としまアートステーションY、まち全体を使って大きな生活空間をつくる構想

2015年3月8日

東武東上線北池袋駅から5分、入り組んだ路地を通って山本山田荘につく。ここが、としまアートステーションYである。

山本さん山田さんご夫妻の「北池袋の中にまちとつながりがある場所をつくりたい」という思いと、としまアートステーション構想において雑司が谷につづく2番目の拠点をつくりたいという東京アートポイント計画の思いが一致した。山本山田さんは、共同トイレ、風呂なしの木賃アパートが共同機能分担して、まち全体が大きな生活空間となればおもしろい、と考えている。例えば、オフィス、まちの窓口、住む場所、図書室、飲み食いできる交流スペースというように。

「Y」のポジショニングを任されたのは水戸でアートセンターを立上げ活動しているアーティストの中崎透さん。スタッフと一緒につくった3.5kmのまち歩きコースもその一つ。アーティストの眼からみておもしろいと思うものがマッピングされている。16時からのこのまち歩きツアーに参加する。まちにでると2階玄関、階段脇に取り付けられた黄緑色の枠の掛け時計。「私は時間を守る人が好きです。」という情報発信?がされている。少し行くと、普通の表札の横にアパートの見取り図が張られ、そこに住んでいる住人の名前が書き込まれている。この町は匿名で住めないけど安全である、との確信が湧いてくる。一方「カメラは警察に預けました。」という小さいがかなりインパクトのある手書きの張り紙がある。これも住んでいる人の思いの情報発信である。町会が設置したユニークな標語板。赤字でかかれた肝心な文言が消失し、黒字部分だけが残る。これを「穴埋め問題」に見立てる。路地と一体に開放された庭に百鉢以上が並ぶ中央植物園。庭にしつらえた猫のたまり場、中央動物園。2階の物干し台に直接あがる階段も珍しいが、何らかの理由で入口が閉じられている。自分の生活の変化に合わせて境界を自在に変えていく。元々そこに住宅があったことを記す跡が周囲の建物にのこされている駐車場=「都市のかさぶた」。門扉の中に鳥居があり、それをくぐって玄関にはいる神聖と同居する家。ガラス面に張られた様々な手書きの紙。「大家さん募集中」「○○商事。電話ください。」

情報発信が極めて少なく堅く閉ざされたエリアもあるが、北池袋は、建物とまちの境界から、住んでいる人たちがまちを使う主体性、濃いつきあい、公と私の境界を大切にしていること、安全なまち、など、雄弁に発信している。

「Y」はまちの中につくった外に向って開かれた地点である。外にむかってほんの少し開いている地点を結びながら、住むことと、外の人を受け入れることの両方を追求していくと、まちの新陳代謝のバロメーターである若者が、低家賃でも住めるような楽しいまちに、山本山田さんが構想するまちに近づくのではないか、と感じられるツアーだった。

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