リー・ミンウェイ、こころが開く魔術

2014年11月7日

「ギャラリー内で花を差し上げます。帰りは別の道を通って知らない人に渡してください。」45cm程の長い茎の赤や黄色の色とりどりのガーベラ200本以上が15m程の小川から選べるようになっている。森美術館、リー・ミンウェイとその関係展「The Moving Garden」の部屋だ。

そんなことができるだろうか・・・と思ったが、自分の気持ちに何がおきるか興味があった。展覧会を一巡し、引き返してお目当ての花を一本とってみた。その途端に心が開きっぱなしになる。花をもったもの同士、目があった。リー・ミンウェイのインタビューの中で「オープンなこころで来てください。あなたがどう変わるのか、感じてください・・」とあった。森美術館からでて長いガーベラの花を右手にもって六本木ヒルズの街を歩く。美術館の外にでたのにこころは開いたままで、誰かに語りかけたくなるような、道を尋ねるときのような気持ちで胸が一杯になってくる。屋台の前の小さなテーブルで乳母車を止めて談笑している女性に手渡した。「これをもらってもらえますか。リー・ミンウェイ展で・・・」「誰かに渡すことになっているのです。」「あぁ。」といって怪訝な顔が笑顔になった。「よかったね。」と隣に座っている女性がいってくれる。なにか幸福な気持ちをこちらがもらった。

リー・ミンウェイのリーレーショナル・アートは、話す、贈る、書く、食べる、繕う、そして眠りにつく、といった日常の行為が、こころを動かしていけば、人とつながる機会に満ちている、と教えてくれる。美術館にはいると「プロジェクト・繕う」に出会う。水色の日本手ぬぐいを用意しておいた。「お時間ありますか。ここに座ってください。」美術館の大きな壁からつながっている無数の糸の前でハンカチを繕っている女性が声をかけてくれる。「415番です。来年のこの期間に取りに来ていただけますか。」414枚の繕いものはすでに様々な糸によって壁につながれている。

次の部屋は模倣をテーマにしている。古い水墨画をアーティストに模倣してもらい、原画と一緒に次のアーティストにまわす。師匠に忠実であろうとする東洋と個性的であろうとする西洋のアーティストのリレーションから作品が生み出される。

「プロジェクト・ともに食す。」「プロジェクト・ともに眠る。」のそれぞれのコーナーには小さなくじ引きのカードが置いてある。居心地のよい2つのベットが置いてある空間には、いままで参加した人が残していった眠るとき必要で一緒にもってきたものが、順番に展示されている。閉館後の美術館内でリー・ミンウェイと1対1で語るとき、自分に何が起こり、どんなストーリーがうまれるだろうか。

「布の回想」は50cmほど上がった座敷に大中小3つの大きさの18の木箱が丁寧にひもで結わいてある。この中に誰かからだれかへ贈った手づくりのものが納めれれている。「作法」という言葉が浮かぶ。蓋を開けると小さなアップリケがでてきた。「小学校6年生の弟から受験勉強している高校3年生の私に贈られたものです。AOという文字は私がAO入試を第一志望していたから。矢印は合格に向かっての印です。2つの点は糸止めが前にでたものです。」目を少し熱くしながら丁寧に紐で結わい直し、次の箱にうつる。「この人形はお父さんがいない時期に一緒に食卓を囲んだ人形で、食べ物のにおいが染み付いているかもしれません・・・。」

「プロジェクト・手紙をつづる」はアーティストの手を離れ手動き出している。横浜トリエンナーレ、東京都現代美術館、資生堂ギャラリーなどですでに展示されている。「開封のままの手紙はここに来た人だれでもが読むことができ、糊で閉じものは毎日切手を貼って美術館から発送します。」誰にでも、に向けた手紙より、ある個人に宛てた手紙のほうがずっと深く自分の中にはいってくる。

リー・ミンウェイが「1対1という少数な人を相手にすることを「どうして?」とよく聞かれるが、20人にでも強く伝わることが大事。」と語っていた。最後の部屋からゆったりとしたメゾソプラノが聞こえてくる。歌っている彼女が美術館の中で見つけた特定のだれかにそこに座ってもらい「歌を贈る」プロジェクトである。個人に宛てた強い思いだからこそ、多くの人に伝わっていくというアートプロジェクトの本質の一つをみる思いがした。

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