTURNする】   ドミニクさんは謡を最近始められた。その中でおもしろいのがハクを相手に合わせてはいけない、といわれることだ。ズラす。音程も低、中、高と上がって、次に下がっても元にはもどらない。そのようにして相手のハクを際立たせながら豊かな世界をつくっていく。

【媒介者をみつけることで私はあなたにTURNする—日比野克彦さん】   ◎瀬戸内海の海底20m。堆積と濁りで暗い世界。そこに100年前に沈没した船があり、積載していたレンガが海底に散らばっている。レンガを手で持ったときのフワッと海底でチリが舞う臨場感、どこに運ばれて、どのような建物になったのだろうかという想い、30分でボンベの空気が切れるという生命の危機感、海の上に顔を出した時に船上から「カッ、カッ」という明るい笑い声とのギャップ、などの臨場感、臨床的な体験をどのように人につたえられるか・・・・◎日比野さんが岐阜県立美術館で展開している「ナンヤローネプロジェクト」。作品の前に大、小、テクスチャーも違う石ころや布、綿、ネジ・ボルトなどを置いておき、自分が作品感から感じたものに近いものを箱にいれていく。それらを媒介にして「感じている自分を発見するプロジェクト」(2016年6月14日〜10月27日)である。

TURNという言葉はまだ定義されていない。人によって定義が違うといってもいい。それを「私があなたのTURNする」という言葉からスタートして、ドミニク・チェンさんと日比野克彦さんが触発し合いながら深く掘っていく意欲的なトークだった。







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